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陸上競技、マラソンと100m走行

陸上競技、マラソンと100m走行

小出監督の指導のもと、高橋尚子選手がマラソンで金メダルを取得された。

書店に行くと書が山のように積まれていた。

早速購入、読ませていただいたが、定量的な分析、緻密な師弟の信頼関係、競技までの計画的な内容には、多く学ぶ点がある。

 

スポーツの範囲を超え、部下指導にあたる管理者の方々がお手本にすべき多くの点がそこに見られる。

小出監督の話は先の書で読めるが、選手の側の取り組みを過去、オリンピック、男子マラソンでメダルを取得したK選手の話をまとめてみることにする。

この話は講演会でお聞きした内容である。先の女子マラソンの監督とは異なる立場で努力された内容として参考になれば幸いです。

 

なお、小出監督がご努力された内容を何も記載しないのでは、単なる、考えを示しただけになるので、私なりのまとめを行った後、この話に入ることにします。

 

小出監督が高橋尚子を育てた要点

1.イメージを作る、一流になる。金メダルを取る

① 国への貢献

② 金メダルが目的ではない。あくまで人生のためにメダルがある

2.よいところを誉める

誉めて強くなるなら誰でもできる。本人の努力がなければ誉めても人は育たない。

暑いからヘバルは駄目である。暑いところで練習した。

3.練習は休みと練習の組み合わせが大切である

① 計画的な育成と記録による練習の成果把握が金メダルへの自信となった

4.血液の質をよくしないと勝負には勝てない

このためには栄養学をマスターする。本人の健康を定量的につかむ。食事の吸収能をチェックする。などの分析が必要になる。

ちなみに、高橋選手はよく食べる(普通人の2倍、胃も丈夫)。日本食を中心に各種の野菜、ミネラル、塩分を多く取得させた。

ケニヤやエチオピアは高地、日本人が1000ccなら3000ccのエンジンを持つ人が育つ地のりを得ていると見るべき。

5.一流と二流の差は性格にある

① 一流はコーチの言を素直に聞き、守る。二流は言い訳を言い、守らず、やるべきことをやらない

② やらされ感を持つ選手は強くならない。練習は自らやる、本気で質と量をこなす。これが大切である。但し、なぜ? その練習が必要かを納得する(本人の整理)が必要

6.監督の考え方

① 夢を持たせ、生きる力となることを指導すべきである

② 選手がうまくいかない、体をこわすのは監督の責任(指導力の問題)と考えるべき

③ 「選手の自主性に任せる」=「指導者の無責任」を証明してしまうことが多い

 

選手が「自主性に任せて下さい」という申告は「やる気」の現れと解釈して扱うべき。

自主性だけでは自分の能力は引き出せない。コーチの指導は冷静沈着に進めるべき。

 

④ 百人の監督がいたら百人のやり方がある。その内、どのやり方が正しいかを決めるのは結果だけである

⑤ 選手のフォームを無理に強制してはいけない。本人の特質を伸ばしながらチェツクポイントはおさえ、伸ばしていく工夫が大切である

7.チームのやる気

① 順天堂・箱根駅伝の経験によると、チームが強くなったのはやる気のある優秀な選手が入ってきてからである。人はライバル、お手本が側にあると変わる

「人はライバルがいるから頑張れる」これは人間の特質である。

8.選手選考の評価

① 公平にすべき。派閥や未公開、一部の決定は問題を残す

以上

1.マラソン

Kさんにお会いしての印象は、他の一流スポーツ選手と同様に、礼儀正しく、しかも、腰が低いが、お話される内容の一つ一つは、控えめに話されても、実践の裏付けを持つ意味深い内容だった。

一部をご紹介したいと考える。

 

Kさんは若いころ、それほど体質が強い方ではなかったそうである。しかし、あるときに徒競争で、たまたま優勝したそうである。

ここまでは誰でもよくある話だが、その時先生にほめられた事がマラソンの道に入るキッカケになったそうである。

Kさんの先生は不得意にはあまり触れず、良いところを褒め、どんどん伸ばすやり方であり、目標を与え細かく足の運用を教え、Kさんも長距離の練習を熱心にされた、とのことである。

