燃費不正で三菱自動車に足りなかった○○の繋がり

燃費不正で三菱自動車に足りなかった○○の繋がり

モノ言える風通しの良さは儲かる工場経営の基盤であり最良の経営資源。意識して、意図して、現場との「心」の繋がりを構築する工夫を重ねる、という話です。

1.三菱自動車の燃費不正問題

三菱自動車の燃費不正問題では、「三菱自動車が会社として起こした問題であり、その責任を、すべての経営陣と役職員が自分の問題として受け止めるべきである。」との指摘が特別調査委員会からなされました。

特定の個人や部門が起こした問題として矮小化してはいけないと報告書は厳しく戒めています。(出典:日経ものづくり 2016年9月)

 

新たな事実として明らかになった「新人提言書発表会」の話は問題の根深さを表しているように思います。

2005年の三菱自動車の「新人提言書発表会」において、走行抵抗抵抗測定法の問題が取り上げられたそうです。

法規に従って「惰行法」で測定すべきだと指摘されました。

新人の目から見てもおかしいと感じるような法規違反はそのまま見過ごされたわけです。

 

このあたりのいきさつについて、2016年8月4日東京新聞の朝刊に詳しい記事があります。

 

2005年2月、新人研修の一環の「新人提言書発表会」。

前年に入社し、燃費データ試験などを担当する性能実験部に配属されたばかりの新人のFさんは訴えた。

測定の責任者であるH性能実験部長も、後に部長になる人物らも聞いていた。

新人社員が公の場で組織の不正を暴いたことは「相当のインパクトがあったはず」(調査報告書)。

実は提言の背景には先輩部員Eさんの助言があった。

01年に入社したEさん。

長年不正が引き継がれていることを知り、止めるよう何度も上司に訴えてきた。

しかし上司は「すぐには対応できない」と一向に改善に動こうとしない。

そのうち04年には二度目の同社のリコール隠しも発覚し、危機感を強めるEさんは、新人Fさんの指導係になった機会を捉え、提言発表テーマとして法令違反の燃費試験方法を取り上げるよう提案したのだ。

だが、責任者らが居並んでいたにもかかわらず「参加者の反応は総じて鈍かった」

(報告書)。

三菱自はその後も不正改善に動こうとしなかった。

調査委によると「正規の測定方法は非常に手間がかかり面倒」と社内で認識されており、不正を続けたのはコスト削減と時間短縮のためだったとみられる。

提言書発表会ではH部長(当時)は、参加者に「問題を認識したことを示すコメントを残した」(報告書)という。

しかし、調査委が発表会に出席した幹部や社員にヒアリングしたところ、幹部らは「記憶がない」と繰り返すばかり。

調査委は「記憶がないとの説明は容易に受け入れることはできない」と、強い疑問を呈している。 

(出典:東京新聞 2016年8月4日)

 

2.なぜ、モノ言える風通しの良さがないのか

会社のことを想い、勇気をふり絞り、あえてコンプライアンス違反をテーマに選んだEさんやFさんの心中を慮ると、なんともやりきれない気持ちになってしまいます。

上記の記事に登場したH部長をはじめ、幹部はどのような思いで聞いていたのでしょう。

 

多くの方は、当然に技術屋であり、科学的、工学的思考に長け、ものづくりへのこだわりを持っていたと思います。

そもそも組織で幹部に出世された方々でもあるわけで、仕事人としての実力もお持ちなはずです。

そうした人達が、自分の会社で長年不正が行われている事実に気が付かないわけはありません。

こうした能力ある人達でさえ、モノ申して不正を正そうという気力が失せてしまっているわけです。

 

現場と管理者、管理者と経営幹部、経営幹部とトップ。

こうした人と人との階層間でモノ言える風通しの良さがあるのか、ないのか。

これが全てであると思います。

 

こう記述すると簡単ですが、会社や現場の組織文化や組織風土との関連性が強いテーマであり、一筋縄では解決できないのは明らかです。

なぜなら組織文化や組織風土は、それこそ、創業以来、その会社や現場がたどってきた歴史的な経路にしたがって形成されるものであり、よほどの強烈なリーダーシップで意識改革でも実行しない限り、変わらないモノと考えられるからです。

会社の大きい、小さいの規模にかかわらず、その会社や現場に独自の組織文化や組織風土が存在します。

そして、最も重視すべき文化や風土は「風通しの良さ」であると考えています。

「風通しの良さ」が現場の動機づけを強化してくれるからです。

現場から持続するやる気を引き出すための土壌だからです。

さらに言うならば、「風通しの良さ」という土壌がない現場や会社では、そもそも何をやってもしょうがない状態に陥ります。

 

