ものづくりニュース by aperza

カイゼン、カイゼンでイノベーションを加速する

カイゼン、カイゼンでイノベーションを加速する

指標を設定し仕組みを整備した工場運営で、現場のカイゼン意識は高まり、将来のイノベーションへつながる、と言う話です。

イノベーションへつながるカイゼン活動ができていますか?

 

10年位前からカイゼン活動は現場でやっているけど……。

最近は取り組みがマンネリしているなぁ。

とてもイノベーションにつながっているようには感じない……。

どうしたらイノベーションにつながるカイゼン活動ができるのだろうか?

 

イノベーションの前にカイゼン、カイゼンの前に仕組みある工場運営、を意識します。

客観的に評価する仕組みを持ち、現状を把握できる環境を作ります。

現状を知ることでカイゼン意識が生まれやすくなります。

1.新型プリウス開発で改めて知ったトヨタのスゴイところ

2015年12月に発売されたトヨタ自動車の新型プリウス(4代目)の売れ行きが好調です。

発売してから約1カ月で受注が約10万台に達しています。

トヨタ自動車が設定していた月間の販売台数の目標は1万2000台だったので、その9倍近い注文があったことになります。

 

なんでも、現時点で注文しても納車まで7か月程度かかるとの話です。

注文してから半年も待ってやっと納車される……。

なんともスゴイ売れ行きです。

 

まさに消費者のココロにガンガン響く「コト」を届ける商品です。

納期がここまで遅くなっても、欲しい!!と消費者に言わせてしまう商品を

作り上げるトヨタもほんとうにスゴイ。

 

モノづくりに携わる我々としても、小回りが利く中小モノづくり工場の良さを生かし、

高付加価値商品を開発、付加価値の拡大を実現したいです。

 

1-1 カイゼンの積み重ねで燃費向上を達成した新型プリウス

この新型プリウスの開発を担当したトヨタ製品企画本部のチーフエンジニア豊島浩二氏は次のように語っています。

「“もっともっと”というトヨタのカイゼンの精神がこのクルマには詰まっている」(出典:『日経ものづくり』2015年11月号)

 

カイゼンの積み重ねで魅力ある製品に仕上げることができた。

自動車は3万点程度の部品を組み合わせて作られていると言われます。

この一つ一つを見直して最高のモノを作り上げました。

 

このことは燃費の推移からも理解できます。

1997年に販売された初代プリウスの燃費が約30km/Lに対し、この4代目プリウスの燃費は約40km/Lです。

この燃費向上は複数の技術が寄与した結果です。

 

・高張力鋼板やアルミ合金の採用を拡大
・エンジンの燃焼効率を向上
・トランスミッションとデファレンシャルギアの一体化
・パワーコントロールユニット、モーター、駆動用バッテリーの小型化
・空気抵抗係数を向上させるフロントピラーや車体下部の構造最適化

 

等々……。

 

多くの技術を積み重ねて、40km/L台の燃費を達成しました。

さらに注目すべきことは、こうした技術開発が2つの制約条件のなかで達成されたという事実です。

 

・ひとつは標準化されたプラットホーム(車台)を使わねばならなかったこと
・そして、もうひとつは設備投資を従来の半分にしなければならなかったこと

 

こうした2つの制約条件の中で開発されたのが4代目の新型プリウスでした。

 

1-2 一つ目の制約条件:標準化プラットフォーム

一つ目はTNGA(ToyotaNewGlobalArchitecture)という主要部品を共通化・標準化するトヨタ自動車の新たな設計思想を適用した最初の車種であったことです。

TNGAは開発期間短縮、コスト削減、そして品質向上を目的に導入されています。

新型プリウスの燃費向上を狙うだけなら、新型プリウスのハイブリッドシステムに適した車体構造を考え出せばイイわけですが、ここではそうはいかない。

 

TNGAではガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、燃料電池車、プラグインハイブリットなどさまざまなパワートレインに対応しています。

このプラットフォームに新型プリウスも当てはめねばならなかった。

プリウスのみの個別最適化ではなく、トヨタ全社の全体最適化のためにです。

 

1-3 二つ目の制約条件:従来対比50%減の設備投資

二つ目は車両モデル切り替え時の設備投資額を、2015年時点で2008年対比

50%低減する方針にも対応しなければならなかったことです。

通常ならば、投資して新たな生産技術を生み出し、費用対効果を考えながらコスト削減を進めると考えがち。

 

ところが、手元資金が潤滑にある、あのトヨタが「金がなければ知恵を出せ」を実践しているわけで、なんともスゴイ。

例えば、次のような生産技術を新たに開発し導入しています。

 

・鋼もアルミ合金も同一のレーザー溶接機で溶接できるようにした。

従来、鋼はスポット溶接、アルミ合金は摩擦撹拌接合(FSW)だったのに対して両者ともレーザー溶接できるようにした。

溶接設備が半分になる。

 

・鋼の強度を上げるために鋼板を高温に加熱してプレスした後、焼き入れのために

冷却する技術のうち、加熱工程で新たに通電加熱(ジュール熱による加熱)を取り入れた。

従来は全長20mガス炉で5~20個ずつロットで加熱に5分かかっていた。

通電加熱により1個流しで加熱時間も10~20秒に短縮され設備もコンパクトなった。

 