 

マラソンは2時間程度で42.195kmを走るのが現在の世界一流レベルである。

単純に7200秒を42.195kmで割れば17.064秒になる。これが平均値であることを考え、山あり谷ありに加えて、時には早く走る等、その内容を分析すれば、その内容が如何に驚異的か! が理解される。

足の遅い私などは100mを全力疾走している内容に匹敵する。

 

事実、テレビでマラソンを見ていると真似して走る方々、自転車で人道を面白半分に追いかけて走る子供さんの様子がその事実を示している。

同じ人間だろうか? と考えてしまいたくなる程である。

この計算結果に基づき、マラソン選手の方々は常に走り方やペース配分を、走りながら研究するそうである。記録を取り、毎回、改善内容を比較しながら練習するそうである。

 

マラソンを見ていると、一見、駆け引きが一つの戦略になっているように見える。

しかし、Kさんのお話では「そんなことをしてペースを乱すと、途端にエネルギーのムダ使いが始まり、一時は良くても最終的には記録が伸びないのでやったことはない」とのお話であった。

「報道関係者がインタビューするときは、専門的な話をしても相手に理解されないので、『本日はペース配分がうまく行きました』と答えることにしていた。

 

決して、作戦を立てて駆け引きをしたわけでなく、相手の質問には答えの違う内容で答えたのですが、納得されたみたいです。マラソンのコツは体重の横移動を以下にスムーズに行うかが大切だ!」というお話だった。

お話によると、マラソンにはストライド走法という足の幅を広く取る方法と、ピッチ走法という足は幅狭いが回数を多くする方法などがある。

要点は、体重の上下動をいかに減らすかが課題となる。

 

テレビで走る状況を見ていると、手の振り方で横揺れのムダが多い方はやがて脱落する状況がある。

また、腰の付近に物差しを当てて見ていると、上下動の多い方、走り方はハデだが無駄が多い選手の方々は、やがてトップ集団より脱落してゆく状況である。

Kさんの講演をお聞きして以来、この程度のことは私にもわかる。

 

Kさんのお話では、「テレビや時計を活用した練習内容の解析と、日々の記録の分析とコーチとの対話で改善点を見つけていくといった、地道な努力の積み上げが100mを17秒で走る体質をつくる!」という内容もあった。

このような内容も生産現場に於ける日々改善活動に類似していて興味深い。

生産のムダを見つける取り組みそのもの、であるように思う。

 

良い物の見方と日々の努力はTPM(生産・予防保全)活動で設備生産性を2年間で2倍にしていった内容に類似している。

筆者も同様のTPM対策を関係者と行ったことがあった。

日々、ジュワジュワと目には見えないが、ひと月、1年と生産性の記録を更新した思い出がある。

 

Kさんの講演を聞くうちに、マラソンにおける取り組み内容とTPM活動の内容がかなり似ていることに気づいた。

お話の内容は、更に、人材育成の内容も包含していて興味深い内容だった。

Kさんはオリンピックに出場するとき、報道陣にインタビューされるのが苦手だった、とのことだった。精神的負担に耐えられないため、一時マラソンの出場をあきらめかけた時があったそうである。

 

報道陣の圧力と国民の期待という負荷のお話は、経験のない私には想像がつかない内容だった。

この時、やはりコーチの方の言でマラソン練習を再開したそうである。

 

「K君、大きな仕事は負担やリスクが大きいのは当たり前なんだ。

精神負担が大きくなるのは皆の期待が大きいわけだし、君に破れた選手も君にオリンピックで自分の分まで頑張って下さい、という願いがあるからなんだ! それがなんだ! 精神負担は小さくしてくれ、優勝はしたい? あまりに身勝手だ! その考えは、君は他の選手が同じ面で競争していることすら見ていない。

試合に入る前から試合は始まっているのに、そこで負けては試合も勝つハズがない。そんな弱い君ならオリンピックに出る資格すらない。

 

