高度な技術開発をやらねばという固定観念を拭い去る

高度な技術開発をやらねばという固定観念を拭い去る

コア技術や付加価値を考える時に抱きがちな「高度な技術開発をやらねばいけない」という先入観を拭い去る。

現場に埋もれている、「属人的」「労働集約的」な強みを探す、という話です。

 

1.高度な技術開発をやらねばいけないという固定観念を捨てる

当社のお客様への問い掛けでは、次の2つが柱となります。

「現場から生み出される付加価値は何ですか?」

「自社工場のコア技術はなんですか?」

儲ける工場経営では、重要な論点であると考えるからです。

 

経営者の方が意識しようと意識しまいとコア技術は、現場にしっかり定着しています。

さらに、現場もそれを無意識にブラシュアップしてることがしばしば見られます。

こうしたコア技術で、付加価値が生み出されているから、自社製品・自社サービスがお客様から選ばれている。

したがって事業を長年、継続できている……。

そうした長年の実績があるにもかかわらず、「ウチには特別なコア技術もないし、高付加価値化云々を考えるほど余裕もなくて、日々の仕事をこなしているので手一杯。」

このような趣旨の発言をされる経営者がいらっしゃいます。

 

コア技術や付加価値は、何か工学的に高度な技術を研究開発しなければならないのではないか、

コア技術や付加価値は、世界規模、国内規模のスケールで勝てる独自性が必要なのではないか、

という先入観を持っていると、先のような考え方に陥りがちです。

まずは、「高度な技術開発をやらねばいけない」という先入観を払拭します。

そうして、自社工場の現場には、付加価値を生み出すコア技術が必ず存在している、という視点を持つことです。

 

コア技術は工学的な強みを表現した「固有技術」に加えて、組織力やひとりひとりのやる気を引き出す「管理技術」で構成されていることにも注目します。

コア技術は固有技術と〇〇技術で構成されている

そうすることで、自社のコア技術は見つけやすくなり、「高度な技術開発をやらねばいけない」という先入観は払拭されます。

 

2.「ご指名」を受けるベテラン作業者

コア技術や付加価値のことを考えると、思い出されるベテラン従業員の方がいます。

N職長です。(職長はその現場での職制上、リーダーに相当していました。)

大手企業から中小製造製造企業へ転職し、現場の管理者を担っていた時、大変お世話になった方です。

機械加工一筋の職人であり人格的にも素晴らしい方で、新たな会社で、仕事の進め方等、従来とは勝手が違って戸惑うところを色々とサポートして下さいました。

 

そのベテラン従業員が担当していた業務の一つの「スロッター加工」がありました。

刃物を取り付けた「腕「が、垂直方向に上下に往復運動する立て方向の切削加工機です。

主にキー溝を加工する時に使います。例えば、円筒形の内面に長尺方向で溝を入れる時などです。

 

「急いでお願いしたいんだけど、N職長いる?」

ある時のことです。

キー溝の追加工を希望されていたお客様が、加工対象部品を手に事務所に顔を見せた時の第一声がこれでした。

なんでも設計者のミスで追加工だが必要になったようです。

部材を組み立てている途中でそのことに気付いた。

納期に間に合わせるために、直ぐに対応したいとのことでした。

 

早速、N職長へ相談。

しかし、ここで、設備(スロッター加工機)仕様上の技術的な問題がありました。

それは、現場で対応できる長尺寸法を少々超えた部材であったことです。

現場で様子を見ていたお客様もそのことに気が付いていて、「う〜ん、なんとかならないかなぁ。」

こうした場面での管理者は頼りないもので、私ができることと言ったら、「N職長、うまい方法考えましょう!」と励ますくらいです。

仕様寸法範囲外でもあり、一工夫なしで、精度(公差)を維持した加工は明らかに無理でしたが……。

 

さすがN職長です。

簡易冶具を使って対応できる案を考え、早速、冶具を作製。

その後、その簡易冶具を活用して、要望された部品への追加工を実現させました。

その職場では通常、受注で治工具を製作するのが業務の柱ですが、こうした突発的な依頼へも対応していました。

小回り性、柔軟性、機動性、これらは中小モノづくり現場の特徴です。

 

