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改善手法投入以前に収支計算しないコンサルタント依頼は嫌いだ!

改善手法投入以前に収支計算しないコンサルタント依頼は嫌いだ!

JMAでは毎年『経営課題の実態調査』を実施しています。

この調査はある意味、「JMAに対する支援の項目と期待度を見る」と受け取れる内容です。

バブル崩壊直後、この調査の第1位は原価低減対策でした。

 

また、3年後の予測も同じ内容でした。

このような統計を眺めていたとき、ある大手企業R社のスタッフの方が「わが社の原価低減対策に最もふさわしいコンサルタントはいないか?」ということで、JMAグループを含め巡回され、指導者の方を探されていたということがありました。

ここからはSさんの対応談です。

 

R社のこの方がSさんを訪れて来られた時のご相談の内容は「原価低減のために各種手法を投入したい」というお話でした。

そこでSさんは、私の持っている手法と適用事例や著書を紹介したそうです。

なお、「Sさん以外にも、多くのコンサルタント関係のお仕事をされている方のところを訪問してきた」というお話だったわけですが、その方の話は、「なんとか世の中から原価低減に直結した最良の企業革新手法を見つけたい!」という内容であり、Sさんは話を聞くうちに、「私がコンサルタントをするかどうかは不明だな?」と思いつつ、一応は失礼のないように対応したそうです。

 

このため、「R社の事情を詳しく聞きながらも、その時には、相手の企業のサゼッションは避けた」ということでした。

ところがその後、この方からSさんに電話がきたわけですが、ここからがSさんとR社の対応談です。

 

「いや、R社からの突然の電話だったが、『貴方の話を聞き、貴方にわが社の支援を決めました。効率良く原価低減をしたいので打合せに来て欲しい!』というお話が、電話の内容です。

そこで、なかなか日程が調整できない状況だったが、一応は『詳細を把握しないで御社の支援などできるはずがありません……』とお話して、R社を訪れることにしました。

なお、訪問前に効率良く話しを進めるため、私はさらに『現場改善にあたっては、まず、経営分析にもとづく戦略設定を検討した後(目算と言う)、御社が希望される手法適用による成果創出の可能性研究をすべきです』とR社に話しました。

 

さらに、この内容を深くご理解願うため、『そうしないと改善手法の適用で、経営的に多少の効果はあがるのですが、経営的な位置づけやつながりが不明確となり、最終的なアウトプットを得るために時間はかかるからです。

また、収益向上が期待できない企業指導では、指導する側、される側双方に不幸な結果を生みます。企業支援を依頼する場合、企業側の戦略がはっきりしていて、外部の援助を受け問題解決をスピード・アップする、という手続きが基本になります。

また、これが外部指導者を主体的に御社が活用するコツです!』と、R社には、このような考え方を事前にお話した上で、各種、事前準備もお願いして、R社を訪問したわけでした。

 

ところが、R社訪問と同時に、『先生、まず、製造現場の見学と指摘をお願いします』という話が出ました。

特に断る内容ではないので、一応、このご要求には従うこととしました。

R社は大企業の系列であり、工場は全て外注化され、コンピュータの一部部品を生産されておられました。

 

しかし、この業界では後発です。シェアーも小さい中で、ニッチな製品を多種少量、人海戦術よろしく生産されておられました。

また、R社では現場に小集団活動の導入をなさっていて活動の表示があり、その内容を見る限り、問題意識も改善へ向けた力量も十分と判断できる状況でした。

しかし、現場見学で気づいた点は、ムダな作業が山ほどあり、もし、この企業の支援を開始すれば、効果も挙げやすい条件を満たしているという感じが
しました。

 

この種の現場を、もし一般のコンサルタント業の方が見れば、“改善の宝の山!”ともてはやす環境でした。

このような工場見学の後、私としては一応、用意した資料を用いて改善の進め方を説明した後、改善点を紹介すると、R社の方々は必死でメモを取り始めました。

そこで、私は『だが、現場診断では見えないものがありますのでご説明願いますか?』と言いました。

 

私が意図したテーマは原価分析を基にした改善戦略展開とその効果見積の話です。

当然のことですが、この種の内容は秘密事項なので『秘密保持契約がわが社にはあり、私を始め誰もこの戒律を破った者はいないこと』を話ました。

また、このような条件をお話した後、私は次のようにお話しました。

 

『この産業は原価低減要求が厳しい内容です。

現場を拝見して多くの改善点を発掘しました。

多分、先にお話した改善が実れば、すぐに今の半分の人数で今の生産量はこなせると思います。

 

