日本の製造業の救世主となれ!マインドフルネス②才能を引き出すトレーニン...

日本の製造業の救世主となれ!マインドフルネス②才能を引き出すトレーニング

<第1回の要約>
日本の製造業の力を復活させるにはどうすればよいか? そのためには、「すべての可能性は人間の中にある」という前提のもと、才能を最大限に引き出す方法をヒューマンスキルとして理解し、意図的に使えるようになることが重要だ。そのスキルとして、『マインドフルネストレーニング』を紹介する。

◆マインドフルネスとは?

「マインドフルネス」は、元来仏教の用語である「念」や「気づき」の意味である。近年ではそのトレーニング法がグーグルやインテル、IBMなどのIT企業にも、ビジネスパーソンの能力向上として活用され、欧米では一大ムーブメントにまで広がっている。

日本のマインドフルネス学会では、マインドフルネスを「今、この瞬間に意図的に意識を向け、評価せずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義している。マインドフルネスを取り入れることで、集中力・創造性を高めることでイノベーションを創出したり、他者への共感性を高めてリーダーシップを発揮することを目的としている。日常生活の中でマインドフルネスを生かすためには、もう少し幅の広い活用視野を持つ必要がある。すなわち、「マインドフルな状態で観て」→「価値を生み出す行動を考えて」→「行動に移す」というように、行動まで視野に入れて初めて確かな効果を生み出せるからだ。

◆なぜ今、マインドフルネスなのか?

では、なぜ今私たちがマインドフルネスを身につけるべきなのか、その背景を考えてみたい。

■1.馴染みの深いマインドフルネスを、意識的に活用する時代へ
かねてより日本では、マインドフルネスの意識が日常生活の中にごく自然に根づいてきている。お母さんが子どもに「気をつけてね」と声をかけたり、慌てているときに「一息ついて」となだめたり、あるいは「人生意気に感ず」という言葉の中に、その息吹を感じることができる。しかし、短期に多くの成果物を出さないといけない、同時進行で複数の課題に取り組まないといけない、といった高ストレス社会の到来にあたり、個々がそれを意図的にとらえ直して感覚を磨き、使いこなすという積極的なスタンスが求められるようになった。

■2.マインドフルネスの効果が、科学的に証明され始めた
脳の変化を測定する機器(磁気共鳴装置MRI)により、坐禅・瞑想などによって生み出されるマインドフルな状態と脳の変化を関係づけることが可能となった。その効果が科学的に証明されるに伴って、宗教色を排した形でのトレーニング法が確立され、医療や教育の分野をはじめ多くの分野に活用されるようになった。

さて、我が国でもマインドフルネスのトレーニング手法が開発されている。本記事は、うつ病などの精神的課題に対処する日本マインドフルネス精神療法協会の自己洞察瞑想療法「SIMT(シムト)」を、一般のビジネスパーソン向けに適用した実績をもとに記している。

マインドフルネスの効果は?

トレーニングの実践により、どのような心身の状態を手に入れることができるのか? マインドフルネスの効果を科学的にとらえると、以下のように整理できる。

■脳内のエネルギーの無駄遣いを減らすことができる
人間が消費するエネルギーの2割は脳が消費しているが、そのうちの6~8割近くが脳の中で起こる無駄な活動(ぼんやりした意識状態のときに使われるエネルギー)で消費されていることがわかってきた。

■マインドフルな状態が脳の重要部分に働き、「冴え」を高める
マインドフルネスの実践により、脳の「無駄な活動」を抑え、脳の疲労を防ぐことができる。それに伴って、脳の使うべき部位に効率的にエネルギーを傾注することもできるようになる。これにより、①集中力の向上、②感情調整力の向上、③自己認識への変化、④免疫機能の改善という4つの効果が得られるといわれている(「最高の休息法」久賀谷亮著より)。つまり、「脳の冴え」を維持できるようになるのだ。

マインドフルネスを日常に活かす

いよいよここから、マインドフルネスの実践方法を紹介していく。トレーニングは、以下5つのステップに沿って実践していく。

ステップ1:マインドフルな状態づくり
まず最初に、「今、この瞬間に意図的に意識を向け、評価せずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」を意識して、日ごろの落ち着かないマインドレスな状態から、心が落ち着いたマインドフルな状態へと移行していく。その際、呼吸法が有効となる。

◯呼吸法の基本動作(ゆっくり呼吸法)
①背筋を伸ばし座る
②目は閉じる(慣れてきたら目を開けたままで)
③鼻から息を吐く。吐く息はゆっくり(10~15秒程度)
④吸う息は普通に

※ポイント*
・呼吸そのものに専念し、雑念が起きても脇に置くこと。次第に、気持ちが落ち着く感覚を体験し始める。
・確かな効果を早くつかみたい方は、1日1回15分以上の呼吸法をおすすめする。忙しい方は5分間でもOK。

ステップ2.自己洞察・思考パターンの発見
マインドフルな状態が定着してくると、湧き上がってきた自分の想い・感覚・考えに気づくようになり、自分を客観視できるようになる。その結果、洞察法の基本動作が始まる。

どんな場面で、どんな振る舞いが起きるか、そのとき起きる感情は何か、そのとき起きる頭の中のつぶやきは何かを第三者的に洞察することにより、自身の思考パターンが明らかになってくる。重要なのは、思考パターンそのものだけでなく、それの原因になっている思い込み(ネガティブな本音)、それにより起こっている自分の振る舞い(言動)をも自覚すること。それにより、マインドフルネスの実践が確かな手応えを伴うものとなる。

