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「もうかる」ではなく、「もうかり続ける」工場経営

「もうかる」ではなく、「もうかり続ける」工場経営

戦略的な視点が抜けた工場運営では、もうかり続ける工場経営は絶対できない、という話です。

経営者の熱い想いを形にした、成功へのシナリオを、現場へ示していますか?

成功へのシナリオを現場へ提示して、現場のやる気を引き出します。

 

オペレーションレベルの三位一体の工場運営に経営者の熱い思いを加えることで戦略的な工場運営ができます。

「将来的」「長期的」を意識した工場運営です。

1.外注先の若い担当者が語った言葉が、もうかり続ける工場経営のヒントになる

以前に勤務していた工場の外注先企業でのことです。

その企業は50名程度の規模の会社で工場が2つあり、板金と組立を中心に主に受注生産の形態で事業を展開していました。

そこへは、新製品開発のための小規模な試作装置や治工具類の製作を不定期にお願いしていました。

 

新たな製造プロセスを開発するための治工具類の製作をお願いしに、その会社へ出向き、経営者の方と会話した時のことです。

その会社の経営方針のようなことが話題になったことがありました。

会社をドンドン発展させるために売上を増やしたり、それに合わせて現場の生産性を向上させる取組なんかも進めたりしなければならないのでたいへんでしょうね、という話を経営者の方へ振りました。

 

私が所属していた工場で、販路開拓の取り組みに合わせ、生産ラインの生産能力を向上させる必要があった時期で、自然とそのような話になったわけです。

その時、経営者の方からは、次のような言葉がありました。

「ウチの会社では売上目標とかノルマを課していません。あまり規模を大きくするのは危険ですし、無理がかかるとヨクナイので、今の規模を維持できればイイと考えています。」

 

当時(1990年代前半頃)は、当然、ブラック企業という言葉はありませんが、その会社はブラック企業の全くの真逆のような雰囲気の会社でした。

規模の大きくない会社で高付加価値品を販売できなければ収益を確保するのに苦労し、薄利多売に至ってしまうということは、当時でも一般的な知識レベルで理解していましたから、その社長のコメントに、へ~っ、ずいぶんと従業員想いの社長だなぁ、と感じた次第です。

経営方針の良し悪しは別として、従業員に無理を強いることはしたくない、との社長の想いそれ自体は、素晴らしいことです。

 

そうした社長とのやり取りと後に、依頼業務の詳細事項を確認するのに現場へ降りて(事務所が2階にあったので)、いつもの若い担当者と会話を交わしました。

図面の詳細事項を確認してから、雑談で先ほどの社長とのやり取りを話題にしました。

ココの社長は従業員想いでイイよね、と話したところ、その若い担当者からは、予想外の言葉が返ってきました。

 

「イトウサン、そうなんですよ。ウチの社長はそう言ってくれるので、最初はイイかなと思っていたんだけど、

最近、このままでいいのかなって感じ。

将来のこと考えると、どうなっていくのか心配だし、もっと大きくなっていくことなんかも考えてもらわないと、なんか取り残されそう。」

 

他社へ就職した同期の仲間との会話を通じて、自分の会社の相対的な立ち位置を、その若い担当者は相対的に感じていました。

俺の会社はさぁ、こんなこと目指して、あんな風になるんだ、みたいな話を耳にすれば、それと比較して自分の会社は……、と当然に考えるわけです。

当時は、それほど印象深く記憶されたわけではなかったですが、管理者になってから、時々、ふと思い出す言葉でした。

 

今は、その当時の若い担当者が発していた言葉の意味は十分に理解できます。

もうかる工場経営のヒントです。

2.現状維持を目指した工場経営はそもそもありえない

現状維持を目指した工場経営は存在するでしょうか?

企業とは「変化適応業」であり「変化創造業」であるとの視点に立てばありえません。

 

・変化に対応しよう、変化を創っていこうとする姿勢
・現状を維持しようとする姿勢

 

2つの姿勢が共存することはありないからです。

変化に対応しよう、変化を創っていこうと考えて工場運営を進めたけれど、「結果的に」残念ながら現状維持にとどまった、ということはあります。

変化とは相対的なモノですから、自分では前に進んでいる、競合を凌駕しているつもりでも、周囲の進歩の方が早ければ、結果として現状維持にとどまるからです。

 

ただし、最初から現状維持を目指して企業が存続・成長することは絶対にありません。

経営環境を見渡し、昨今の外部環境に変化は見られなくて、とても安定している、と考えている経営者はいるでしょうか?