さらに不良対策ですが、これも簡易自動化と工程改善を進めれば、工程の作業も不良も半減に近い数値に3ヶ月程度で達成できるという想定ができそうです。

現場の方々の改善の取り組み内容と実力の高さがその要素を伺わせるからです』と言って、例を黒板に、具体的多雨遺作の進め方と効果を書きながら話を進めたわけでした。

 

その後、更に、『改善しても赤字のままでは問題です。では、この改善の後、この工場の利益率はどのようになるのでしょうか? 更に、この業界は厳しく売上高は低下すると考えます。

従って、この種の改善が進んでも、30%程度の値下げによる売上高ダウンを想定する必要があります。

そうなると多分、利益は出ない。最悪の場合、赤字は2倍程度になる危険も考えられます。

 

原価分析をしていかないとわかりませんが、固定費が大きな負担になるはずです。

この対策のためには、シェアー拡大が必須事項となるはずですが、その手が打てた、と仮定して、現在考えられる範囲で、例えば投資が許される範囲で量を増やし、さらに改善を進め、不良・歩留りは現在の1/5、作業人員も半減したと仮定したとき収益性はどのようになるでしょうか?

そこまでを、ご依頼の6カ月で対策すると言うのはキツイ! のではないかと思いますが……、この見通し(見積もり)が原価分析という形で事前に分析され(戦略を決め)、私のような外部支援者が援助する領域とアウトプットを決めた後、スピード改善手法の適用内容を依頼されることが必要です。否、前提とお考え下さい。

 

当方としては、この種の目に見えない内容ですが、改善を進める戦略的な内容が御社で検討され、お手伝いすべき内容が明確化されていない段階で支援に入ることは、解決に難航する状態になる状況になるので、よろしくお願い申し上げます。

さて、先に、今日の訪問前に、お電話でお願いした内容ですが、御社における、この種の原価分析はどのようになっていますか?』と質問したわけでした。

私はR社に改善前に必要な事前準備をお願いしていた事項でしたので、確認のつもりでお尋ねしたわけですが、答えは『今、検討中です!』と言うことで済まされてしまいました。

 

また、その会社の改善トップとされる方から、『先生、それがなくても、今回は御社に改善の指導を依頼したい!』と言う話が強い調子で出てきました。

そこで、私は、仕方なく『そのような状態では、そうするしかありませんが』と言い、この時は一応、改善の可能性見積の方法と、原価分析における改善施策を割りつける方法、更に早期推進手順と手法をお話して帰宅したわけです。

要は、司令塔的な資料に当たる原価分析と各種改善の手法の見積もりをターゲット・コスト計算方式で見積もった後でないと、単に目につく箇所だけを対策しても、あてどのない活動になるからです。

 

以上、このような説明で、R社の訪問を終えたわけでした。

なお、R社を離れるときR社から『原価分析は3月末迄(1ヶ月後)にやります。また、先生のご指導は、その後すぐに事業部長の承認を得てプロジェクトをスタートしたいので、ご準備よろしく!』というお話でした。

更に、R社のトップ経営者の方からは、『今回は、戦略的な意図もあってこのテーマに着手したいので、是非よろしく!』という力強いお話までいただきました。

 

そこで、私は『その環境は理解します。しかし、それはそれとしても、この種のテーマはまず原価分析をされスタートすべきです』と、当日は再度のお願いをして帰宅しました。

この会社の場合、今回、大手の本体の企業が支援されておられ、そこでは原価分析やシミュレーション、さらには、戦略を立てる力も十分にある状況です。

この要求に対し、再度、『とにかく原価を早く下げたい。何でも良いから適当に手法を見繕って適用し、6カ月で効果を挙げる応援をして欲しい!』というお話をまた私に話され、一応はうなずいて帰宅しました。

 

この時、私は、『この多忙期にR社の依頼が本格化した場合、日程調整は大変なことになりそうだ。しかし、なぜ原価分析を渋るのだろうか? 何も中身にケチをつけるわけではなく、R社自体、今回の改善を進める上で必要不可欠な要件なのに?』と、疑問に思ったわけでした。

その後、この話は何も動きがないまま5ヶ月を経過しました。

私も多忙だったので、連絡がないことを良いことに、R社には全く連絡しないで1年が経過しました。

 

しかし、3年後の今もR社からは何も返事や連絡も無い状況です。

その後、風の便りですが、『あの工場3年前の5月に閉鎖しました』という話をR社の親会社の方からお聞きした次第です。

この時、私は『あの時、原価分析の必要性に対する注意をしておいて良かった』と思ったわけでした。

 