ステップ3.自己対話
繰り返し起きる思考パターンの根源には、特定の価値観や強い思い込みがある場合が多い。そのことに気づけば、もっと違った思考パターンを持ちたいと願うようになる。自分が本当に大切にしたい価値観は何だろうか? 自己対話を深めることにより、「こうありたい」と願う理想の自分像が見えてくる。

ステップ4.その場の実践
その結果、特定の思考パターンが起こる場面に遭遇したとき、以下いずれかの洞察が起こるようになる。
①その振る舞いを起こした後、その結果に気づく
②その振る舞いを起こした瞬間に、それを繰り返している自分に気づく
③その振る舞いを起こそうとしている自分をいち早く察知して、今までとは違う振る舞いを起こす
①②の場合は再びその状況を俯瞰し、「本当にこれでいいのか?」と問いを重ねることで、新たな行動を起こす動機が生まれてくる。

ステップ5.統合化
ステップ1〜4を繰り返すことより、今までとは違う思考・行動パターンを起こせるようになる。根気よく続けた結果、「こうありたい」と願う自身の理想像と実際の思考・行動パターンが一致するようになってくる。

製造業の現場で起きがちな思考パターンとは?

さて、製造業(特に技術開発・管理系)に携わる方に起きがちな、改善したい思考パターンには、どのようなものがあるだろうか? 下記は様々な思考パターンのなかの一例である。

【技術管理者A氏の例】
:日々、現場対応に追われ、周囲の状況に振り回されている(技術情報に翻弄される)

◯仕事のくせ(行動パターン)
・日々、現場から、技術的な問い合わせが殺到している。その都度対応しているが、あっという間に時間が過ぎてしまい。重要な課題も思うように進まない。
・気が付くと、重要で時間がかかる仕事があと回しになり、疲弊した体であわてて残業をして締切に間に合わせている。
・いつも追い立てられるようでマインドレスな状態となり、直面した案件対応に追われ続ける。

◯思考パターン
・顧客(現場)満足のためには、その場で対応することが先決と考える(自分のその姿勢に満足している)。
・自分が個人的に興味・関心が高いテーマに出会うと好奇心が高まり、時間が経つのを忘れて関わり続ける。

【技術企画B氏の例】
:直面している開発案件にはまり込み、新しい技術アイデアが生まれない

◯仕事のくせ(行動パターン)
・「自分には、これ以上アイデアが浮かんでこない」と悩みつつ、与えられた仕事を漫然と進めている。
・自分の狭い技術ワールドのみしか見えなくなっていることにすら気づいていない。

◯思考パターン
・頭のなかに生まれる言葉は、今までずっと携わってきた技術に関するものばかり。
・過去の開発パターンを思い出し、繰り返している(新しい発想が浮かばない)。
・新しい視点を取り上げ、そこを深く探求しようとする意志が起こらない。
・何か新しいことをしようとしても、「そんなことは無理」「自分には関係ない」といった否定的な思い込みと思考(そして不快な感情)が湧いてくる。
・自分達の技術が、最終顧客や社会にどのように貢献しているかについて深い探求をしない(それを考えるのは別の人がすべきことで自分は不要と思い込んでいる)。

★上記は、あくまで参考例だ。たとえご自身の思考パターンと酷似していたとしても、望ましいのは上記の例をいったん忘れて、何もないところからステップ1を始めてほしい(マインドレスな状態で思考パターンに気付こうとしても浅い洞察で終わる)

■ここまでお読みいただきありがとうございました。
マインドフルネスについて、初めての方が多いと思うと、つい多くの紙面を使ってしまった。ここまでお読みいただきありがとうございました。次回は、マインドフルネストレーニングの実践状況と、今後の活かし方について話したい。

■体験談、ご質問をお寄せください

・あなたの煮詰まった思考パターン、お知らせください
煮詰まった思考パターンは不快なものですが、マインドフルな自分を手に入れるチャンスともいえます。ぜひ本記事を参考に、呼吸法・洞察法を実践してみてください。「自分の思考パターンは相当手ごわい…」という方には簡単なアドバイスをお伝えしますので、下記までご連絡ください。その他、質問やご相談もお待ちしています(2月10日締切)。
連絡先:https://www.edifist.co.jp/contactus (「お問い合わせ内容」に、“マインドフルネスの記事を読んで”とご記入ください)

参考:エディフィストラーニング株式会社


キヤノンマーケティングジャパングループ・エディフィストラーニング株式会社ラーニングソリューション部上級コンサルタント ◎経歴 1986年株式会社野村総合研究所入社。経営コンサルティング部に所属し、中期経営計画、新規事業プロジェクトを多数手がける。心理学をベースにしたコーチング、論理思考をベースにしたファシリテーション、戦略思考をベースにしたコンサルテーションを組み合わせた、本質的議論~意識改革~実践力養成を得意としており「清澤メソッド」と呼ばれ定評がある。 2009年より、エディフィストラーニング株式会社(元野村総合研究所グループ)、2015年より、株式会社KVK(JASDAQ)の社外取締役兼務。様々な顧客に多面的学習を提供してきている。 実践型研修は、単なる研修の領域を超え現場実践を通した成果を生み出すところまで支援している。最近は、組織の集団規範を変革するプログラムを開発し、大手情報通信企業に5年以上、延べ500人以上に提供している。また、中小企業向け新事業推進の活動として、日本商工会議所青年部主催ビジネスプランコンテストにおいて、永年に渡り専任コンサルタントとして指導している。 ◎専門分野 コンサルティング:中期経営計画、新規事業立案・実行支援、組織活性化