コンビニトップ引退報道で仕組みと人財のことを学ぶ

コンビニトップ引退報道で仕組みと人財のことを学ぶ

イノベーションへつながるアイデアを生み出す能力を持った人財を育成する意識を持ち、現場が自律的に廻る「仕組み」の整備を進める、という話です。

1.仕事の属人的な側面

企業とは「変化適応業」であり、外部環境へ積極的に働きかけて、新たな市場や顧客を創出することもできる「変化創出業」です。

経営環境は変わるものである、あるいは変えるものであるという前提に立って現場を運営します。

「現場を変えられないエンジニアでは一人前でない」と叱咤激励してくれた先輩技術者の言葉が今でもしっかりと耳に残っています。

 

常に技術動向、競合の動向、業界の動向にアンテナを張って情報をあつめ、業界でも有数の技術水準を維持するためのカイゼンや技術開発や製品開発に力を注ぐやり方を身に着けることができたのは先輩技術者のお陰です。

以前在職した現場では現在でもそうしたやり方で、現場技術者が主導して技術水準を維持、向上させています。

こうした仕事のやり方は、その会社の文化であり、風土にも基づきますが、仕組みになっていることも大切です。

 

担当技術者がいつまでもそこにいるわけではないからです。

仕事には、その人ならではの活かしたい属人的な側面と排除したい属人的な側面の両方あることに気づきます。

2.セブンイレブンでの大きな環境変化

2016年4月、セブン&アイ・ホールディングス鈴木敏文会長兼最高経営責任者の引退報道がありました。

鈴木会長はセブンイレンブンを立ち上げた方であり、日本のコンビニエンスストアの育ての親です。

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日本にコンビニエンスストアの影も形もなかった頃、本家アメリカで手法を学び1973年から国内で事業展開しました。

そして、「コンビニ」は今や社会生活には欠かせなく、インフラとしての役割も担いつつあります。

その「コンビニ」を育て上げたトップが引退するわけです。セブンブンイレブン自体のみならず、競合各社にも大きな影響を与えそうな経営環境の変化です。

 

こうした変化を受けて、ライバルチェーンの幹部の言葉が日本経済新聞に紹介されていました。

「鈴木会長がいなくなっても強固な仕組みは残る。セブンイレブンの強みが簡単にダメになるとは思えない」

(出典:『日本経済新聞』2016年4月10日)

 

セブンイレブンは競合よりも稼ぐ地力があります。1店舗当たりの売上高は下記です。

 

セブンイレブン・ジャパン 66万円

ファミリーマート 52万円

ローソン 55万円

 

10万円以上の開きがあります。

こうした地力を生み出しているのが全国に160か所ある専門工場の商品開発力と自前で年間1000店舗以上の新規出店の立地を掘り起こす情報網です。

これらの仕組みは鈴木会長が全て主導して築き上げてきたものです。

(出典:『日本経済新聞』2016年4月10日)

 

ですから、競合先のトップはセブンイレブンのことを次のように語っています。

 

「一朝一夕にはセブンイレブンに追いつくことはできない。」

(ローソン玉塚元一社長)

 

「セブンイレブンはスピードが落ちない、眠らないウサギ。」

(ファミリーマート上田準二会長)

 

(出典:『日本経済新聞』2016年4月10日)

 

鈴木会長のリーダーシップによりここまで成長したセブンイレブンですが、当然、全ての業務を鈴木会長がやっていたわけでなく、「仕組み」にも仕事をさせていました。

業界を白紙からスタートさせて今日の繁栄を築いた方が構築した「仕組み」です。

2番手以降の競合は絶対に太刀打ちできないノウハウや知恵がぎっしり詰まった模倣困難で、ライバルも認める儲かるための強固な「仕組み」です。

 

中小製造業でも多くの経営者が自らリーダーシップを発揮して現場を引っ張っています。

トップのリーダーシップと現場のやる気が連動した時に、組織は最上のパフォーマンスを示します。

ただし現場のやる気を引き出すための「仕組み」が存在していることが前提です。

 

なぜならば、トップが常時、指示を出し判断しないと動かない組織では、現場のやる気が引き出されているのではなく、言われたとおりにやっているに過ぎないからです。

そして、トップが不在だと何も進まない、何も決まらない、決められない現場になってしまいます。

つまり、「仕組み」がないとトップは休む暇がありません。

 

