「制約」こそ改善の母|元トヨタマンの目

「制約」こそ改善の母|元トヨタマンの目

鉄道は365日運転している。

その鉄道の工事は終電車から始発電車の間に実施しなければならない。

詳しくは知らないが、相当のことをして対応しているのだろう。

このことは生産工場でも同じだ。

通常の待ったなしの生産活動の合間に、改善のためのレイアウト変更などをしなければならない。

その設備移転中の後工程への製品供給は事前に作りだめをしておいて、その在庫から供給するしかない。

したがってラインを停めなければならない時間はできるだけ短くないと、レイアウト変更など永久に実施できないことになりかねない。

できるだけライン停止時間を短くするために次のような工夫をしている。

 

移転に関係する工事を次の3つに分類する。

①正式移転の開始以前にあらかじめ工事をすることができるもの

 ・新規購入機械などあらかじめ据付が可能なもの
 ・電気の配線、エアー・水道・油等の配管であらかじめ工事ができるもの
 ・コンベアなどであらかじめ施工できるもの
 ・不要な機械、電気配線、配管等

②正式移転をしてしまってから、工事をすればよいもの

 ・移転後に不要になった機械設備、電気配線、配管等で移転の邪魔にならず、移転後の生産活動に邪魔にならないもの

③正式移転と同時に施工しなければならないこと

 ・あらかじめ通路をペンキで明示しておき、一時仮置きに使う
 ・移転する機械の新しい場所の輪郭と機械名称をペンキで書いておく
 ・取外し係、運搬係、基礎工事係、取付け係、電気配線係等の各作業係別の分単位の詳細なスケジュールを作成する。そのためには機械の型紙を使った図面での移転演習を必ず実施しなければならない。

 

このようにすれば、従来1週間もラインを停めてやっていたものを、たった1日ラインを停めるだけでできてしまったということもある。

結局、段取り改善とまったく同じで、「ラインを停める時間を最短にする」ということが発想の出発点なのだ。

 

今、某クライアント先では長々とラインを休止し、レイアウト変更をやっている。

ここは生産体制がトヨタ式以前の状態で、在庫だらけで、ラインをどれだけ停めようが痛くもかいくもなく、悠長なものだ。

トヨタ時代は、工場の生産管理課長で、ラインが停まらないか心配でいつも心臓がドキドキしていて、気の休まる時がなかった。

きついようだが、この緊張のピーンと張った糸が現場には絶対に必要なのだ。
なぜなら、ものづくり現場はへたをしたら人命に係わるような事故さえ起こるのだから。

 

某クライアント先の状態では、移転に際し、図上での事前演習などという発想は、頭の隅すらかすめないであろう。

これでは競争にならない。

結局、在庫が諸悪の根源であり、気の緩みを誘発して、安全、品質、原価のすべてに害毒を振りまく。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。