正しい判断ができる技術者になるために、「技術屋の心眼」を磨く

技術屋(エンジニア)の心眼

E.S. ファーガソン

オススメの理由

設計者に特にオススメ。技術者の経験に基づく「技術屋の心眼」と、その必要性がわかる

私の「新入社員にオススメする一冊」は、この本である。新入社員と言っても、特に設計の方におススメしたい。

この本は、私がこの本に出会ってから今でも常に見返す座右の一冊である。この本の最初に、以下のように書かれている。

 

 

「技術によって生み出された人工物に含まれている知識は、どんなものであれ科学がもたらしたものにちがいない ―― 科学の時代と言われる今日、こうしたあまりにも安直な考えが一般的となっている。これは現代の俗説の一つであり、そうした俗説は、技術に携わる人々がわれわれの住んでいる世界を形づくるに際して、科学的とはいえない多くの決定 ―― 大きなものも小さなものも ―― をしていることを無視している。日常使用している多くの物体が科学の影響を受けていることはたしかである。しかし、それらの形状、寸法、外観は、技術に携わる人々 ―― 職人、技術者、発明家 ―― によって、科学的ではない思考法を用いて決定されてきたのである。」

 

 

これこそが、著者がこの本の中で述べたかったことなのである。

技術によって生み出された人工物は、確かに科学によってもたらされたものではあるが、それを決定したのは学校教育で習得した知識によっているのではなく、技術者の経験に基づく「技術屋の心眼」によっている。

これまで学校で多くの知識を学んできた新入社員の皆さんが、社会という実践の場で磨いてほしいのは、この「技術屋の心眼」である。

ものごとを決定するには、確かに知識は必要ではあるが、知識があるだけでは決定できない。

そしてこの本にはまた、次のようにも書かれている。

 

 

「技術に携わる人びとが構想している物体の特徴や特質の多くは、言葉では明確に表現することができない。それゆえ、心の中で、視覚的で非言語的なプロセスによって処理されることになる。」

「心眼は、思い起こされた現実のイメージと思い描いた工夫のイメージが存在する場所であり、信じられないほどの能力をもつ不思議な器官である。心眼は、ほんとうの眼を通して入ってくるよりもずっと多くの情報を集めて解釈し、生涯にわたる感覚的情報 ―― 視覚、触覚、筋力、内臓、聴覚、臭覚、味覚の情報 ―― を集積して、相互につないで関係づける。」

 

 

そのためには、単に図面を書いて設計するだけではなく、それを作る方法やそれを使う人にも心を配ってほしい。

設計室にこもるのではなく、製造現場や工場に足を運び、あらゆることを見聞きして正しい判断のできる技術者になってほしい。この本は、さらに次のように書かれている。

 

 

「不幸な設計の誤りを避けようとするなら、技術者はそうした誤りは数学や計算の間違いではなく、技術判断 ―― 工学的科学や数学に還元することのできない判断 ―― の誤りであることを理解する必要がある。」

 

 

この設計の誤りについては、この本の中では、1907年8月29日に起きたケベック市のセント・ローレンス川に建設中の片持ち梁式鉄道橋の崩落事故や、それほどでもない積雪荷重によるハートフォード体育館の「近代的な」立体骨組構造の屋根の崩壊(1978年)など、多くの例を挙げて解説している。

 

 

「不確実な世界の中の現実のものの設計が成功したなら、それはどんな場合も科学よりむしろ技に基づいたものであろう。数量化できない判断と選択は、設計が現実のものとなる道筋を決める要素なのである。」

 

 

この、判断と選択ができる人になってほしい。特に新しい自動化設備などというものは、これまで人が行っていて機械が行っていなかった作業を、初めて機械化するのである。

そこにはどんな問題があり、それを回避するためには何をしなければいけないか、といった判断と選択は、学校で学んだ知識のみではとうてい実現できない。

製造業の若手・新入社員に向けたメッセージ

心眼を磨き、将来はぜひ技術士に

心眼によって、思い起こされた現実のイメージと思い描いた工夫のイメージから、多くの情報を集めて解釈し、障害にわたる感覚的情報を集積して、相互につないで関係づけて、判断と選択ができる技術者になってほしい。

そして、この心眼を磨いたならば、将来はぜひ技術士にチャレンジしてほしい。


私がオススメします

竹内 利一

竹内技術士事務所 所長

1983年、東京電機大学工学部卒業後、株式会社日立産機エンジニアリング入社。

ロボット周辺装置、搬送・部品供給装置、試験装置など、主に自動制御設備の設計を務める。
2015年に竹内技術士事務所を開設する。
専門領域は「自動制御設備」「機械装置」など