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技術伝承議論の問題点

技術伝承議論の問題点

今回は、技術伝承議論の問題点についてです。

いろいろな所で技術伝承が取り上げられていますが、私が受けた印象は、学者さんタイプの方がほとんどで、現場を長年経験した方の意見が見当たらないように思います。

この技術伝承について議論する時、現場の経験の乏しい方のみでの、話し合いや研究では、正確な事は解らず、解決は難しいと思います。

 

理由は、いわゆる熟練工の方の本当のことを理解できないからです。

議論は結構ですが、言葉や文字では解決しないのではないでしょうか。

言うまでもなく、高度な技術は長年現場で仕事をされてきた、熟練工の方が持っています。

 

各個人が持っている、頭の中や、体に染み付いているものや、長年の勘などです。

それをどのようにして、後輩に正確に伝えるかがポイントとなります。

その伝える時にうまく伝わらない壁のようなものがあります。

 

1.熟練工の保身
2.後輩の技術的向上心の欠如
3.伝承方法の誤り

 

1の熟練工の保身の問題は、以前「企業で技術伝承が止まっている訳」として、記事にしています。参考にしてください。

簡単に言えば、「この工場で難しい仕事ができるのは、俺だけだ!」という状態を維持しておけば、肩たたきにあわずにすみます。

逆に、後輩を育ててしまえば、雇い続けてもらえる確率が下がってしまいます。

 

そのための言い訳として熟練工の方は、「技術は口では伝えられない。背中から盗むものだ」と言いますが、本当は自分の保身のための言葉なのです。

私は二代目ですが、きちんと親父より伝授してもらってます。

「企業で技術伝承が止まっている訳」の記事に詳しく書いていますので、そちらをお読みください。

 

2の後輩の技術的向上心の欠如は、以前「昭和の職人の技の総決算(まとめ)」として、記事にしています。参考にしてください。

簡単に言えば、「昔ほど先輩に頼らなくても、そこそこの仕事なら出来てしまうため、先輩を尊敬できなくなり、自分ではすぐに一人前になったと思って、技術をなめてしまい、腕利きになりたいという気持ちが強く出てこない」という、ハイテクの時代のマイナス面です。

 

3の伝承方法の誤りは、ほとんどの企業や会社は作業風景を撮影したり、熟練工の方に聞き取り方式で、各工程を文字にしています。

はっきり言いますが、上記の1、2の問題や習熟度の問題などが壁となり、熟練工の方は、本当に大切な「肝」となるところは、見せず語らずです。

なので出来上がった動画や画像やテキストでは、後輩は育ちません。熟練工の方が大切な部分を意識的に省いているからです。全ての熟練工の方の批判をしているのではありません。それぞれ事情があり、社会的な背景もありますので。

 

それならばどうすればいいのかですが、やはり「高度な技術は、この人ならばと言う人にのみ伝授すること」 だと思っています。

決して公開では伝わりません。

「高度な技術は、職人から職人へ、しかも、この人なら伝えても良いという人にのみ伝授」

昔からの智慧だと思います。

 

この部分は、現場経験の薄い経営者の方や知識人の方では理解できないと思います。

そこが、最初に書いた「技術伝承について議論する時、現場の経験の乏しい方のみでの、話し合いや研究では、正確な事は解らず、解決は難しいと思います」

の部分です。過去記事「八尾市ものづくり達人賞受賞しました」を参考にしてください。

 

一つ例を挙げます。

旋盤のねじ切りです。通常はNC機に入っているねじ切りのプログラムで切れます。しかしピッチが荒くなると、それなりに切り方を工夫しなければ切れません。

リーマンショックの少し前に、あるところから、ピッチの荒いねじを切るマクロが公開されてしまいました。

 

そのため、何の苦労(技術)もなく、ピッチの荒いねじが切れるようになってしまいました。

決して、やってはならないことだと、私は思っています。(公開してはいけない)一線を越えた技術を公開してしまうと、品物は出来ますが、作業者の技術がともないません。

しかも、簡単に出来てしまいますので、その後の探究心や技術向上心が損なわれます。

 

つまり、作業者がなぜこのような方法で加工するのかと言う理解ができていません。

ちょうど、この部分が先ほど書きました「熟練工の方が大切な部分を意識的に省いている」の部分と一致します(なので一般の方は省かれても気づきません)。

ここを理解するには、作業者の習熟度が大きく影響するからです。

 

まだそれほど経験がないのに、飛び越して高度な技術を与えても(ハイテクで)品物はできても、作業者の技術にはならないのです。このような方法で、育てられた作業者は、基本が出来ていないため将来困ることと思います。

 

技術伝承の問題を議論するとき、あまりにも「職人」を軽視しすぎてます。

「技術を持っていない方が、いかに簡単に安価にその技術を手に入れるか。しかも、一度マニュアル的なことを作ってしまえば、この先受け継がれるようにしたい」

そのような考えでは、技術伝承はできないでしょう。

技術は職人から職人に受け継がれていくものです。実際に現場で作業しなければ熟練工にはなれませんし、その奥底にあるものは、言葉や文字や映像では表面に出てきません。出したとしても大切なものは抜け落ちて伝わると思います。

~基本を大切にした技術伝承~汎用旋盤職人養成


1963年大阪生まれ。西尾鉄工所代表。旋盤師、伝統技術継承者◎祖父の代から80年続く大阪八尾市の町工場の三代目。「職人道」を極めた先代のもとで、13才から弟子入りし、昔ながらの職人技を叩き込まれ、家業を一人前にこなした。工業高校卒業後、中堅工作機械メーカーに就職。工作機械(機械部品を産み出す母なる機械。マザーマシンとも呼ばれる)の構造を隈なく学び、23才で独立。最先端コンピュータで制御された「NC旋盤」に対し、職人の「技」と「勘」が頼りの「汎用旋盤」(職人の手で動かす旋盤)をこよなく愛し、現在に至るまで、その加工にこだわり続けてきた。数少ない伝統技術継承者の一人。◎若い世代の人材不足、技術伝承に危機感を持ち、2016年「汎用旋盤職人養成講座」をスタート。教材用に独自開発した「汎用フライス盤」は、設計、加工、組立・調整をすべてひとりでやり遂げ、自身の総合技術力の賜物となった。最近、営業下手な職人の殻を破り、SNSを駆使して「基礎の手技」の重要性を次世代へと訴える。また、異業種の職人を対象に、「いぶし銀の会」を立ち上げ、オリジナル製品の企画、開発など「未来の職人像」を探っている。コンピューター依存が加速する製造業の未来を受け入れつつも、「機械の前に人間ありき」と、代々受け継がれてきた職人の技と精神性の伝承に力を注いでいる。◎2014年「八尾市ものづくり達人懸賞」受賞、2015年日刊工業新聞「マイスターに聞く」掲載、「なにわの名工」受賞◎西尾鉄工所ホームページhttps://nishio-tekkousho.jimdo.com/ 西尾鉄工所技術伝承 https://nishio-tekkousyo.jimdo.com/