選考会の前の試合出場はもとより、選手としてでなく趣味として走れ!」と指導され、Kさんはハッと思い当たったそうである。

私は仕事をする上で、厳しいが、重要な考え方であると思った。プロづくりには欠かせない内容である。

Kさんは自分がマラソンで努力し、一流になったことにも大変感謝しておられた。

 

「マラソンは好きでなければ続かなかったと思います。しかし、競技であの人と会える。外国のあのような所で、また友人を増やし、新たな勉強ができて、自分が豊かになってゆく。

そう考えるとマラソンで勝ち、とことんまで出場し、マラソン以外の一流選手から、ものの見方、考え方を学びたい。

このためには日本で一流になり、何とか、歯を食いしばっても頑張りたい、と考えてしまうんです。これがために、今日まで練習してきました。

 

私が趣味程度でマラソンをやっていたら、多分、今、私が感じている教養のレベルには到達しなかったと思います。

本日の講演が何とかできるのも一流選手や海外で活躍される選手との交流と関係者のご指導のおかげである、と考えています。

仕事や勉強をして自分を高める時間も方法も、私の若い時代にはとれない状況でした。一般の方々にお話ができるレベルになるにはその道の最高選手と合い、お話を蓄積するという勉強法しかなかったのです。

 

今、このような講演会で何とかお話ができるようになったのも、このような努力と環境が大きく助けていることは間違えない内容であると考えます。

今は、もう現役選手は無理ですが、ウインブルトン・マラソンを楽しく走り、昔の仲間やマラソン優勝選手、楽しくマラソンをなさる方より多くを学びたいと思っています。

正に、わたしはマラソンで人生が造られきました」

2.100m走行

100m走行は米国のモーリス・グリーン氏が金メダルを獲得した。

HSI(ハドソン・スミス・インターナショナル)の勝利と共に世に伝えられ、その科学的な練習方法と解析はNHKでも取り上げた内容であった。

その走法は、スタートから20mを加速区間、20mから40mを移行区間40mから最終までを疾走区間と区分した訓練法。

 

また、かつてはやるべきでないとされてきた、スタート時には頭をあげない低い姿勢のまま走る走法の開発、また、かつては180cmを越える選手が主体であったが、入念な分析の結果、あまり有名でなく、記録も低かったモーリス・グリーン氏をトップランナーに仕上げていった内容は、HSI社の科学的解析とグリーン氏の努力の結晶とされている。

HSIはコマーシャルで賞金を稼ぐプロ集団である。オリンピック100mの記録が、即、収入につながる活動だけをしている。

個々には人間の体の科学的分析(心肺機能をエンジン、筋肉をシャーシーに見立てた訓練)に数々の極秘事項と訓練システムを確立している。

 

テレビではその1部、すなわち、階段を前かがみで登る訓練でスタート時の姿勢と筋肉の訓練をするシーンがあったが、この種の内容を含めて、徹底的に記録を追う研究がなされている。

このような解析は、製造現場における設備稼働率追求、各種の製品の性能向上対策、また、評価法の開発に役立つ多くの利用法があるように思う。

HSIの分析と訓練内容はデータ公開と共に勉強したいと考えるが、かつて、米国でオリンピック選手を指導された方のお話を参考に同種内容の片鱗を探りたいと考える。

 

「あの10秒の壁を破ったカール・ルイス選手は未だ早くなれるだろうか?」という問いである。

この質問をすると、色々な答えが帰ってくる。

「もう、年齢的に無理でしょう」とか、「いや、あのかたは見た目より若い。いま、多くの競技に出ているが、もし、100mだけにしぼったら、多分気力もあるし、練習も集中できるので可能性があるかもしれない」など、など……答が返ってくる状況である。

 

「では、理由は?」と聞くと、まず、論理的な説明をしていただける方は以外に少ない状況である。

Nコーチの話では、早く走れるか否かの評価は国際一流を基準に評価されるという内容であった。まず、100mを4つのゾーンに分割するそうである。

1番目のゾーンは地面にスタートの構えをつくり飛びだす内容。

 