「風通しの良さ」を具体的に表現すると、例えば……。

  • 経営者の想いが現場に浸透している。
  • 現場の意見や意向を受け止め、誠実に対応する管理者やトップがいる。
  • 現場の貢献に対する評価とフォローをする仕組みがあり、管理者やトップが現場をどう評価しているのか、現場自身が実感できている。
  • 会議などしなくても情報が管理者やトップへ自然と集まる雰囲気がある。

……

並べるときりがありませんが、要するに下記のような感じではないでしょうか。

阿吽の呼吸、ツーカーの関係、裸の付き合い……等々。

 

今は大きな会社でも創業当時は20人、30人程度の規模であったはずです。

そうした規模で創業した時点、そして成長して伸び行く時点で「風通しの良さ」を云々するような問題など存在しません。

それこそ、裸の付き合いで阿吽の呼吸でガンガン仕事を進め、ツーカーの関係で意思決定した、というのが創業時の姿であったと思います。

ですから、どんな現場も企業も、当初は望ましい姿だったわけです。

そう考えると、規模が大きくなって互いの「顔」が見えなくなった時点から、問題が起き始めるのではないだろうか、ということに思い至ります。

 

三菱自動車での場合、勇気をもって直言した現場はあった、しかしそれを受けた管理者や幹部は、トップへ直言することはできなかった。

管理者や幹部とトップの間にもの申せない壁があったということです。

形式的な会議によって顔を合わせる機会はあったかもしれません。

が、ここで必要なのは、そうした物理的な繋がりではありません。

阿吽の呼吸、ツーカーの関係、裸の付き合い……、つまり「心」で繋がっている感覚です。

モノ言える風通しの良さがあるのかないのかは、「心」で繋がっている感覚を持てるかどうかにかかっていると考えています。

 

アナログ的な話ですが、そもそも人は頭より心で、論理より感情で動くものであることを思い返せば腑に落ちるのではないでしょうか。

 

3.「心」で繋がるために何をすべきか

取引先の企業で社内会議に同席したことがあります。

昼一番に現場リーダーや各工程のキーパーソン、それとその企業のNO.2の工場担当幹部が出席し10数名で開催されていました。

毎日集まって、この場であらゆる問題点を洗い出し、解決するのが会議の目的であるとのこと。

日々の生産指示を口頭と書類で行った後、現場で困っている問題などがないか問われるのですが、「う〜ん、この雰囲気では、まず現場は本音を話さないだろうなぁ」と感じた次第。

 

なぜなら、……。

同席していた工場担当幹部から発せられる言葉に「否定語」が多かったから。

「それは、○○がやらねば、いけないだろう。」

「そんなやりかたはダメ。どうして事前に確認しないのか?」

「なぜ、気が付かなかったのか?」

その幹部の方の気持ちも理解できないわけではなかったですが、原因の特定を急ぎたいばかりに、追及の場になっていました。

 

面倒なやりとりになるくらいなら、自分のところでなんとかしてしまおうという気分に、現場はなってしまう。

現場とその幹部の方との間に、モノ申せない壁を感じたわけです。

その幹部の方も現場と「心」で繋がる工夫をすれば、イイ方向へ向かい始めるはずです。

 

中小製造業の規模であるならば、三菱自動車のような大手企業と比べれば、難しいとは言え、組織文化や風土を変革できる可能性は大きいと考えられます。

その意味でも、従来から言われる飲み会を始め、会社における「非公式」の場の重要性を再認識したいです。

さらに、もう一歩踏み込んで、ホンダではしばしば開催されるという「ワイガヤ」合宿で若手人財を中心にして5年先、10年先の将来の姿を描く場を設けけることです。

こうした場で大切なのは、管理者やトップは徹底して聞き役に回ること、本音を引き出すことです。

いずれにしても、現場管理者やトップが意識して、意図して、本音を引き出す場を設けます。

 

「心」で繋がる感覚というのは、現場管理者やトップが「あえて」構築しようとしない限り、現場から自然発生的に醸成されるものではありません。

ですから、意識して、意図して、現場との「心」の繋がりを構築する工夫を重ねることである、と考えています。

 

「心」の繋がりは、決して「甘え」を許すことではありません。

管理者やトップが、仕事において現場へ厳しく接していても、現場は上司のことを理解し、信頼し、想いに共感している、そんな繋がりのことです。

こうした取り組みを繰り返すことで、現場や会社にモノ言える風通しのイイ組織文化や組織風土が醸成されるのです。

儲かる工場経営のための基盤でもあります。

見えない経営資源ですが、想いと実現させたい経営者の方にとっては最良の資源ではないでしょうか。

 

まとめ。

モノ言える風通しの良さは儲かる工場経営の基盤であり最良の経営資源。意識して、意図して、現場との「心」の繋がりを構築する工夫を重ねる。

 

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出展:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)