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製品開発のMAPなしで新製品のテーマ評価は出来るの?開発担当者の研修を...

製品開発のMAPなしで新製品のテーマ評価は出来るの?開発担当者の研修をどうする?

製品開発のMAPなしで新製品のテーマ評価はできるのか?

今回は、M社で開発担当者の研修についての相談を受けたH氏の対応をご紹介します。

具体的には、開発担当者の育成に必要なものは何か? という相談でした。

研究レポートの書き方や、モチベーション教育、他社の開発成功事例の話、研究管理体制、コンピュータなどの新しい機器の活用……と、さまざまな研修を企画、実施されてきたそうですが、それによって新しい製品が生まれた例がないため、今回の相談に至ったそうです。

これまでのM社の研修とその反省

研究レポートの書き方

これはすでに常識であり、多少の不備があっても大体は書けるものです。そのため研修は本質的な問題解決にはなりませんでした。

しかし特許の出願処理、明細書の書き方の研修は効果がありました。ですが、一度受ければ充分です。

モチベーション研修

小集団活動の研修をおこなったそうですが、いつもプロジェクト活動をやっているので、仕事に関連する附帯事項の研修をやっても、整理整頓が多少はしつけ教育にはなっても、研究自体のモチベーション向上には繋がっていないことがわかりました。

小集団の事務局、研修の講師は「効果があった」と言っているのですが、部門長は「効果がなかった」と言っていました。事実、このようなものは二次機能的だと思います。暇なときならいざ知らず、今のような忙しいときには向かないと思います。

他社の事例研究

刺激にはなります。しかし、新製品開発はケース・バイ・ケースです。応用が効かないのです。

開発が進まないのは当社の体制に問題あり、という事例も中にはあるので、かえって研究者の方々がトップや体制に不満を抱くこともあります。本当は条件的に恵まれているのに、自分の研究がうまくいかないのは体制が悪いからだ! と問題をすり替えることもあるので、対象と話の内容を精査する必要があります。

私は1年に1回程度の刺激研修に用いる程度で良いと考えます。

コンピュータ研修

これは意味がありました。しかし、特許研修と同じで一度やれば充分です。新しい機種や仕事の仕方が変わるときにやる内容で、業務の一貫と考えています。取り立てて研修の場に持ち込んでやるべきものではないような気がします。

英語研修

本来、本人の立場とニーズによって行うべき内容です。そのため、時間外にやっています。費用も会社が一部負担する程度です。

PERT手法

プロジェクト管理のためにやりました。現在定着しています。もう、このために新しい内容を勉強するものはないと思います。むしろ、直属の上司からの実務指導こそ大切だと思っています。

研究開発の3つの悩み

では、ここからM社を指導したH氏の話に入ります。

「いろいろやってこられましたね。話をお聞きすると、一般におこなわれている内容はマスターされているように思います。

本当に役立つ研修を期待されていて、開発テーマの質が高く、研究者として一流のテーマ推進ができる人を望んでいるように思いますが、私はもう研修は追加する必要がないと思います。

むしろ、業務改善に直結した研修、プロジェクトといいますか……つまり、研修の名を借りた改善対策手段を適用したい、というのが本来の内容ではないでしょうか?」

「そうなんです。問題を上手にこなし、しかも他社がまだ手掛けていない新分野の発想を次々と出し、未来の研究開発の中心人物になってくれるような人材育成を図りたいのです。

ところが研究開発テーマは個々人で異なるでしょう? 一般的な研修をやっても二次的な効果はあっても意味がない状況で悩んでいます。他社ではどのような研修をやっているのか調べましたが、似たり寄ったりです」

「今のお話をお聞きすると、『仕事の効率化』『意思決定の効率化』『新テーマ発掘や推進のスムーズ化』がポイントのようですね」

「そうなんです! その3点に研究開発の仕事の悩みは絞られます。何か良い手はないでしょうか?

目標管理システムも勉強したのですが、もうそれに類することはやっています。PERTと定例会議で充分だと思います。他社でやっている、大きな模造紙に書くやり方は、1年に1回の目標では変化の多い時代には役立ちませんし、かえって紙づくりや報告ばかりが増し、本質的に研究テーマを推進する仕事をディスターブするように思います。

事実、ある会社では人事部門を中心におこなったそうですが、研究者からは“俺たちの行動を規制するのか?”と反発を受けて中断した経緯があります。

うちの良さは、研究者が自由に活動し、個性を伸ばす点です。これをディスターブする内容は駄目です。自分から問題に気がつき、改善する方法なら良いのですが」

「大変ですね。もう一度原点に話を戻します。先の3点は、研究者の方は問題と感じていることなのですか?」

「はい!」

「では、次のように展開されてはいかがでしょうか?」

時間分析で無駄を排除

「1番目の問題、仕事の効率化ですが、研究者に“前向きで本質的な仕事、創造的な仕事に1日平均どの程度の時間を割いていますか?”と質問なさることです。感性のデータではありません。必要なのは、ある程度客観的な事実と、それを示すデータです」

「なるほど、それは私も知りたいことです」

「その事実がわかり、創造的な仕事以外にどのような内容が、どの程度の比率でかかっているのか? これがわかれば、私も改善に何を教えるべきかがわかります。

『標準化技術』という私の著書に、個人で時間分析をする方法が書かれています。過去に研究開発部門で適用しました。

もちろん、時間分析とは?という研修はおこないません。

書店には『超時間活用術』という著書が多数売られているので、“必要なら各自お読みいただく程度で充分だと思います”と話し、管理者の方々に限り、時間分析の方法、データの見方、改善の仕方を教えました。