2番目のゾーンは飛びだした体をスピードに早く乗せるための加速ゾーン。

3番目はスピードを乗せた体をいかに維持できるかといったゾーンである。

そして、最後の4つめはラストスパートであり、気力と余力を全て使い果たすゾーンである。この4つの区分にすると、物事は考えやすくなる。

 

そこで、先のカール・ルイス選手、しかし、彼は幅跳の選手というせいだろうか? 飛ぶ時点で最高のスピードに持っていくため最初はゆっくり、歩幅を決めてから走る。

多分、最初の出足は遅く、大体は最後にダッシュする。後半に追いつく状況である。

カール・ルイス氏の後半は世界超一流だが、第1ゾーンは決して国際クラスとはいえない状況である。

 

もし、カール・ルイス選手がこの弱点を強化すれば、今でも10秒の壁を破った記録は更に更新すると思う。

このゾーンの強化法は瞬発飛びだし力の強化であり、ジャンプの訓練が必要となる。

次に第2番目のゾーンに話しを移すが、ここからは、カール氏の問題は全くない。ここは1番目のゾーンとは目的が全く異なる。

 

牽引力を要求されるので、陸上競技だけでなくラクビーの選手の練習に見られるような練習法が必要になる。

体にロープをつけタイヤを引っ張ったり、ゴムのチューブを体にはめてゴムの力に逆らってどれだけ前に進めるか? といった練習方法が効果的なゾーンである。

次の3番目のゾーンも先の2つの練習メニューとは全く異なる。一般に、インターバル走法と呼ばれる方式が取られる。

 

この方式は10km程度を走り、早く走る状況をどれだけ続けられるかを訓練する目的で行われる。要は、10kmを早く走ったり、遅く走ったりするわけである。

そして、最後の4番目のゾーンであるが、ここも、先の3つとは全く異なる。ここには3つの要素がある。

一つは年齢であり、子供のようにどんなに動いても疲れない状況も、年を取るとダメになる。

 

記録を生むには若いうち! といわれる理由がここにある。この点から見れば先のカール・ルイス選手も、もうすぐ限界になってくることは避けられないということになると考える。

次の要素は精神力である。これはまだまだ伸びる余地がある。

そして、最後の3つ目の要素は食事内容だ! と言われている。

 

100m競技は短時間に多くのエネルギーを使う。したがって、早くエネルギーに変わる肉系統の蛋白質の摂取を行い、循環機能がエネルギーを燃やすエンジンの構造のように都合よく造られていくことが大切である。

食事はともかく、日本人は大体において草食であり、ゆっくりと食物をエネルギーに変換する構造なのに対して、欧米の方々は肉系統を食べるので腸が短いわりには早くエネルギーへ変換する構造を持っているとされている。

このためか? 日本人はマラソンのような長時間エネルギーを使う陸上競技は優勝が多いのに対して、短距離競技は苦戦する理由があるかもしれない。

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以上が専門家の方の見解であった。

この内容は単にスポーツの訓練としてではなく、作業分析に当たってのムダ排除の原理と全く同じ内容を持つ。

一般に、時間分析を教育する時、すぐに時間分析の測定用紙を配り、難しい分析用語や原理を振り回すからいけないわけで(昔、我々を教えてくれた先生の教育方式はある程度、技術力がないと理解が難しい内容であった)、基本原理を正しく教えるには、上の図に示したように、この100m競技の選手強化方式を利用することが最良である。

 

その理由は、

①作業分析の基本は要素に物事をわけ分析するが、その内容が明確である。但し、IEのような分析は工程分析に見られるように、正味、検査、運搬、手待ち、といった見方に分けてムダ排除をする点は異なるが、基本は同じである

②要素に分けた内容を個々に理想ー現実=ムダ、改善点の内容で分解する方式がある。要素毎に人、方法、計測や道具の良否、設備、物・デザイン、情報・管理の問題に分解して、その道の専門家の知恵を集めて対策する対策に集中している

③スポーツでは、改善の程度やムダの除去の程度は時間、頻度、速度、などの定量的なパラメーターで評価する方式が取られるが、作業分析の際、定量的なデータを活用する解析方法が全く同じである


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/