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マザー工場というが、国内はどうするの?

マザー工場というが、国内はどうするの?

海外工場の運営で最大の問題は、良い現地管理者が得られないという点に集中しています。

この問題が現地を支援する上で、多くの問題を引き起こしてきた結果、国内の技術低下になっています。

風が吹けば桶屋が儲かるというような問題がここに存在しており、何とかしなければならない重要課題の一つです。

 

今回の話は中国を指導するJ社の管理者Tさんの苦労談ですが、一つの実態を示しています。

大小の差はともかく、現地で採用した現場管理者が本来の仕事をしないため困っているという海外企業は意外に多いようです。

このような苦労談の多くは『性善説管理』を前提として対処してきた結果です。

 

また、問題発生の度に日本側の関係者が現地につめて対処していては、国内における新製品開発や新技術開発に手が回らなくなり、結果『空洞化』し、開発・技術力の低下に陥ります。

したがって、まず現地は現地で理にかなった国際的な管理ができるようにする体制づくりを図るべきです。

では、まずTさんの“中国奮戦記”をご覧ください。

 

Tさんの中国奮戦記

私が寝苦しさの中ようやく眠りに落ちた時、我が社の現場組長から電話が来ました。

早速、服を着替えて現場に向かい、やがて現場に着くと、私の眠気は一気に吹き飛びました。

その理由は、目の前が『無法地帯』だったからです。

 

問題は、生産ラインが止まっていただけでなく、ライン停止で暇になった作業員たちが元気いっぱいといった姿でいるのを目の当たりにしたことです。

この時、作業者は設備が停止したのを良いことに、遠くの工程の作業員のところに行ってはしゃぎ合ったり、大切な製品や部品の箱に座って雑談したり、ひどい作業台になると、床に寝ていたり、工場を走り回ったり……という状況でした。

このままでは生産品にほこりや傷がつきます。

 

また、作業が復帰してもしばらくの間生産はできず、納期上も問題を引き起こします。

そこで、私は思わず、

“コラー! 持ち場に戻りなさい”

と作業員たちを怒鳴りつけました。

 

この一言で、製造現場は一瞬にして静まりかえりました。

これは単なるサボタージュではなく、よく現場を見ると、昼間の作業時には整然と並んでいた部品も通い箱も製品もぐちゃぐちゃになっていて、ある部品が入っていた小箱には山盛りに部品が積まれ、小箱の周辺にはこぼれ落ちた部品が散乱していました。

私は、ここで現場管理が全くなされていない実態を直視しましたが、すぐにこの現場を受け持つ現場管理者に言い、是正を求めました。

 

すると、即座に対処したので、この時は今回限りということで、とりあえず止まっていた設備の不具合を直して帰宅し、やっとこの日の眠りを取りました。

ですが、それから数日後、今度は深夜に起きた別の工程のトラブルでたたき起こされました。

その時も、先の現場へ出る階段の踊り場を通りましたが、ここでさらにびっくりする実態に直面しました。

 

それは、階段の踊り場に段ボールを持ち込み、床に敷き詰め寝たような跡を見つけたからです。

段ボールには誰が見てもそうとわかる人型のくぼみがありました。

しかし、今は故障した設備の復旧が先です。

 

そこで、それを済ませて、同じ場所へと戻ると、ちゃっかり作業員が寝ていたのを発見しました。

どうも、この行為は日常的だったようです。

そこで、こっそりその場所へ行ったのですが、更に驚いたことに数名の作業者が集まり音楽を聴いているのまで聞こえてきました。

 

そこで早速先のトラブル時に注意した現場管理者を捜しました。

すると、彼はラジカセでCDを流しながら事務所の机の上で寝ていたのです。

組長だけではありません。

 

その横では、班長たちもあちこちで楽しそうに話をしたり、本を読んだりしていたのを発見しました。

このような光景を日本では全く見たことのない私は、もはや開いた口がふさがらない状態になりました。

夜勤作業時に、管理者の誰一人として、真面目に仕事をしている者はいないという事実に直面したからです。

 

これに対し、現場では黙々と仕事をしていました。

夜勤の管理体制がずさんである理由は、夜勤を始める前に人選や運用などをしっかりとチェックせずに『見切り発車』した点にありました。

ですが、いくら何でもこれはひど過ぎます。

 