さて、先に挙げた業務で注目したいのは、お客様が「N職長いる?」と「ご指名」で仕事をお願いしてきたことです。

お客様の口から、直接に現場ベテラン作業者の名前が出てきたこと。

過去の実績から、そのお客様も、難しそうな加工はN職長にお願いできるということを知っていたわけです。

先のキー溝の追加工でも、お客様自身、依頼時点で長尺寸法上の問題は懸念されていました。

だから余計に、そのお客様にとっては「N職長」だった。

まさに「ご指名」です。

高度な技術開発をやらねばという固定観念を拭い去る

そのお客様に言われるまでも、依頼事項をお客様にお伺いしてから業務を割り振りすれば、職務分担上、結果として、N職長へ業務の指示書が発行されたと思います。

ただし、お客様自ら加工者を指定して、早期に安心したいと考えていた

とすれば、こうした「ご指名」へ対応できる管理体制もコア技術です。

お客様に安心感を与え、お客様との関係性をより一層強化したという十分な付加価値を生み出しています。

美容院をはじめとする接客業よろしく、〇〇さんにお願いしたいという気持ちを起こさせること自体が付加価値です。

こうした業種では「指名料金」というプレミアムが付きます。

 

先の追加工の依頼分では、「ご指名料金」はありませんでしたが、突発対応料金はいただきました。

こうした特急、突発、または技術的に難易度の高い業務では、通常料金にプレミアムを乗せて請求書を発行していましたが、それに対してクレームが出たことはありません。

次回、顔を合わせた時には「あの時は、お世話になりました。」と感謝されるくらいです。

 

中小モノづくり現場が持っている、小回り性、柔軟性、機動性は、明らかに独自の強みです。

そして、そうした強みを「地域」で発揮できることも、立派な強みです。

ですから、技術やサービスを提供できる管理体制、管理技術もコア技術であり、付加価値を生み出す源泉です。

 

もし、自社工場が世界初とか国内唯一のという水準の技術を有しているのならば、それは自他ともに認めるコア技術となります。

が、そうしたレベルの固有技術を有しているケースは稀です。

 

技術で戦うモノづくりの世界は先手必勝です。

競合に先んじて、新たな価値を提供できる技術を開発し、現場へ導入して定着させる。

「技術開発」は本業がモノづくりである以上は欠くことができない重要業務です。

ですから、イノベーションを目指すならば、「技術開発」は計画的に取り組みを進めるべきであり、とりわけ「工学的」なステージアップをめざした「固有技術」の技術開発ではそうです。

高度な研究開発レベルの業務も必要になってくることもあるでしょう。

ただ、コア技術や高付加価値化に関連するのは、そうした、純粋に工学的な要素ばかりではないことにも留意します。

ある意味では属人的な要素から付加価値が生み出されていることにも注目です。

 

先の事例では、「N職長」の存在そのものが「コア技術」であり、付加価値を生み出す源泉でした。

大手とは異なった、中小独自のコア技術、付加価値を考える時のキーワードとして、「属人的」「労働集約的」があるかもしれません。

こうした強みは現場に埋もれていて、経営者ばかりでなく、現場自身も認識していないケースが多いように感じています。

意識して探し、工場全体で認識したい強みです。

ここで極めて大切なのは、経営者や現場リーダー自身が、その付加価値を生み出す「属人的」「労働集約的」な強みを、自社工場の強みとして認識することです。

トップや現場リーダーに認識された現場当事者は頑張ります。

自己の有能性を感じる機会を得て、ますますやる気を出すことになり、その強みがさらに強化される……、という好循環が生まれます。

 

コア技術や付加価値を考える時に抱きがちな、「高度な技術開発をやらねばいけない」という先入観を拭い去ります。

そうして、人に依存して機能する強みやそれを通じて生み出される付加価値にも注目します。

 

現場に埋もれている「属人的」「労働集約的」な強みを探しませんか?

目には見えない形ですが、必ず現場に存在します。

 

トップやリーダーがこうした強みを指摘することで、現場の人財(特に若手人財)は元気になります。

自分が必要とされていると実感できた時の若手人財の頑張りはスゴイ!

なにせエネルギーをいっぱい持っていますから。

 

まとめ。

コア技術や付加価値を考える時に抱きがちな「高度な技術開発をやらねばいけない」という先入観を拭い去る。

現場に埋もれている、「属人的」「労働集約的」な強みを探す。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)