トップが未来の新しいサービスを考える時間を割くことなどできません。トップの仕事は未来を描くこと、造ること。そのための仕組みです。

鈴木会長も独自の仕組みに業務をさせて、自らは新しいサービスを考えていた。一方で、トップのリーダーシップが強すぎると問題も出ます。

後継者の育成が遅れる、トップの顔色を窺うような風通しが今一つの雰囲気が醸成される、自発性・自律性を持った従業員が育ちにくい……。

 

仕組みに支えられセブンイレブンの強みが簡単にダメになるとは思えない、との言葉があった一方で、次のようなライバルチェーンの幹部の言葉も日本経済新聞で紹介されています。

 

「セブンイレブンの新しいサービスはすべて鈴木会長がつくり出してきた。中長期的にみれば追いつくチャンスかもしれない。」

(出典:『日本経済新聞』2016年4月10日)

 

つまり画期的な新アイデアの発案者が不在となるから追いつけるかもしれないともライバルは考えている。

自由闊達に意見を出し合い、風通しを良くしていくとのコメントをセブンイレブンの後任の社長は語っていましたから、鈴木会長はそう考えていなくても、周囲はやっぱり気を使ってしまった……。

なにせ、業界をゼロから作り上げた方ですから、尊敬もするし恐れ多く感じるのは自然な気持ちです。

ただし、それがためにトップ以外の人財が活性化されていないとすると問題です。

 

セブンイレブンには、多くの優秀な人財がいると推察できるので、強固な仕組みの上で、また新たなアイデアが生み出される……。

一方、同様なことが中小モノづくり現場で起きたら……。

現経営者は自ら走り続けないと工場が廻らなくなります。環境変化に対応した新しいアイデアを出し、それを実践する人財がゼロだからです。

3.社長がいなくても現場が廻る仕組みをつくる

昔、取引していたメーカーの現場担当者の方から、次のような話を聞いたことがあります。

そこは板金加工を中心に産業用部材を製造販売しているメーカーでした。なんでも、全てのアイデアは社長の承認を経ないと進まないとのこと。

新規アイデアの実行にトップの決裁を仰ぐのは当たり前では、と尋ねた時の答えを今でも鮮明に覚えています。

 

「イヤイヤ、そんな大きな話ではなくて、小さなことでもなんですよ。新規のアイデアで出費が伴うと、どんなに小さいことでも社長の決裁が必要。それに社長、いつもいないし。そもそも相談できる雰囲気でもなくてね」

 

自ら考えたアイデアに挑戦したくてもお金が必要になると、判断待ちのため、やる気が萎えてしまうことを耳にしました。

費用が掛かる新規の取り組みを気にして自らチェックしたくなるトップの気持ちも理解できたとともに、自発的で前向きな姿勢が育つ機会を失っているなぁとも感じました。

試作・開発の予算を組み、技術開発と製品開発の組織として進める仕組みがない現場ではこうした事態が起きていることが多いです。どうしても日常の生産活動が優先される。

 

すると、いきおい現場はどうなるでしょう。

カイゼンやイノベーションへの意欲がゼロになるとは言わないまでも、発想の自由度が下がります。

その結果、スケールや影響度が小さな、そこそこのアイデアしか出さなくなり、そのうち、そのようなレベルのアイデアしか出なくなります。

生産活動の優先度が高いとは言え、こうした状況は先手必勝の技術の世界で戦っているモノづくり現場では致命的です。

 

トップだけでアイデアを生み出すことを卒業し、チームとして、組織として、成果が出せる人財育成を進めることも、いよいよ大切です。

現トップがいつまでもトップを務めるわけでなく、事業継承もして後進へ事業を引き継ぐ時期は必ず来ます。

その際に慌ててても遅いです。

 

現トップに変わって、画期的なアイデアを出し、それを実行できる人財を育てることが企業の存続・成長には欠かせません。

仕事には属人的な面で生かしたいところと排除したいところとがあります。

イノベーションへつながるアイデアを生み出す能力を持った人財を育成する意識を持ちながら、現場が自律的に廻る「仕組み」の整備を進めます。

 

社長がいなくても現場が廻る「仕組み」を構築しないと、頻度が多くなり、振れ幅も大きくなる今後の経営環境変化に、工場が付いていけなくなります。

トップ一人でやるのではなく、組織で乗り切る発想を持てば自然とその状態に至ります。

まとめ。

イノベーションへつながるアイデアを生み出す能力を持った人財を育成する意識を持ち、現場が自律的に廻る「仕組み」の整備を進める。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)