そこで、私が中心となり、日本人が交代で管理する手を考えました。

ですが、7日間24時間の対応は到底日本のJ社トップには進言できません。

また、このために日本の追加応援をもらうこともできません。

 

しかも、J社では工場を立ち上げてから日が浅いです。

このような環境、また製品不良の山を築く中で、私自身、現場指導に多くの時間が必要でした。

この問題で、早速私は日本人関係者を集め、頭を悩ましたわけですが、あまりの問題の大きさに誰もが打つ手を失いました。

 

ですが、この時同席していたMさんが、たまたま現地へ移動する飛行機で隣の席になり、知り合いとなった海外企業指導経験を持つSさんとの出会いを思い出しました。

そこで、私たちは早速、相談に乗っていただくことにしました。

ここからが、Sさんの指導です。

 

Tさん達が全てを話すと、

「いや、お話をお聞きすると大変ですね。大急ぎで大手術が必要です」

「そうなんです。困っています。

 

すでに、先の現場管理者には辞めてもらうことにしました。

ですが、毎回この問題をとらえて監視するのでは、日本から来る指導者の手がいくらあっても足りません。

とにかく辞めてもらってからは、新人を雇うまでの間、私が直接現場管理をしています。

 

ですが、昼間の勤務も夜勤も自ら管理するうちに、どういった担当者が必要で、どういったことが不要なのかが、ぼんやりとですが見えてきました。

夜勤では、工場周辺が薄暗いため、作業員たちは自分の作業に集中できて目標の達成率も非常に高く良く働きます。

これはメリットです。

 

しかし、自らその場に身を投じて、その管理の状態を監視しないと、現場の作業環境はどんどん劣化します。

ですが、そうかといって私が現場に入っていては、技術伝承の仕事はストップします」

「そうですか!

でも、Tさんが永久に現場を見ることには限界がありますね?」

 

「そうなんです」

「では、近隣の成功企業から学ぶ、というのはいかがでしょうか?」

「そうですね。ぜひ、お願いします」

 

「その前に、この図をご覧ください」

 

▼現地有能なトップマネジャーの獲得と組織体制

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「これは一般論ですが、日系企業と現地企業の関係を見ていると、○△□が入り交じったような組織になります。

日本の企業の場合には、性善説と阿吽の呼吸が関係して、問題があれば誰かが手を出して問題をカバーしてくれます。

ですが、海外工場の組織は期待してもそうなりません。

 

日本だけが特別! と考えるべきです。

また、役割担当を明確にすると同時に、下に示す内容を加味した組織運営が必要です。

そして、現場管理者を管理する部門長も問題です。

 

給与とプレゼンテーションは上手いが、実務は全くダメ、という管理者が多いからです。

『管理とは価値の創造』というように、限られた人や設備、技術や時間、資金を駆使して最良のアウトプットを生む活動です。

このためには、その経験を持った方が必要になるのですが、御社では夜間の総管理者はどうなっていたのですか?」

 

「昼勤を管理する製造部長に当たる方だけでした。

現地の方で、昼間の管理は何とかやっていたので、任せていました。

でも、今考えると定時で退勤するので、夜は現場管理者に丸投げだったように思います」

 

「では、夜の管理者は?」

「リストラした口の上手い、先の現場管理者に丸投げでした。

彼は、管理者グループの長のような役目でした。

 

給与も、その分は高くしたのですが……」

「現場管理者の仕事である、

①責任は免れない
②部下育成
③P-D-Cの輪を回し、生産性や品質、納期などの目標を一流化させる

 

という原則を契約していなかったんですね?」

「はい!」

「管理という技術は、扱いと人によって大きく差が出ます。

 

あのダメ虎と言われた野球の阪神タイガースを短期間で一流、しかも優勝へ持ち込んだ先の星野監督や、日産自動車へ就任され1年で黒字回復させたゴーン社長といった事例は、マネジメント手法を実に見事に駆使されたものとして有名です。

中国でそのような優秀な方を雇うことは難しいかもしれません。

ですが、少なくとも仕事に関する内容を決めて契約し、ボーナス・ペナルティ制度を適用し、現場管理が的確にできる人材制度を運用すべきです。

 

この対策には性悪説の利用が時には必要です。

Tさんは孫子の兵法をご存知ですか?」

「はい」

「あの中に、孫武が女性軍を見事に一流戦士軍団に育てあげる話があります」

 

「その話は?」

「あっ、ご存知無かったのですか?