もし、あの時、私が他社で行っているスピード改善手法を適用していたら、多分効果はそれなりに出たと思います。

しかし、その経営への貢献度合いが問題です。

原価分析が無ければ、正確な原価低減効果など見積もれるはずがないからです。

 

正確な改善の見積もりができない企業支援はギャンブル状態になります。

私は、その種のギャンブルを意図としません。

やった結果が、たまたま採算ベースになれば良いのですが、原価分析とリンクしない改善は、“やるだけヤレ! 主義”のあてどのない『あすなろ改善』になるからです。

 

もし、この種の仕事を受けても、『相手をだましながら、時間をかけて金もうけ……』という状況になってしまいます。

たとえ、せっかく誠意を注いで、現場改善に精力を注いだ改善結果も、経営的には全く無意味なR社の方々の改善活動と、当方の支援になって行くからです。

従って、『R社の工場閉鎖』の情報を受けた時、私の勘で恐縮ですが、『私の注意で、原価分析の結果をもとに各種検討を進めた結果、事業として、たとえ外部から原価低減の援助を受けても、産業として魅力が無い結果が出たのではないか? と思ったわけでした……』と、いう体験談です」

 

以上がSさんのお話しです。

Sさんによると、「この例からもわかるように、この種の依頼には、手法活用のマネジメントという考えがあって、手法投入を考える前に原価分析を行い、低減対象範囲と数値目標を見積ることを先行すべきです。

これを戦略設定といいますが、改善手法適用の前に原価低減戦略と目算を定め、それから何を行うべきかを探り、その後、効率良い手法投入を図る手続きです。

 

これは、今回のようなプロジェクト推進の基本事項です。

しかし、どうもR社では、この点が手順に入っていなかったようです」との説明でした。

 

コメント

産業界では「一つの戦略の誤りを1000の手法投入でカバーしようとしても徒労に終わる!」という格言があります。

Sさんが苦労してR社に伝えたかった内容は、正に改善手法の適用前に必要な戦略設定だったわけです。

筆者にも、企業相談で同じような体験は数例あります。

 

そこでは、必ず、SさんがR社に対して行った対応を繰り返すように、戦略原価の話をさせていただいてきました。

この種の企業の共通点は「すぐに改善を頼みたい!」お話から始まるわけですが、原価分析を進めると、考えられていた戦略が大きく変わります。

この種のテーマに対する改善の要点は、

 

①市場を見直し、実際に買っていただくお客様のニーズを明確につかみ、何をすればお買いになる状況と物をつくって売って行く業のバランスが保てるか? を整理する

②「選択と集中」の言に集約されるように、物づくりの特徴・差別化を事業としてどこへ向けるか? を十分検討願った後で

③売れる製品づくりに対して本来あるべきものづくりを、各種改善施策の列挙と共に、どのように構築するか? を、原価分析をベースに「もうかる仕組みづくりになっているか?」を評価しながら明確にして、目標管理するという対処になります

 

世の中にはエクセレント・カンパニーや、儲かるから参入といった二匹目のドジョウ狙いの戦略で成功を収めた企業が確かにあります。

しかし、王道は①~③の手順です。

以上、ここまで「こんな矛盾は会社をつぶす」というテーマを設け、ここまで50余件もの企業支援やコンサルタントを業とする方々の活動内容を紹介してきました。

 

この種の仕事の目的は社会使命と考えて日本産業界の発展に貢献しようと努力してきた方々に限った取り組みです。

時には、事前に問題を察知して回避した例、あるいは、問題の中に入り苦しむ中から的確な支援で脱出を早めた例、更には、戦略という基本的な内容から見直さなければ改善手法の適用ができない例などを、体験事例の形で紹介しました。

筆者は現在、JMAで専任講師の形でこの仕事も20年になりますが、今回このようなまとめをすると、似たような支援や努力を繰り返しながら、多くの企業の皆様と、何とか前へ仕事を進めてきたように思います。

 

今回の内容は、まだ、これからも企業では繰り返し起きる要因を持っています。

そこで、今回の公開に至ったわけですが、今後の少子高齢化、更には不況や国際競争が益々激化する日本産業界で、同じ悩みやご苦労を回避する題材として、ここに紹介した事例が役立つことを願う次第です。

なお、この種のまとめに際し、私の指導を兼ねて、多くの事例や体験をご紹介いただいた諸先輩の方々には、本文をお借りして深く御礼を申し上げます。

 


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/