「製造技術」と「生産技術」|元トヨタマンの目

「製造技術」と「生産技術」|元トヨタマンの目

「製造技術」とは「いかにして作るか?」ということだ。

たとえば、次のようなイメージだ。

深絞りの品物を作るのに、どんな材料を使うか?

型はどんな形状にして、どれ位の荷重をかけ、どれ位のスピードで圧下するか?

品物の硬度を上げるために焼入れをするが、どれくらいの温度に加熱すればいのか?

急冷の方法は?

冷却液は何をつかうのか?

このようなことは、どんな工場の工場長さんや技術者に聞いても、ばっちり答えは返ってくる。

しかし、多くの会社の技術者の頭の中が、ここまでで終わっている。

 

実は、この上に、「速く、多く、安く作るのにはどうするか?」ということを考えなければならない。

これが「生産技術」だ。

端的に言うと、「生産リードタイムを最短化せよ」という命令に答える技術だ。

具体的には、次のことをする。

 

1.機械を工程順に一台ずつ近接して並べる:レイアウト変更による運搬の消滅

2.その機械間は1個ずつ流す:1個流し

3.全数の品質チェックを工程で行なう:ポカヨケ

4.機械ごとの加工時間を同じにして工程待ちをなくす:同期化

5.段取時間を短縮する:ロット縮小

 

このようなライン化は、「安全」にも配慮が可能になる。

「製造技術」のみの時代は、機種別配置のロット生産だったため、安全はスローガンを職場に貼ったりして、単に「注意せよ」ということだけを強調していた。

そのような状態では、もし作業者が怪我をした場合は”作業者の注意不足”ということで、責任は作業者に押し付けられた。

作業者にしてみれば、たまったものではない。

それが「生産技術」が動き出すことよってライン化が進み、光電管等によって機械の回転部に手が入ったような場合は、自動停止するような工夫も取り入れられるようになる。

またライン化により、作業者の作業内容がサイクリックになる。

これにより、作業の標準化が可能になる。

こうなれば、品質や安全を盛り込んだ標準作業票を掲示し、作業者にその指示通りの順番で作業をさせることにより、それらを担保できる。

機種別配置のロット生産の場合は、いろいろな作業がまちまちに発生して、標準化なんてできないのだ。

 

このように説明して多くのクライアントに実行を促してはいるが、そう簡単には進まない。

しかしこの「生産技術」をどんなことがあっても進めない限り、未来はない。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。