では簡単に解説します。

 

春秋時代ですが、孫子の兵法を書いた孫武は、この戦略書をまとめた後、呉の国から、

“その理論を使って、小国である呉を何とか栄えることに力を貸してほしい”

という要請を受け、軍師として呉に迎えられました。

 

孫武が呉の軍を強化したのですが、百戦百勝だったことは多くの書の示すところです。

このようにして栄えた呉は小国です。

さらに軍を強化する必要があったのですが、呉王から、

 

“あなたの理論を使って、女性軍を編成して男性とも戦える強い編成ができるか?”

と言われた時、

“できます。

しかし、全て私が定めた軍律に従っていただくことが約束です。

 

呉王さまも軍律の執行に反対ができないことになりますが、これでも良いでしょうか?”

と言うと、

“良い。任せる。ついては、私の妃2名を軍の長にしてほしい”

 

“当然、その方も軍律に従っていただくことになります。

規則を破ると、王の目前で手首を切り落とす刑を執行することになります。

国を守るのですから、妃の違反を保護することはできないが、それでもよろしいか?

 

よろしければ、その2名にも、その趣旨を伝えてから参加させてください”

という約束で女性軍が編成され、訓練に入りました。

ところが、2名の妃は、だらだらとふざけて訓練になりません。

 

そこで、孫武は2名を呼び、注意しました。

当然、2人とも王との約束は知っていました。

 

このため、

“次回、訓練に従わない時は本当に手首を切り落とす刑を執行する。

それが嫌なら軍律に従うか、軍から離れるか?”

と聞きました。

 

すると、“軍にいたい”ということだったので、再度、規則を守る約束をしました。

そうして、訓練を再開しました。

ですが、最初は行進の規則に従っていたのですが、やがて、だらけ出しました。

 

統制が取れなくなったのです。

そこで、孫武は2人の妃を王のもとに連れて行き、今度は誓文書を書かせ、今までは口約束だったが、今度軍の訓練に従わない時は本当に手首を切り落とすという刑の執行の約束を署名・捺印させました。

また、刑は女性軍の前で公開の形で行うことも文書に示しましたが、やはり2人とも、次の訓練でも、その約束を守らなかったのです。

 

2人の妃に注意を促すのは、これが最後、当然、女性軍の目前で刑の執行となりました。

2人の妃は泣き叫び許しを乞いましたが、刑は執行されました。

 

それを見ていた他の女性軍の面々は

“あの方はやさしそうに見えても、いざと言うときには本当に決めた規則を実行する厳しさを持った人だ!”

と認識しました。

 

このことがあって以来、女性軍は正規の訓練を遂行、男性に劣らない軍に成長して国の守りに貢献し、呉国は栄えていきました。

ですが、この2人の妃は王に孫武の悪口を告げる。

また、国が栄えるに従い、中国でよく見る没落の王の常に従って、王は放漫となり、贅沢ざんまい。

 

女色に迷い、やがて孫武も暗殺される危険を察知し、ある時職を離れ孫武村へ戻ると進言をして離職しました。

その後、呉が没落の歴史をたどることは、Tさんもご承知のことと思います」

「そうですか! 企業も同じですね。

 

規則違反の放置と現場管理者の怠慢は企業を没落へ導くということですか!」

「そうです。もうひとつ、同じ時代に活動した孔子の話をしたいと思います。

孔子が弟子と共に旅をしながら追求した考えが論語になったことは有名です」

 

「私も知っています」

「この中に、ある統制が取れた立派な国を訪れた時、子貢という高弟が、

“孔子様、この国の規則はひどいですよ、道路に灰を捨てたものは手首を切り落とすという規則を重視しています”

と言うと、孔子は、

 

“この国の王様は法の使い方をよく知った方だ、だからこの国の方々が平和で安心した生活を送っているのか!”

