「ゴール」を読んで|元トヨタマンの目
前提条件を「あと3ヶ月しかない」としてネック工程への設備投資ができないとした。
結局、「現場の改善はなしでオペレーションだけでなんとかしよう」とした物語である。
<この工場の現状>
・各工程ではすべてロット生産を行なっている。
・ある機械加工工程では従来の個別加工機械を撤去してしまい、NCマシン(複数工程を1回のセットで加工してしまう)のみにしている。
・各工程の処理能力も把握されていない。
ということは毎月の生産数量決定は経験とカンで決めているのだろう。
・販売から来たオーダーをそのまま作っている感じ。
・各工程はその最大生産能力を発揮するような要員を配置している。
・段取改善もまったく行なわれていない。
これではほとんど無管理の状態といっていい。
このような状態で、やれ増産だ!、すぐ作れ!、いやこっちを作れ!などと現場にいろいろな要求をするから、作業者が組合をつくって自らを守るようになるのだ。
このようなひどい状態の現場に、トヨタ生産方式でいう「同期化」の発想を当て嵌めて、その混乱ぶりを小説にしたものだ。
したがって、無管理状態から、あるべき姿に向かう第一歩を踏み出した状況を、小説という形で大衆に知らしめるという点では画期的な作品だと思う。
しかしこれは文字通り「第一歩」であり、ここから10万歩も1000万歩も地道に歩いていかなければならない。
この物語の中での現場の改善は、「ネック工程の前に品質マンを配置した」ことと、「NCマシンの発想を否定し、1工程ごとの機械を持ってきたこと」だけであり、それ以外はオペレーションを変更しただけだ。
<変更されたオペレーション>
①まずネック工程を見つけ出す(あまりにも悠長な話で腹が立った。こんな管理者のもとでよく今まで存続できたものだ)。
②「ネック工程の能力」が「完成品の数量」となってしまうのだから、すべての工程は人や設備能力があっても、「ネック工程の能力」以上の生産はしないことにする。
③そうすれば人や設備が遊ぶことになるので、その人が遊ぶ分を段取替えに振り向けることにより、段取回数を増やす。そうすればその分、ロットを小さくできる。
④あとはコンピュータで各工程の仕掛け順位を決定する。
何しろ無管理の無法工場だったのだから、この程度で劇的な効果が出たわけだ。
<今後やるべきこと>
①機械間の運搬が極力少なくなるような、機械配置を検討し、レイアウト変更する。
②1つの加工が終ったら、それを次の工程の機械へ送りすぐ加工するようにする(1個流し)。
その際、前の機械での加工品質のチェックを作業者が行なってから作業にかかる(順次点検・・・品質の工程での造り込み)。
③人のチェックのみならず、ポカヨケを工夫して品質不良を発見する(品質の工程での造り込み)。
④品質不良を発見したら、そく前工程の作業者に連絡して加工をやめさせて、対策を打たせる(品質の工程での造り込み)。
⑤機械が加工を終ったら、機械が自動的に止まるようにリミットスイッチなどをつける。
そうすれば作業者は他の機械のオペレーションもできるようになり、多台持ちが可能となる。
⑥さらに加工中に不良が発生したら、機械が自らそれを感知して止まって、あんどんを点灯させて人を呼ぶようにする。
⑦段取改善は、段取専門チームをつくり、彼等に事前に準備できることはやっておいてもらう。そして機械が止まってしか出来ないことのみそのタイミングでやるようにする。
そうすれば機械の稼働時間を飛躍的に伸ばすことができる。
⑧販売からのバラバラのオーダーを整理し、1ヶ月ごとにまとめる。そして稼働日で割り、日当り生産数量も同じにする。
(物語では1年間まとめて決まった注文をもらい、計画生産するなどという方向性も出していたが、この変化の激しいご時勢に1年もまとめて発注をかけれる注文主があろうはずがない)
⑨さらに日当り生産数量を時間当たりでも均等になるようにする。こうすれば1日2回納入とか4回納入とか定期便を設定してもそれぞれに同じ荷量が載るようになる。
⑩このような体制が出来上がって、初めて「かんばん」を回転させることができる。
⑪さらに生産性評価体制をつくり、全体のスループットが円滑に流れているか毎月確認する(トヨタ式能率制度)
⑫さらに製造中にムダがないか、前期の平均に比べてどうなっているかをすべての費目で確認できるようになっている(トヨタ式製造予算管理)
*経理・財務の各種手法は工場へは一切適用しない。
⑬焼き入れ炉
日本のある砥石の焼き入れ工場を見学したことがあるが、従来はロットで焼く炉だったが、長いコンベアの上に1枚ずつ流して焼く炉を自社開発していた。
このような炉についても小ロット、1個流しの時代だ。