ですから、現状維持を工場経営の目標に定め、従来と変わらない工場運営を継続しているとしたら、それは、衰退、後退を意味します。

 

周囲が変化しているのに、現状維持を目標にして現状維持を達成することは絶対に不可能です。

自社工場には工場運営の仕組みがそもそも存在しない、あるいは仕組みがあっても、3年間全く変わっていないとしたら、要注意です。

今は、気が付いていないかもしれませんが、現場は現状維持ではなく、後退している可能性が大だからです。

3.もうかり続ける工場経営には経営者の熱い思いが欠かせない

経営の本質は、“他人を通じて、自分の想いを実現すること”です。

そのためには、“もうかり続ける”工場経営が必要です。

“もうかる”工場経営ではダメです。

 

“もうかり続ける”工場経営であることが必要です。

人財とキャッシュの好循環なしには付加価値を拡大できないからです。

仕組みがなくてもムリをすれば、一時的にもうけることはできます。

 

利益=売上-費用 の売上や費用を一時的にムリしてでも、気合入れて大きく、あるいは小さくすれば可能です。

ただし、一時的にもうかる工場経営では現場にムリが出ます。

一時的にムリができても、長い間、続けることはできません。

 

未来を見通した、もうかり続ける工場経営でないと現場は疲弊します。

現状維持の意識は現場の動機付けにはつながりません。

将来の見通しに関する情報を現場へ提供していないからです。

 

もうかり続ける工場経営の要諦は現場のやる気をいかに引き出すか、これ1点です。

ここが経営者の手腕を発揮すべきトコロで、経営者にしかできないコトです。

 

3-1 経営者の熱い想いを形にした「成功へのシナリオ」

経営者の熱い想いを形にした「成功へのシナリオ」がありますか?

経営者が思い描いている「実現したい将来の姿」へ至るまでのストーリーです。

現場が豊かになり、工場が豊かになり、会社が豊かになって、経営者が豊かになるための手順のこと。

 

誰が何をいつまでにどのようにやって、そこへたどり着くかを示した「モノガタリ」を経営者自身が現場へ説明することで、現場では、経営者といっしょに困難を乗り切ろうという動機づけが高まります。

「見通し」の大切さは学術的にも証明されているからです。

希望に満ちた将来像を提示されることほど、従業員にとって嬉しいことはありません。

 

今は困難な状況に直面しているかもしれないけど、未来はワクワクするからです。

このような状況にあって、自分の人生をかけて働こうとしている会社で踏ん張ろう! という気持ちが湧き出ないはずはありません。

現場のやる気を引き出すことができます。

 

先の外注先の若い担当者の彼が語っていた「将来のこと考えると、どうなっていくのか心配だし、もっと大きくなっていくことなんかも考えてもらわないと、なんか取り残されそう」というコメントも、その気持ちの裏側が、今ならわかります。

彼も、将来への見通しを知りたかったわけです。

今は仕事が辛くても、今一つでも構わない、将来に向けての夢があるのかどうか。

 

違う会社で頑張る同期の連中が会社の将来のことを生き生きと語っている姿を見て、自分の工場はどうなるのだろう……と考えた。

将来の目指すべき姿を知ってガンバリたい…とも考えた。

経営者の熱い想いを形にした「成功へのシナリオ」は、こうした若手人財のやる気を引き出すトリガーに必ずなります。

 

3-2 日常的な工場運営に経営者の熱い思いを加えた戦略的工場運営

もうかり続ける工場経営を目指します。

そのためには、三位一体の工場運営を戦略的に実践することです。

工場運営における日常のオペレーションレベルで重要なのは、

 

1)仕組みで見える化を図る。
2)動機づけでチームオペレーションを促す。
3)フォローと評価で現場と経営者との双方向のやり取りをする。

 

これらは工場運営を機能させるために必要なモノで一つでも欠けると上手く機能しません。

戦略的な工場運営には経営者の熱い思いが欠かせません。

経営者の熱い思いとは、つまり実現したい将来の姿。

 

付加価値を拡大するためにイノベーションを生みたい!

従業員やその家族の人生を豊かにしてあげたい!

地域雇用を守り、地域問題を解決することで地域に貢献したい!

 

経営者でないと果たせない想いであり願いです。

そして、これらは現場の夢でもあります。

さらに、こうした経営者の想いは一朝一夕に達成されるものではありません。

 

地道なカイゼン活動や人財育成等の積み重ねが欠かせず、時間が必要です。

したがって工場運営では、「将来的」「長期的」を意識することが、極めて重要です。

目先のことに捕らわれることなく、ぶれない軸にしたがって、「戦略的」に考えた工場運営を展開したいわけです。

 

三位一体の工場運営に、経営者の熱い想いを形にした成功のシナリオを加えます。

これが戦略的工場運営です。

一時的な頑張りや気合では、「もうける」ことはできても、「もうかり続ける」ことは、絶対にできません。

 

それには戦略的な視点が必要です。

そして、もうかり続けるには、やる気を引き出すための仕組みが欠かせません。

戦略的な工場運営では、現場のやる気を引き出すことができるので、ムリなく現場の自発性、自立性を発揮させられます。

 

こうした戦略的な工場運営が、もうかり続ける工場経営の基盤となります。

まとめ。

成功へのシナリオを現場へ提示して、現場のやる気を引き出す。

オペレーションレベルの三位一体の工場運営に経営者の熱い思いを加えることで戦略的な工場運営ができる。

「将来的」「長期的」を意識した工場運営。

 

戦略的な視点が抜けた工場運営では、もうかり続ける工場経営は絶対できない。

 

出典:株式会社工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)