“なぜそう考えるのですか? 先生”

“いいかい子貢、灰を道に捨てるなということは簡単に守れる規則だ。

 

もし日常的に家庭からでる灰を道路に捨てれば、その人は楽かもしれない。

だが、やがて、道路は灰だらけ、雨になればぬかるみ、牛車などが通り難くなる。

そして、風が吹けば灰は舞い上がり大変なことになる。

 

目を痛める人も出るだろう。

くわえて、規則があっても灰を捨てる程度なら許される。

そうなら、今度は、多少なら盗みをしても良いだろう……となり、人殺しも許されてしまう。

 

こうなると、もう灰を捨てると手首を切り落とすという規則などは全く意味の無いものになる。

犯罪は全てOKの国になり、やがてこの状態では国は乱れ、国民は『悪化が良化』を駆逐し尽くしたとなる“

と弟子に語ったのでした。

 

これも、規則を定めて守ることが、経営においても基本だという教えを示しています。

中国人はこの歴史をよく知っているので、規則の上手い適用が企業の統制を正す! といえます。

同時に、人を得ることが、この統制には欠かせません」

 

▼日本企業から見た有能なトップの方を得る対策

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「工場経営を担う管理者は、能力として、

 

①将来、工場が儲かり従業員を指揮する方針と具体策を企画し、ぶれずに自ら惜しみなくその実現にあくなき努力を図る

②①の実現に最適な組織編成と部下育成を図り、権利を譲渡しても重点部は押さえ、責任を持って組織を運営する

③重点課題に対しては問題解決手法の要点を学び、管理下に置き、未来の姿という形で早期実現を図る

 

という3要素が必要です。

ですが、なかなかこれを身につけた人が現地にはいません。

私がいた企業でも、最初に雇ったトップ経営者にこの能力が無く、困った問題になると“日本文化は理解しがたい”と言い訳ばかり、しかも実務的で無い理想論を展開するものですから、結局は退職願ったことがあります。

 

後任者の選定には、何件か対策があります。

では、その対策を示していくことにします」

 

現場責任者選定の対策

「ひとつの成功例が化学系の企業にあります。

ここでは、日本に留学している大学院生の中から、女性ですがリーダーシップが高く、日本のこともよく理解している方を選定して、工場建設から立ち上げ、工場長として活躍願ったそうです。

このような人を得た結果、中国における袖の下問題、中国の制度を度々変えることに対する対応などを極めてうまく処理し、企業の経営管理や問題解決を見事に進めたそうです。

 

人材確保の成功です。

ですが、このような人材確保は極めて特異です。

私がいた企業では、この手が使えません。

 

そこで、この表のNo.1のヘッドハンターを使ってチャーターする策を採りました。

ですが、この対策は人件費ばかりが高く、しかも日本語が上手でも管理能力や日本企業の理解がありませんでした。

そのため、Tさんのように、しばらくは日本人が管理することで管理面の問題対策は何とかしてきました。

 

ですが、ご経験して明らかなように、この対策はすぐ限界に達します。

そこで、現地の従業員の中から適任者を選び、教育しながら工場管理者に育てる策を選びました」

「なるほど、その手はうちでも考えられます」

 

「そうですか。その手が取れると有効です。

ですが、1名に集中するのは危険です」

「どうしてですか?」

 

「中国独特の文化が出る恐れがあるからです。

先の呉王の話にあるように、国が豊国になり、自分が天下を取った途端に人が変わったように放漫になることがあるからです。

そのような時は、当然、違反行為としてトップ交代です。

 

このため、常に次の候補を用意する必要があります。

いや、2名を競争させながら人作りする策が必要です。

当然、孫武の話にあるように、社則を決め、この順守と共に管理能力を発揮していただくことが前提になります」

 

「なるほど、そこまで考えて対処すべきですか!」

「そうです。

そうならないことを願いますが、問題が起きた時の準備は海外では欠かせません。

 

これに、引き抜きや転職など、常に給与の高い分野へ人が移る環境を考えると、このリスク対策はかなり重要です。

また、この対策が無いと、結局は日本側からの援助の増加が必要となり、日本人が抜けられないため、空洞化の要因をつくることになります」

「我が社はまさにその危険の中にあります」

 

