社運をかけたレースで本田宗一郎がかけた言葉とは?様々な実例から「当たり前にできてほしい」ことを学ぶ

一日一話、寝る前に「読むクスリ」―今日より、もっと賢い生き方をする99のヒント

二見 道夫

オススメする理由

様々な実例を通して、年長者でも教えられない「当たり前にできてほしい」ことが学べる

新入社員の方というと二言目には「今時の若者は」という年長者の方に出会うかもしれませんが、その方々も若い時は同じことを言われてきたのです。

個人的には今も昔も新入社員のような若い方というのはあまり変わらない気がしています。

むしろ今の方の方が優秀なのではないかと思うことが多いくらいです。

 

これは自分がサラリーマンだったころに部下に感じていたことに加え、今も独立したプロの技術コンサルタントとして様々な企業で技術指導をしていることを通じて実感していることです。

優秀な皆さんだからこそさらにそれに磨きをかけることで長い人生をより有意義に、また楽しくするための道筋を示す一助となる本は何かないかと考え、自分自身がちょうど就職前の頃によく読んでいた本というのが今回ご紹介した本です。

もうすでに廃版となり中古でしか手に入りませんが、今まで読んだ数多くの本の中でいつまでも自分で持ち続けたいと思える数少ない本です。

 

内容は読んでいただくのが一番いいのですが、実は「ごく当たり前」のことが書いてあります。

ここでいうごく当たり前ということは、人として当たり前に「できてほしい」という意味になります。

言い換えると、今の年長者でも教えられない「当たり前にできてほしい」ことが、様々な実例を踏まえてわかりやすく書かれているのです。

 

特に新入社員に読んでいただきたいのは「第五章 この“当たり前”ができますか」という部分です。

一部を抜粋して紹介します。

 

ある中小企業の社長がいました。

この社長は丁寧な紳士言葉ではなく、言葉遣いも荒く、部下の頭を工具でひっぱたくこともあったそうです。

当時部下で後に副社長になった方でさえ辞めようと思ったことが50回以上はあったとのこと。

 

そんな中、その企業は自社製品で世界最高峰のレースに出場することになります。

緊張感が最大限に高まる中、その社長から一通の電報が届きます。

普段そのような社長だったので「何としても優勝しろ!」とういう追い詰める内容だと思い恐る恐る読んでみると、

 

「マケテモイイカラカラダタイセツニセヨ(負けてもいいから身体大切にせよ)」

 

と一行だけ書いてあったそうです。

それを読んだ最前線の技術者は涙が出るほど嬉しく、社長の懐の深さを感じたと後に述べられています。

この企業が後に大企業へと変貌を遂げるホンダです。

 

社運をかけてのレースでしたので何としても勝ちたいのは社員の生活を背負う社長の本音だったでしょう。

しかし、会社の存続もさることながら何より重要視したのは前線にいる社員の身体だった。

そんな当時社長だった本田宗一郎氏の人柄をしのばせるエピソードです。

 

 

それに対し、ある企業のエピソードが比較として述べられています。

その企業の倉庫が火災で全焼しました。出先の社長から電話が来ます。

内容は、

 

「製品はどうした」

「経済的な損失はどのくらいだ」

 

といった話に終始したそうです。

この社長は人を叱ったり、ひっぱたくということはしない人だったようです。

 

しかし、上記の電話を受けた当時の幹部は

「社員のことに関することを全く聞かなかったことで、その会社を辞めることを決心した」

ということです。

 

このように嫌われないという目先のことではなく、社長の社員からの信頼というより大切なものがないと会社というのは存在意義さえ失われてしまう、という例です。

 

本の紹介に戻りたいと思います。

この本で述べられていることを実際に教えてくれるような人は人生で数人しか会うことはできないでしょう。

そのためこの本は一度読んで終わりというよりは、新入社員が悩んだとき、迷ったときに自分で道を決めるときの一助になるパートナーにしていただければと思っています。

製造業の若手・新入社員に向けたメッセージ

まずは言われたことをきちんとこなし、プラスαの付加価値をつけてアウトプットの質を上げていくこと

私もまだまだ精進が必要ですが、今までの人生の中でこの本で書かれたことが間違っている、と感じたことはありません。

恐らく人となりの「原理原則」が書かれているからでしょう。

社会に出ると大変なのは、年長者が必ずしも正解を持っていない、場合によっては間違ったことを教示してしまう可能性があるということです。

 

誤解を招かないように一つだけ付け加えると、新入社員に求められる最優先は、

「言われたことをきちんとこなし、プラスαの付加価値をつけアウトプットの質を上げていく」

ということであることに疑いの余地はありません。

 

初めから言われることすべてに懐疑的になり自己主張をする若い方も見受けられますが、社内のルールを理解し、少なくともある程度周りからの信頼を得るまでは言われたことをきちんと行えることが最優先です。

ただ、今の段階から並行して「人としての当たり前は何か」ということを上記の本を通して頭に入れておけば、後に自分の意見を述べるときに人を説得し企業をより良い方向に向かわせる、ということも可能になっていくと思います。

新入社員の方々にとってご参考になれば幸いです。


私がオススメします

吉田 州一郎

FRPコンサルタント

東京工業大学工学部高分子工学科(有機化学)卒業後、ドイツ研究機関 Frauhofer Institute にて1年間医療材料研究のインターンを終了し、東京工業大学大学院修士課程(高分子応用研究)修了。学術論文一覧は研究者向けSNSである ResearchGate にて公開中。

大手機械メーカーの航空機エンジン部門にて、10年以上にわたりFRPに関連する業務に従事。社内試作から始まったCFRP航空機エンジン部品の設計、認定開発、海外量産工場立ち上げを完了。本部品は先進性が高いという評価を得て、世界的FRP展示会 JEC にてInnovation award受賞。新規FRP材料研究においては、特許や海外科学誌への論文投稿掲載を推進し、Polymer Journal、Polymer Compositesをはじめとした科学誌に掲載。

主な著書に『CFRP~製品応用・実用化に向けた技術と実際~』(共著)など。

Professional member of Society of Plastics Engineers(SPE; 米国プラスチック技術者協会)
– 高分子学会(The Society of Polymer Science) 正会員
– 繊維学会(The Society of Fiber Science/Technology)正会員
– NPO インディペンデント・コントラクター協会(IC協会)正会員
– 国立大学法人 福井大学 非常勤講師

http://engineer-development.jp/