新郷重夫氏|元トヨタマンの目
トヨタの工場勤務時代、工場の中の詰め所の書棚に、ホコリまぶけの新郷重夫氏の著書がありました。
何気なく手に取ってみると、その時取り組んでいた改善について書いてありました。
そして古参の現場の人に新郷先生について聞いてみると、先生は以前、トヨタへコンサルタントとして入ってみえて、改善活動やセミナーを開催されていたとのことでした。
現場に置いてある新郷先生の著作は、その際の教科書だったそうです。
さっそくそれを借りて、自宅で読んでみました。
すると今まで、誰も教えてくれなかったことが、体系だって丁寧に書かれていました。
そして最も驚いたことは、トヨタ生産方式の多くの部分はすべて新郷先生の成果だったことです。
トヨタ生産方式とは、新郷理論の土台の上につくられたものだったのです。
- 「1個流しによる生産リードタイムの最短化」……すべて新郷先生の成果
- 「ポカヨケによる全数検査と自主点検・順次点検によるフィードバックの迅速化」……すべて新郷先生の成果
- 「シングル段取化」……これは新郷理論に途中からトヨタが加わり新郷先生の指導のもと完成されました
トヨタはこれらの土台の上に、「平準化仕掛け」というトヨタオリジナルの発想を展開しました。
さらに豊田自動織機からの引継ぎ事項である「トラブルを機械自体が感知する(自働化)」ことを、機械加工やプレスなどの自動車製造に展開しました。
したがって、新郷先生が三菱や松下など日本のいろいろな企業でやってきたことを、トヨタが「平準化」「自働化」「生産性能率評価」で完成させたのです。
したがってトヨタ生産方式というよりも、
「日本生産方式」
「ものづくり方式」
「グローバル・プロダクション・システム」
というべき性格のものに昇華していると思っています。
- 豊田佐吉……「人偏のついた自働化の発想・実践」
- 豊田喜一郎……「平準化の発想」
- 大野耐一……「平準化の実践」「生産性評価の発想・実践」「シングル段取の発想」
- 新郷重夫……「シングル段取の実践」「生産リードタイム最短化」「ポカヨケによる品質不良ゼロの追求」
これらが産業革命の最終段階です。
今の日本企業は(トヨタも含めて)、この歴史的事実・功績をきちっと学習もせずITの効率化のもとにどこかへ行ってしまっています。
またトヨタを出て、びっくりしたのですが、日本の多くの企業が、この産業革命の最終段階を経ずして、21世紀を迎えているのです。
したがって、トヨタを辞めて、トヨタ式のコンサルティングをしようと思っても、結局、新郷理論から取り掛からなければならない工場ばかりなのです。
トヨタのリコール問題で、3月に予定していた韓国でのセミナーが4月に延期されました。
そして結局、中止になってしまいました。
韓国企業のトヨタ見学は昨年までは非常に盛んでしたが、今ではツアー会社に「トヨタ以外の工場の見学にしてくれ」と要望があるそうです。
トヨタの評判も地に落ちました。
もしトヨタが張子の虎なら、それでもいいのですが、30年間の経験上、トヨタは正真正銘の真の虎です。