粉末X線回折法(XRD)による物質の同定
個人的には回折法ではなく干渉法だと思うのですがそれは置いておいて、粉末X線回折法(XRD)による解析方法について簡単に説明します。
今では解析ソフトで誰でも簡単に分析出来ますが、以前はチャートに書かれたピークに定規をあてて角度(2θ)を測り面間隔を計算して、この面間隔を元にASTMカードで一致する物質を探すという作業をしていました。
こんな面倒な作業を勧めるつもりではなく、解析ソフトが何をしているのか知っておく事も大事だと思います。
また、試料が少量の場合や、粉末ではなく欠片を測定する方法について紹介します。
粉末X線回折法(XRD、X-ray Diffraction)
試料粉末にX線をあて、その干渉現象から得られたピークを元に結晶構造を求め
物質の同定や配向性などを調べる分析方法です。
決まった結晶構造を持たない物質(非晶質)には向きません。
試料をセットして測定を開始すればPC画面に下図のような結果が表示されます。
横軸は角度(2θ)、縦軸は強度です。
X線回折装置には解析ソフトが付属しているので、測定した結果を取り込んでそのまま物質の同定を行います。
含有する元素を入力すれば、その元素を含み測定結果と同じピークを持つ物質の候補が表示されます。
解析は候補の中から一致する物質を選ぶ作業です。
物質を選択すると、各ピークの2θ、d(面間隔)、強度、半値幅(高さの半分の位置の幅)などが出てきます。
全てのピークがあてはまれば終了です。
いくつかピークが残る場合は、異なる物質が存在するので同様の作業を行います。
次の試料を測定している間に、解析を済ませる事が出来るほど容易です。
では、この解析ソフトは何をしているのか、これを自分でするとしたらどうなるでしょう。
面間隔の計算
X線のチャートから物質を同定するには、先ず初めに面間隔を求めます。
自分で面間隔を計算するには、ピークの角度を定規を使って読み取り
次に、この角度をブラッグの式に入れて計算します。
2d・sinθ = nλ (n=1,2,3・・・)
ここで求めたい面間隔がd(Å)、λ は使用したX線の波長ですが、Cu(銅)Kα線であれば波長は1.5418Åです。
n は波長の整数倍で干渉現象が起きるので正の整数になりますが先ずは n=1 で計算します。
例えば チャートの40度の所にピークがあったとします。
2θ が40度 なので θ=40÷2 です。面間隔 d は
d = 1.5418÷2÷sin(40÷2) = 2.254 (Å) となります。
ここではブラッグの式の詳細は割愛しますが下図のように
結晶面1と面間隔がd 離れた結晶面2が反射するX線では、入射角をθとすると 2d・sinθ だけズレます。
このズレが波長の整数倍になった時に干渉現象が起きます。これがピークとして表示されます。
ピークの面間隔を全て計算したら、次はピークの強度比の計算です。
ピークの高さは干渉の強さ(強度)を表しています。
一番高いピークが第1ピーク、二番目、三番目が第2、第3ピークとなります。
第1ピークを100として、第2、第3ピークの高さを比率にした値が強度比になります。
ここまで出来たらいよいよ物質の同定です。
物質の同定
チャートから得られたピーク(面間隔)が一致する物質を探す作業です。
検索のデータベースになるのはASTMカードです。
ASTMカードには物質ごとにピーク(面間隔)と強度比が記載されています。
(他にも結晶系や格子定数等の情報も載ってます)
1枚1物質ですが、纏められ製本されています。
このままでは探せないので、このASTMカードの目次の様な2種類のINDEX本があります。
一つは物質名で纏めたもの、もう一つは面間隔を第1、第2、第3ピークの面間隔で纏めたものです。
物質がある程度特定できるのであれば、可能性のある物質名で検索してピークが一致する物質を見つけます。
面間隔から求める方法は、INDEX本は第1ピークの面間隔の順に並んでいるので、
第1ピークの値が同じものの中から第2、第3ピークが一致する物質を探します。
膨大なデータの中から物質を特定するので、なかなか時間が掛る作業です。
解析ソフトはこれらの作業をしています。
入力された元素を含む物質で面間隔が一致する候補を
データベース(ASTMカード情報など)から選出してくれています。
測定者はその中から選んでいるだけです。
今回の測定結果から物質の同定をしてみます。
※d;面間隔、I:強度、hkl:面指数
測定結果の2θの値から計算した面間隔(d)で検索した結果、
カード番号 00-046-1212 と一致しました。
カードには次のような情報が記載されています。
化学式:Al2O3,名称:Corundum
結晶系:Trigonal(三方晶)、空間群:R-3c
格子定数: a = 4.7590、b = 4.7590、c = 12.9930、α = 90.000、β = 90.000、γ = 120.000
この試料は酸化アルミニウム(アルミナ)だと分かりました。
試料の準備
計算や同定は解析ソフトで簡単になりましたが、試料の準備は昔も今もそう変わりません。
粉末X線回折法なので基本的に試料は粉末ですが、セラミックの欠片を調べたい事もあったので、その方法もご紹介します。
①そこそこ量がある粉末の場合(薬さじ1杯)
サンプルの量が多いのでピークが強く現れます。
方法はアルミセルに試料を押込み平らにするだけです。
文章にすると簡単なのですが、アルミセルは底が無いただの額縁状なので
しっかり押し付けないと装置にセットする時に粉がこぼれて大変なことになるので要注意です。
学生時代時々装置内を掃除している人を見かけました。
②試料が少ない場合(薬さじ少々)
ガラスセルを用います。深さは2通りあるので試料の量でどちらにするか選びます。
底があるのでサンプルの準備は簡単です。試料をセルの凹み部分に入れ平らにして出来上がりです。
③とても少ない場合(耳かき程度)
少々測定精度は落ちますが、簡単なので紹介します。
ガラスセルの凹み部分に両面テープを貼り、その上に試料をまぶして平らにします。
試料の表面とセルの表面を同じ高さにすることが大事です。
また、事前に両面テープを測定してピークを持たない材質であることを確認してください。
④試料が欠片の場合
精度は良くないですが、焼いたセラミックの破片を測定したい時は次のようにしていました。
アルミセルの真ん中に試料のなるべく平らな部分を下にして置き、上から粘土でセルと試料を固定します。
測定の時はセルをひっくり返して試料の平らな面を測ります。
なので出来るだけ試料の平らな面が測定面になるようにしてください。
また、測定中に試料が動かないようにしっかり固定する事、粘土は出来ればピークを持たない材質を選ぶようにしてください。
ここでは物質の同定として粉末X線回折(XRD)法を紹介しましたが、
この他にも結晶系や配向性など多くの情報を得られる割に
比較的容易な分析方法なので是非一度試してみてください。
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