製造上手は開発上手

製造上手は開発上手

日常の生産活動をルール化、仕組み化することが開発業務の進捗にプラスの影響を与える。製造上手は開発上手、という話です。

1.開発業務における「製造」の位置づけ

中小の現場に、開発業務の専任担当部門があるケースは、大手企業と比べると残念ながら少ないです。

 

その結果、開発業務は兼務で進めることになります。

重要性を認識しているものの、開発業務のスピードが上がりにくい状態にないでしょうか?

 

そこで、担当者のみならず、現場も開発リードタイムを意識する環境が欠かせません。

開発業務にも、日常の業務と同様に納期を設定し、現場と共有します。

 

開発業務はトップの方が自ら進める、

あるいは設計担当者が日常の設計業務に加えて兼務する。

多くの中小製造業では、多忙な生産活動の中で開発業務を進める工夫をする必要があるのです。

 

さて、開発業務のうちで、見通しの立ちにくい仕事があります。

開発業務自体が確度が読めない仕事です。

 

中でも特に計画を簡単に立てられない項目があります。

それは、試作品作成後の、量産移行の検討です。

 

どんな開発業務も、最後は実体のモノを造って検証しなければなりません。

また、量産移行のために、製造容易性を高める必要もあります。

 

ラインに流す際に問題が発生しないよう、事前に懸念事項をつぶしておくことも必要です。

開発業務でも「製造」の位置づけは小さくないです。

 

しかしながら、往々にして、開発業務を兼務する担当者は製造担当者以外が多いです。

設計関係者などです。

 

開発製品の仕様を決めるにあたって、顧客や営業担当者との情報交換が必要となります。

その点では、設計関係者などは適任でしょう。

 

しかし、一方で、製造現場との連携は、当然、現場関係者にくらべると弱いです。

さらに、日常の製造活動が仕組み化されていなければ、どのような状況に陥るでしょう?

 

開発担当者は、開発のために「製造」を積極的に組み込めません。

 

生産日程を優先してしまいがちです。

開発納期がずるずると延びていきます。

 

それならば……。

現場製造担当者が開発業務を兼務すれば、適切な日程の擦り合わせは可能です。

が、製造と開発の兼務は困難です。

 

二兎追うものは、一兎をも得ずとなってしまいます。

開発と製造とは原則、両立しない性質の業務だからです。

 

つまり、製造活動の仕組み化がないと、そもそも、開発業務も上手く進まないということになります。

 

ここは、中小製造企業の肝です。

中小は、人員をはじめ大手と比べると、多くの制約条件に直面します。

 

開発業務を進めるための経営資源なんかもそうです。

少ない経営資源で開発業務を滞りなく進める肝は、「製造」の仕組みなのです。

 

2.製造上手は開発上手

生産マネジメント入門の著者で、東京大学教授の藤本隆宏氏は、

開発期間短縮のポイントに「開発に埋め込まれた製造活動」の短縮を挙げています。

自動車業界を事例にして、次のように説明しています。

 

日本の自動車メーカーは、

製造マネジメント面での優位性を、

製品開発面にうまく活かす傾向があった。

 

例えば、80年代のデータを見ると、

1次試作車の製造期間は、

日本のメーカーの平均約半年に対して欧米は約1年であった。

試作部品の納期管理あたりに格差の原因があったようだ。

(中略)

大物車体部品(ドア・パネルなど)の

金型の製作リードタイムも、

日本企業の約半年に対して、欧米は1年以上かかっていた。

 

金型計画や試験生産も含めた

全体の金型開発リードタイムは、

日本の1年強に対し欧米は平均2年強であった。

 

金型工場へ

ジャスト・イン・タイム的生産思想の導入、

設計変更への迅速な対応等が、

日本の金型開発の速さの秘密だったようである。

(出典:生産マネジメント入門Ⅱ 藤本隆宏先生)

 

開発業務では、アイデアを図面化、データ化する作業が前半のヤマです。

前半のヤマを越えたら、次は「開発に埋め込まれた製造活動」に移行します。

 

後半のヤマはこの「開発に埋め込まれた製造活動」をいかにこなすかです。

ひたすら「開発に埋め込まれた製造活動」を実施します。

結果をフィードバックして、量産へ備えるのです。

 

自動車部品の工場で開発業務の管理者をやっていた頃の話です。

当時の工場で、開発体制は製造部門と密接なつながりがありました。

その陰で、ストレスなく開発業務での製造検討を進められたことを覚えています。

 