「このようにして人的な体制が整備されると、次に必要なことは、現地で成功していることから学び、その手法を導入するという対策です」

「それは?」

「現地の方は日本式の押しつけを嫌います。

 

これは、米国へ赴任したNさんの体験ですが、『目で見る管理』を現場でやろうとしましたが、現地経営者に大反対されてしまったそうです。

具体的に話すと、Nさんは従業員の情報共有に、この手法は米国でも使えるだろうと考えて提案したのですが、反対されました。

そこで、本音で問い詰めといくと、

“会社が倒産して建屋を売るとき、壁にクギの穴が空いているとまずい!”

という理由でした。

 

“この返事には、私もあきれて二の句が継げなかった”

とNさんは言っていました。

ですが、このような時、運良くアメリカン・フットボールの見学にこの反対者が誘ってくれたそうです。

 

そこで見に行ってみると、大きな電光掲示板に選手の紹介やプレーの要点などが、まるでテレビを見て解説してくれているかのように映され、その前で選手が活動する姿にNさんは感激しました。

Nさんはこの方式をベタ誉めし、同時に、

“この方式を我が工場に持ち込みたいが何とかならないか?”

と、先の反対者に訴えました。

 

すると、何と翌日にはこの方が大きなコミュニケーション・ボードを付けてくれていたのです。

すなわち、日本式の目で見る管理はダメ、しかし現地式はOKだったのです」

「なるほど、これも反省させられる話です」

 

「そうですか? ガンホーというビデオがありますよね?」

「それは何ですか?」

「米国へ進出する自動車会社の努力が、現地の方々には極めて滑稽だという話です。

 

ですが、現地のリーダーの活動で、何とか生産を軌道に乗せています。

このビデオはぜひ、ご覧ください」

「早速、観てみます。

 

では、中国に、我が社の今回の問題において参考にすべき例はありますか?」

「あります。A社の5S対策です。

5Sは経営の基本とされ、中国ではまずここから入るべきとされていますが、A社のトップである現地マネジャーKさんは、これを極めて上手く運用して成功しています。

 

では、紹介します」

「お願いします」

 

中国におけるA社の5S対策成功例

「A社は台湾にありますが、5Sのしつけを重視しています。

日本の躾という言葉には至らず、仕付けといった段階です。

その内容は、A社式ということでした。

 

具体的には、工場に着くと全社員が外に整列し、掛け声を出しながら体操をしていました。

その後、社歌らしきものを歌い、朝礼ではしっかりと整列して総経理の話を聞いてから、今度はグループごとに分かれ、班長や組長が中心になって厳しく指示をしていました。

この風景は、まさに学校そのものです。

 

そして、私の予想通り、この工場の生産ラインには無駄な物が一切ありませんでした。

部品と製品、不良品はしっかりと分けられていました。

また、作業中におしゃべりする作業員などもほとんどいません。

 

工場の中は、製品を組み付ける作業の音が響くだけです。

このように5Sのしっかりした工場から私の会社に納品されていた部品の不良率は、600ppmと全く申し分ないレベルでした。

作業員に対する教育が行き届いていたこの会社の管理者が心掛けていたのは『わかりやすいところから始める』ということでした。

 

最初に力を入れたのが、朝礼の体操だったそうです。

全員で大きな声を出し、全員で同じ行動をする。

この目的は健康管理と遅刻防止だったそうですが、その際に管理者のKさんは、一人一人の作業員がきちんと声を出し、きちんと体を動かしているかをチェックするそうです。

 

すると、どの作業員が真面目でどの作業員が不真面目か、一目でわかるということでした。

ちなみに、不真面目な作業員にきちんと体操をしなさいと正すと、“自分は子供じゃない”などと言い訳するそうです。

ですが、管理が行き届いたこの工場では体操に続き、人の話をきちんと聞くことを徹底させました。

 

たとえば、朝礼では話し手の方をしっかりと見て、メモを取る。

こうして話を聞くこと、チェックすることを常に心掛けさせると、作業現場で管理者からの話を確実に聞くという習慣が身に付いていく。

わかりやすい教育を通して、作業員全体に工場管理の厳しさを徹底していくことが重要なのだとKさんは話していました。

 

