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これからの人財育成では非合理的な要素も必要

これからの人財育成では非合理的な要素も必要

非合理的な理屈抜きの仕事を若手人財に与え、ココロに何かが響く体験をさせることも大切である、という話です。

1.工場経営を科学としてとらえることが今後は必要となる

製品を造れば売れる時代において工場経営に必要なのは「勢い」だと思います。

とにかく造れば収益につながるわけです。

タイミングを逃さずに設備や人員を確保してイケイケドンドンで現場で額に汗をかけば、まず間違いなく成果につながる。

 

少々の無駄があっても、それを補って余りある受注が確保されている。

高度成長期を経て平成バブルが崩壊するまでのモノづくりはこんな感じでも十分にやっていけたのではないでしょうか。

さて、現在、市場の成熟化が進みました。

 

消費者の嗜好も多様化し、多品種少量化、多品種変量化の時代です。

造れば売れる時代と同じようなモノづくりのやり方はあり得ません。

額にではなく、脳みそに汗をかかねばならなくなりました。

 

経営者ひとりの勘やひらめきのみで工場経営ができる時代でもなくなったと思います。

当然、経営には勘やひらめきも必要であると思いますが、工場経営の土台には、合理性、客観性、定量性という科学的な要因が重要になってくるはずです。

ひとりで全てを判断するには、あまりに時代が複雑化しているからです。

 

衆知を集め、最適解を探るような工場経営が求められます。

工場運営や工場経営の中で大切なのは、あらゆる生産活動を定量化し、活動の良し悪しを判断する基準を設定できる状況を維持すること。

市場を分析して、顧客の気が付かないニーズを創出し、新商品を開発する。

 

その商品を最適な製造プロセスで製造し、最適なタイミングで顧客へ届ける。

こうした一連の複雑な活動を気合のみで滞りなく実施するのはもはや不可能でしょう。

工場運営、工場経営を科学としてとらえ、複雑な仕事を客観的に進められるようデジタル化、仕組み化していくことが、ますます求められます。

2.理屈抜きで合理性の欠けるような人財育成も今後は必要となる

工場運営や工場経営が科学性を求められるなかにあっても、アナログ的、精神的、主観的、非合理的な要素が残る仕事があると考えています。

それは、人財育成の仕事です。

モノづくり現場での人づくりの仕事です。

 

この人財育成では、今後、かえって逆に理屈抜きの要素も必要とされます。

知りたいと思えば、よほどの極秘情報でもない限りその情報を入手できる時代です。

今は困りごとはネットで調べたり、SNSで問い合わせることでなんらかのヒントを獲得できます。

 

こうした情報過多時代に生まれ育った若手人財を足腰強い逆境でも踏ん張れる人財に育てていく必要があります。

そもそも、ビジネスは解答のない問題に日々直面しながらオリジナルの答えを見つけることの繰り返しです。

こうした環境下でもくじけず、粘り強く、地道に考え続ける地頭の強い人財を現場では育てたいわけです。

 

そうなると、「気持ち」「心」「精神」という側面を抜きにした合理性のみを追及する人財育成ではムリです。

非合理性を排除した人財育成では、ある意味“根性”が座った人財が育ちません。

合理的な教育方法では、無理させず、レンガをひとつずつ積み上げるように、スキルを学ばせるべきです。

 

こうした教え方もイイかもしれませんが、なんとなく物足りません。

仕事を成功させるために必要なスキルや知識以外の大切なモノに触れ、体験し、感じたりすることが欠けています。

仕事の目標が高ければ高いほど、達成するのは苦しいけれども、何ものにも変えがたい達成感を味わうことができます。

 

そもそも、存続と成長に必要な付加価値の高度化のためにイノベーションは欠かせないものであり、それらを生み出す若手人財がどうしても必要です。

困難を器用に避けるような人財ばかりが育っては会社の存続にもかかわるわけで、どうしても、合理的でない要素も含んだ人財育成が必要です。

実力以上の仕事を与えて、苦しさ、辛さ、迷いという経験を理屈抜きに与えることも必要です。

 

当然、若手人財を粘り強く見守る上司の存在は欠かせません。

無理な仕事を押し付け、丸投げして、できない状況を責めるというのとは、まったく観点が異なります。

困難に出会った時にひと踏ん張りできる心と考え続けられる地頭のためです。

 

わが身を振り返った時、入社後10年間、いろいろな場面に直面し、悩み、苦しみながら胆力も鍛えていたような感じがします。

辛い場面を多々思い出しますが、その時の上司が素晴らしかったのは、部下を孤独な状況に放置することは決してしなかったことだったと、今ならそのように理解できます。

最後の最後には頼れる上司がいるという前提で、合理的ではない辛い仕事にも挑戦していた感じです。

 

仕事をするための姿勢(気合)も知らず知らずに身に着けたようです。

手順良く、ストレスなく、スマートに仕事を教わっていたら、少なくとも現在の自分はいなかったと思いますから、まぁ、こうしたやり方もありでしょう。

情報通信技術(ICT)がどんなに進歩しても、価値を生み出すのは人である以上、ドロドロした部分は絶対にあり、こうした事を避けてイイ仕事はできないことも若手人財に理解させるべきです。

 

ですから、理屈抜きで合理性の欠けるような要素も含む人財育成はこれからも大切です。

人は頭で理解する前に心で感じて共感し感動することで初めて行動を変えます。

人間は基本的に感情の生き物である以上、理屈抜きで合理性の欠けるような人財育成も必要です。

3.本田選手の高校時代の練習

サッカー日本代表のエース本田圭佑選手はサッカー日本代表の同僚を長年見続けて、選手として定着できる人とできない人を分けるひとつの条件に気付いたと言います。

 

「ある程度、幼少時代に追い込まれた、あるいは自分で追い込んで無理して肉体を鍛えた選手ほど、今の日本代表に残っている」

(出典:『日本経済新聞』2015年10月21日)

さらに、高校時代に体験した練習に関連して次のようにも、語っています。

 

「フィジカルと精神面は連動する部分がある。(中略)

一見、矛盾したような厳しいトレーニングによって育まれる精神面は結構大きいと思う」

(出典:『日本経済新聞』2015年10月21日)

 

また無意味と捉えられがちな長時間の走り込みについて、次のように語っています。

 

「体には良くなかったりするけど、矛盾に立ち向かって心が折れないメンタルは養われる。

体は限界に来ているけど気持ちでもう一本行くとか。

その気持ちを育むトレーニングだから意味はある。

 

昔の高校の先生方はそこまで考えておられたと思うんですよ」

(出典:『日本経済新聞』2015年10月21日)

 

スポーツと同様に工場でのモノづくり現場でイイ仕事をしようと思うならメンタルの強さも必要です。

失敗にくじけない、成功させねばならないというプレッシャーを乗り越える、関係者から賛同をもらえるよう地道に語り続ける、つまり信念を持って仕事をできるようにする。

イイ意味での非合理的な理屈抜きの仕事を若手人財に与え、ココロに何かが響く体験をさせることも大切です。

まとめ。

非合理的な理屈抜きの仕事を若手人財に与え、ココロに何かが響く体験をさせることも大切である、という話です。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)