工場全体で開発業務の重要性を共有できていたのです。

トップが常に、そのように現場を導いていたこと。

製造担当者と開発担当者のコミュニケーションがしっかり取られていたこと。

こうしたことが背景にありました。

 

開発担当からすれば、生産業務の合間に、開発業務目的の生産活動を入れてもらうわけです。

どうしても、こちらはお願いする立場になります。

 

しかし、製造側の担当者は、開発業務重要性を理解し、

こちらと同じ目線でいろいろと対応してくれました。

 

当然、開発担当としても、協力や理解を得るための工夫をします。

開発業務の目的や進捗、納期などの情報開示です。

 

そうした、業務上の工夫があったものの、

開発業務が上手く進んだ要因は、製造や開発の仕組みがあったことだと感じています。

 

また、受注生産の機械加工部品の管理者時代の話です。

担当現場は10人前後の小規模でした。

おかげで、柔軟性の高い、小回りの利いた開発業務ができました。

現場を掌握した状態で、開発業務を進められたからです。

 

現場リーダーの手と二人三脚で仕事を進めます。

当時、開発関連業務をドンドンこなすことができました。

製造設備の設備投資や生産ラインでの測定業務など。

中小モノづくり現場の機動性が生かされた事例です。

 

一方で開発業務の推進に苦労したこともあります。

加工組み立ての工場に勤務し生産管理を担当していた頃の話です。

そこでの開発業務は、設計部門が兼務していました。

 

新製品情報は、文書等で都度、届くのですが、

開発目的や開発日程、目標等の開発全体の計画が見えない状況でした。

断片的な情報にしか触れられません。

 

そうした状況で、新たな仕様の新規製品トライアル製造の依頼書が手元に届くわけです。

 

生産管理の立場では、現場の負担を最小限にしようと当然に考えます。

したがって、トライアル製造の依頼者に注意点を確認をし、

落ち度がないように製造指示書を現場へ出します。

 

しかし、属人的なやり方がベースの業務では、どうしても抜けが出ます。

また、現場でも勘違いが起きやすいです。

 

この時は、開発業務における属人的な対応の限界を痛感し、仕組みの重要性を感じた次第です。

 

3.日常の製造活動の仕組み化の必要性

もし仕組みを持たずに、開発業務を推進するなら、

開発担当者が自ら、開発開始から生産開始までを担当するべきです。

(受注生産の機械加工部品の管理者時代がそうだった。)

 

日常の製造業務や開発業務の仕組みが無い状況下で、

文書の配布による形式的な役割分担では開発業務はうまく進みません。

仕組みが無い状況下で、属人的な配慮で開発業務を乗り越えるには限界があります。

 

ここでは、日常の製造活動が仕組み化されていることが必要です。

その仕組みに開発業務を組み込むことが可能となります。

開発業務を組み立てることができるのです。

(自動車部品の工場で開発業務の管理者をやっていた頃がそうだった。)

 

ですから、開発業務を上手く現場へ取り込むためのカギで以下にあります。

 

  • 製造現場がルール化され、仕組み化されていること。
  • 製造現場で属人的な要素が排除されていること。

 

開発業務の前半では、アイデアを図面化、データ化する作業がヤマです。

こちらの業務は開発側100%のテリトリーで行われます。

担当者の頭の中で進めることができます。

 

しかし、製造業である以上、モノで成果を表現する必要があるのです。

製造活動の品質の高さも、開発業務の成果に大きく影響します。

 

したがって、製造現場のルール化、仕組み化で

属人的な要素が排除されていることは、開発業務の進捗にもプラスの影響を与えます。

開発納期の短縮という競争力強化に貢献するのです。

 

藤本教授は「開発に埋め込まれた製造活動」について、次のように締めくくっています。

 

従来、

「製造管理(効率性重視)と

R&D管理(創造性重視)とは

原理原則が違うので

一企業の製造能力と開発能力とは無関係だ」

という考え方が一般的であったが、

自動車の製品開発期間に関する限り、

「製造の上手なメーカーが開発も上手である」

という傾向がはっきり現れていたのである。

(出典:生産マネジメント入門Ⅱ 藤本隆宏先生)

 

製造上手は開発上手なのです。

 

開発納期の短縮という関連で、製造現場の仕組み化を考えませんか?

 

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出展:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)