また、Kさんは、

“ただし、このようなことを急激に始めると、恐らく9割以上の確率で失敗することでしょう。

多くの人間は、それまでの習慣を急激に変化させることに対し、拒否反応を必ず示すからです“

と言っておられました。

 

さらに、次のような注意点も話してくれました。

“我が社も日系ですが、ある日系の中国工場では、管理者が厳しい日本流の管理を急いで導入しようとしたところ、不満を募らせた作業員たちがストライキを決行。

集団交渉が決裂し、多くの退職者を出しました。

 

こうなると、もはや、生産はできません。

大事なのは、決して中途半端な気持ちでは行わないということです。

新しいことを持ち込む際には、抵抗は避けられません。

 

中途半端だと、かえって症状を悪化させる恐れがあります。

変化を求めるなら、それだけの決意を持って実行に移さなければなりません。

中国工場の作業員たちは、基本的にはとても優秀で真面目です。

 

特に、私たち日本人が見えないような小さな物を取り扱う作業や検査では、速度・正確性・持続性の点で素晴しいパフォーマンスを発揮します。

しかも、とても安い給料で。

そんな彼らを使いこなすのも使いこなさないのも、その現場を受け持つ監督者の指揮能力と努力次第です。

 

人間の基本的な性格や資質は教育で変わりませんが、置かれた環境でさまざまな色には染まるものです。

それをいかに染めていくかで、その工場で生み出される製品が変わってくるのです”

とのことでした。

 

なお、このことを分析すると、次のようになります。

 

1. 企業のポリシーを従業員に正しく理解願う対策には『何のために、何をやることが正しいか?』を信賞必罰と共に金額・制度の徹底と共に行うことが大切である。

2. 生産に当たっては標準化の順守~改善へ向ける活動の事例づくりが大切である(事例を示すことが最もわかりやすい)。

3. 以上の具体化と徹底、並びに定着率向上のためには、管理者が個々と面接、目標管理をフォローして実績評価、指導、育成するシステムの導入と適用が重要となる(制度として管理者に実行願うことが大切)。単なる労働のくり返しで、職場のレベルは上がらない。

 

以上がKさんの成功談ですが、この話が参考になれば幸いです」

「大変参考になりました。ありがとうございます」

ということで、Tさんが関与する企業は早急に管理方式を切り替え、新たに人材を確保し、育成が進んだ結果、日本からの支援は目に見えて少なくなったとのことでした。

 

コメント

筆者のところにも、時々ですが海外工場の早期教育と空洞化問題、これに伴うマザー工場のレベル低下問題の相談が寄せられます。

その対策に、筆者は、

「空洞化対策の基本は、現地の方々が自律的に管理・改善力を身に付け、レベルアップする対策が決め手となります。

 

なお、その前に国内の『空洞化コスト』を何らかの形で明確にすべきです。

人材や体制革新に対する投資を重点的に行い、空洞化問題を消失させるためには投資と効果、実施事項とアウトプットの明確化が必要になるためです」

と話してきました。

 

空洞化コストの見積もり方法は各社にお任せすることにして、少なくとも、

(1)国内が空洞化することに伴う影響
(2)海外指導に人と期間が取られる費用
(3)国内で新製品や新技術開発チャンスを失う問題と、そこにかかる工数やマイナス影響に対し、機会損失コストを含めて算定する対処

が必要です。

 

さらに、

①優秀な人材を海外に赴任させる
②現地技術が上がるに伴い、国内でモノづくりを進める方が必要なくなる

 

また、大きい点として、

③過去に製造現場と開発部門が近くにあったため、現場の注文が新製品の改良や現場技術・技能向上とスパイラルアップする形で製品実現や改良が進んでいたが、日本に現場が無くなり、お客様の要求(お声)も開発部門だけの偏った解釈になる

……といった要件も検討に加えるべきです。

 

この算定により、問題の大きさと対処すべきか否かが具体的になります。

特に、日本のモノづくりの今後を考えると、過去の新製品創出に大きな影響を与えた現場と研究開発部門の連携環境の消失は、目に見えにくく、ボディーブローのように5年後から10年後に問題が顕在化してきます(当面は困らないが未来に大きな課題を残します)。