30分程度の説明と質疑のあとで、彼ら自身に時間分析をやっていただき、自分のお仕事を改善していただきます。

その上で部下を指導するという考えで、時間分析を2週間やっていただいてから、個別面談方式で指導した次第です。

部門ごとに多少の調整業務内容が出たので、部門長のもとに全員が集まり、データをもとに討論し、改善策を作りました。

その後、部下指導という形で展開したところ、30%もの改善効果が得られました。また時間分析と改善データをもとに、10%の人が、新たに企画された新分野へと投入されました。

時間分析は実に単純です。創造的な仕事をしたいという全員の希望を叶え、時間分析の結果を個人評価に使わず、そして研修で強制改善するのではなく、自己反省をベースに自力改善する方式です。

研究者は頭が良いからできる。ただし、客観評価が必要である。そして、もっと良い見方があれば、改善に組み入れる。無駄を排除して本来の仕事の比率を上げることが、本来の研究者の仕事である! としたわけです。

時間分析の結果、課長クラスの方々が「15%以下の正味しかない!」と言っておられました。

“やはり、事実を知ることは大切だ。2週間の分析でそれがわかった”という声を聞いて、このプロジェクトが成功したと感じました」

「なるほど、自己反省を主体とした自主・自力改善方式ですか。それなら、うちにも適用できそうです」

フォーマットを用いて決定事項を見える化

「次に、2番目の意思決定の効率化ですが、研究者の方々は打合せや決定を下す仕事が多いのではないでしょうか?」

「多いです。多分、会議や打合せ、ときには資料のまとめ、そして報告や説明資料作りにかなりの時間がかかっていると思います」

「これには、意思決定効率化の手法があります。この原点はKT法ですが、私はこの手法を改良し、問題の事前検討内容をPERTと実務的に組み合わせました。

これにより、研究開発の潜在的な問題の事前対策に活用する方式や、会議や資料のフォーマット化を図ることで、目で見て結論を効率的に創出する方式を作成しています。

内容は以下のとおりです。

▼会議効率化のための6つの区分

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カードを上手に活用する点も、KT法をスピードアップする方法として改良を加えています。

KT法にはアイデア発想法がありません。顧客の真のニーズ把握、3現場主義による問題の事実・要因の発掘もありません。ですからこれらの手法の追加が必要なのです。

しかし、時間分析のデータなくしてこれらの手法を教えてもニーズがないから失敗します」

「そうですか。ところで3番目の解決策はなんでしょう? 研究開発テーマの内容充実そのものですから、大変興味があります」

「どうも、今回はこのテーマを狙いに貴社に呼ばれたようですね? 会議の進め方の次に、特許MAPの内容をご紹介しましょう」

特許MAPで技術の動向を把握

「特許MAPの詳細は、以下のとおりです。

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数ある情報の中で、特許情報は権利が与えられるという性格があります。

新規性という、技術的な新しさを証明するために、発明や考案の構成・作用・効果が、図面と共に具体的に述べられています。

学術論文は特許公報に類似していますが、実用性より学問としての論理性が中心になっています。また、新聞や雑誌の情報はPRが主体で客観性に欠ける面があります。

このように情報をとらえますと、製品・技術開発を担当される方は、まず特許情報をまとめて、技術の動向を捉えることが大切です。客観性を持ったデータという面で考えると、特許情報の解析は重要な内容ではないかと思います」

「たしかに、読みにくい文章ですが有効です。しかも、企業としては技術保護の面から必ずアクションをとるべき対象です。

とにかく気がついたら、当社でも他の仕事に優先して出願しています」

「その考え方は他社も同じです。

そうなると、このような情報をまとめれば、技術の世界がどのようになっているのかを整理することができます。

研究者や技術者は主観を大切にします。これはこれで大切ですが、一応、自分たちが属する技術の世界がどのようになっているか? ということを、まずは特許情報を中心に、地図を作成してから技術戦略、あるいは進むべきコースを決めるゆとりが必要ではないでしょうか?

一生懸命やっても、他社が既に権利を取っている、あるいは着手する予測が立つ状況を無視することはできないはずです。それをふまえると、これは研究開発担当にとっては必要不可欠な内容であると思うわけです。

私たちはこのような考え方で、特許MAP法を開発して使ってきました。

もちろん、特許情報だけでMAPは作れません。技術者の経験、蓄積情報、学会論文、雑誌、カタログ、業界情報、新聞情報も使えるものは活用し、MAPに加えます」

「MAPを作成、活用した技術者の行動はどのように変わりましたか?」

「自分が担当するテーマそのものを解析するわけですから、他企業の技術者の考えや努力までもが伝わり、しかも自分の研究を早期に促進しないと、今やっている内容では遅れをとることなど、多くの見方を一望に見渡せます。

また、このことが、冷静に、そして客観的に自分の研究を見直すことになるようです。

モチベーション喚起論は持ち出さなくても、仕事の意義、貢献度、重要性までも認識が高まることはMAPをつくる度に経験することです」

「それを我が社でもやりたいと思います。

業務改善は全体運動として、研究者の仕事の価値向上という形で私の方で進めさせていただき、折りを見てご相談したいと思います。

大切な内容ですから。また、MAP法については今すぐ着手すべき内容であると思いました」

というわけで、「技術MAP研修」と銘打ち、M社で新製品開発部門の新たなプロジェクトが始まりました。

コメント

地図なく新たな航海に臨む行動を“彷徨”といいますが、この基本を今回の事例が示しています。

筆者も実施してきたので、下に例示することにします。

発明協会から『特許地図作成法』として出版された著書があるので、ご参考願えると幸いです。

▼パッケージ材料を検討するための技術MAP
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昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/