・塗装をスプレーする幅(スプレーパターン)を可変にすることで工程の長さを20%短縮し、設備堆積を40%減らした。

従来スプレーパターンは不変だったため塗料のワークへの塗着効率が低い部位への塗布時間は長くとらざるを得なかった。

スプレーパターンを可変化して塗装工程の高効率化が実現した。

 

こんな感じです。

トヨタのことですから開発資金は潤滑に与えられているのだろうと考えていたが……。

何の制約もなく、新型プリウスのことだけを考えればイイ、ということではなかったということです。

 

2つの大きな制約条件があったにもかかわらず、燃費の向上を達成した上に、商品価値に見合った価格を実現したトヨタのモノづくりの考え方は参考になります。

平成27年3月期で営業利益や経常利益ベースではなく、イヨイヨ、最終利益ベースで2兆円を超える(日本企業初)見込を出していますが、ナットクです。

田舎の鍛冶屋なんかはとっくの昔に卒業し、今やスゴイ人がトヨタに集まってくるのか?

 

それともトヨタに入った人たちを、ここまでの人財に育て上げるトヨタの組織文化がスゴイのか?

今や、スゴイ人も集まり、人財も育てる、両方です。(出典:『日経ものづくり』2015年11月号)

2 カイゼンがあってのイノベーション

新型プリウスのような素晴らしい商品を生み出す技術の進歩は、一見すると階段状の進歩のようです。

初代プリウスで進歩し、数年後2台目プリウスでも進化、さらに、3代目、4代目と順にステップアップするイメージです。

外部から見ると、必要な時に必要な資金や人財を投入すれば、それに呼応するようにイノベーションが起きて、一気に次のステージへ上昇しているように見えます。

 

だが、新型プリウスの話を知ると、ステップアップを可能にしているのは、実は日常的なカイゼンの積み重ねであることにも気が付きます。

その時点、その時点で、これ以上にない技術を繰り出して開発しても、次の代のモデルチェンジでは、価格は前回レベルを維持しながらも、従来を上回る仕様を実現しています。

こうしたイノベーションを可能にしているのが日頃のカイゼンの意識です。

 

技術、技能が到達する上限はなく、常に高みを目指せばブレークスルーが起きて、次のステージへ進むことが、継続してできるようになる。

日頃から、もっともっと、ナゼナゼと繰り返し自らに言い聞かせる組織文化があれば、目に見えないステップアップが蓄積されます。

そして、それらは、トップの働きかけなどで一気に目にみえるステップアップとなる。

 

イノベーションとカイゼンは密接につながっています。

つまり、日ごろのカイゼンの積み上げがなければ、その時になってトップが働きかけてもイノベーションは空振りに終わる可能性が高いです。

「カイゼン、カイゼンまたカイゼン」とは、”今”のこともさることながら、将来のイノベーションに備えよ、とも解釈できます。

3 カイゼンやイノベーションを意識した工場運営

カイゼンもイノベーションも、現場の意識付けが大切です。

考えがそうならなければ、行動がそうならないからです。

その意味で、その気にさせる工場運営や工場経営は現場の意識のためには欠かせません。

 

そのためには、まず、現状を把握できる仕組みを構築します。

自分たちは”相対的に”どのレベルにいるのか知る環境を作ります。

そのためには、自分たちの仕事が定量化されている必要があります。

 

そこで指標の設定は不可欠です。

その上で生産管理の視点から、生産状況をフォローし、原価管理の視点から付加価値の推移に目をくばり、また生産性や棚卸資産を意識してキャッシュの増減なども気にする。

こうした思考プロセスが定着すると、仕事のやり方自体が変化します。

 

カイゼンの意識が“普通”になります。

トヨタの現場は本当にきれいです。

徹底的に5Sを実施しています。

 

この環境に身を置くだけで、「現状維持はマズイナ。カイゼンせねば。」という気にさせられます。

意識を高めるための環境は大事です。

指標を設定し、仕組みを整備した工場運営で現場のカイゼン意識は高まります。

 

自分たちの現状を把握できるからです。

現状を客観的に把握できれば上を目指す意識も生まれやすい。

つまり、「もっともっと」「ナゼ、ナゼ(5回です)」を自然と行う環境になる。

 

その結果、意欲が沸きます。

自発的、自律的な作業者が増えれば、その意識が現場全体に波及し、やる気まんまん! に至ります。

イノベーション、スタンバイOK! です。これが将来のイノベーションへつながります。

 

逆に言うなら、仕組みがない工場運営ではカイゼン活動を進めても残念な結果に終わります。

カイゼンそれだけを進めても、そもそも現場は自分たちを客観的に評価する術を持たず、取り組みの成果・効果も判断できず、やる気が出ません。

そのような環境で行われるカイゼンは形骸化する恐れがあります。

 

次のことを意識してイノベーションを目指します。

イノベーションの前にカイゼン、カイゼンの前に仕組みある工場運営。

まとめ。

どうしたらイノベーションにつながるカイゼン活動ができるのだろうか?

イノベーションの前にカイゼン、カイゼンの前に仕組みある工場運営を意識する。

客観的に評価する仕組みを持ち、現状を把握できる環境を作る。

 

現状を知ることでカイゼン意識が生まれやすくなる。

指標を設定し仕組みを整備した工場運営で、現場のカイゼン意識は高まり、将来のイノベーションへつながる、と言う話です。

 

出典:株式会社工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)