 

多くの先進企業では、試作工場程度の現場では、もはや、“日本で実際にモノづくりをしてほしい”と言われても、知識や情報はあっても、実現することができないという危機感から、ノウハウや最新技術知見の保護を目的に、戦略的に国内回帰を図られています。

“空洞化”というのは、優良家屋の建築でいうなら、設計図や施工方法を示す文献や情報がいくらあっても、大工がいないので家は建たない! という状態です。

したがって、このような問題の防止に当たっては、日本における少子高齢化や低学力、若者の根気低下や容易に転職する時代に際して、

 

①安価な国に製品移管しないで、日本でモノづくりが十分できる魅力的、高付加価値製品にしぼり込む対策(量から質への製品のしぼり込み)
②自動化や高度技能化を進め、生産性の面から海外移管しなくても、国内で十分なモノづくりができる技術向上対策
③日本側からの簡単な情報提供で、海外でもモノづくりができる環境と人づくりを図る

という3つの戦略をバランスよく進める戦略の展開が必要になります。

 

なお、これは個々の企業によって異なります。

このため、残念ながらその詳細はここに記すことを省略させていただきます。

ですが、③に関して、筆者の経験から先のSさんの“性悪説”の利用についてコメントすると、現地の方々の早期実力向上に際しては、次に示した図のような対策が参考になると考えられます。

 

▼金を仲介とした技術早期移管対策

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日本に無いセンスは、

(1)契約
(2)お金で仕事を評価する
(3)ボーナス/ペナルティ

です。

 

日本の産業は島国文化であり、多くの企業では性善説で全てが回ってきただけに、今までは性悪説を入れて仕事の評価を進めるということは必要ありませんでした。

しかし、(1)~(3)は海外工場管理では当たり前のことです。

したがって、雇用や仕事の面に具体化を図り、活用すべきです。

 

特に、人件費が安い国では、従業員は生活や豊かさに必要な“金”を求めて就職してきます。

極端な言い方をすると、仕事は何でも良いのです。

したがって、

 

①給与が高い企業に転職するため、失業率が高い
②地位が上がらない企業で働いても自分の将来の収益確保~増強に関与しない
③技術を高め、自分たちでモノづくりができる環境になるなら、会社を作り対抗してくる

といった現象が出てきます。

 

人情や感謝、愛社心などは海外工場の日本人が勝手に夢見る内容であって、①~③の環境が整って、初めて日本的な考え方が機能することになります。

このような対応で、ある程度の工場管理が進むと、どのような集団もそうですが、優秀なリーダー(現場管理者)の存在が現場のモノづくりや人材育成に大きく作用します。

このために管理者の方々には、

 

①仕事のアウトプットを決めて活動していただく対処
②部下育成や現場の問題解決に時間が掛かるのは技術が低いという仕事のとらえ方と定量・具体的な評価手段の活用

そして、

③抽象論では無く、全て管理という仕事と活動に際して、事実に基づく意志決定と良否評価を金銭評価と一体化させた運用

 

が欠かせない条件となります。

そこで、この具対策ですが、ここに『超・時間活用術』の運用が極めて有効なので、紹介することにします。

管理という仕事は、技術伝承と同様に目に見えにくい仕事です。

 

そうなると、時間を評価基準にして、目標管理+時間評価を管理日報の形で進める策が必要です(この詳細は、筆者の『モノづくり現場管理者育成マニュアル』(日刊工業新聞社)の第10章に詳説しています)。

筆者の実体験では、この方式と現場管理者のための6大能力と共に、現場管理者の育成を図った結果、見事な成果が創出されました。

日本で10年以上を要してきた、本人の特性に頼る実力増強を3ヶ月程度で具体化できた実例があるからです。

 

当然、このように短期間で現場管理力を実務中心に錬磨する際に活用する手法は、日本における現場管理力強化にも有効なため、現在は多くの企業で利用されています。

以上、読者の皆様には、空洞化対策に悩む企業の問題解決早期化の一助としていただくことを願う次第です。

 


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/