機械設計と材料のちょっとおもしろい話
・ボルトは長くて細いものが強いことがある。材料としての、SCM(クロムモリブデン鋼)の強さについて。
・慣性モーメント(イナーシャ)の問題。軽くて強いプラスチック系の新素材活用。
・DRBFMはうまく回すと有効。
まず、設計の第1段階で設計計画します。処理能力(製品の生産数/回or月等)、サイクルタイム(時間/回)、フットプリント(装置の床面積)を決めていきます。
以前に設計した装置で、初号機立ち上げ後のVer.Upモデルとして、ローダアンローダ付きの機械をリリースしたのですが、制御担当者と組立担当者の協力でサイクルタイムを改善し、リピート受注が半減したのは、うれしいような悲しいような思い出です。
次に、使用環境の考慮となります。電源、エアー(シリンダ駆動源、真空等)、水(冷却)、油(潤滑、プレス)等の条件を加味して、構成部品の選定等に注意します。
当り前なのですが、通常では押してもたわまないフッ素ゴム製のφ10mmのO-RINGが真空(90kPa)引きで、5%たわむのは計測値で見ているとびっくりでした。
第3に、アクチュエータの選定では、ベルト、歯車、カム、エアーシリンダーやボールねじ等をうまく使いこなすことが重要です。この部分はJIS規格品やメーカ推奨値がありますので要求仕様に基づいて選定します。
ここで、慣性モーメントの計算には、負荷質量と重心位置が問題となります。(手計算で行うと、複雑な構成部品では結構大変でした、今はCADモデルを作成して、比重を入力すると容易にできるようになりました)。
これに、運転速度、加速度条件を加え、許容トルクに耐えうる型番選定をします。
よって、軽くて、強い材料が良いわけですが、経済面も考慮して決めていきます。
一般的には、ジュラルミン系のアルミやチタン材がロボットハンド等に使用されますが近年では、FRP(繊維強化プラスチック)の利用が増えてきているようです。
基材は、熱硬化性プラスチック(エポキシ、ポリエステル、フェノール、熱硬化性ポリイミド等)を使用し、繊維素材をミックスさせたものです。
余談ですが、学生時代では、GFRP(ガラス繊維使用)の積層重合で、手漕ぎボートを皆で作ったことがありましたが、6m越えの長さでも軽い印象が残っています。
CFRP(炭素繊維利用、基材はエポキシ)を使い、ロボットハンドを製作しましたが、使用した材料特性として、比重が1.7(参考_鉄:7.8, AL:2.8)、引張強度が2700MPa(鉄:700MPa、AL:500MPa)であり、強くて軽いことから慣性モーメントを抑えられ、ロボットの許容荷重から、1ランク下のものを使用できました。
材料選定に関して、金型などでは、硬い材料を求めます。強くて摩耗しにくい特性を得るため、熱処理を加えることがありますが、これに適した材料としてSKS, SKD, SKH等の合金工具鋼が挙げられます。適切な熱処理条件(温度、時間)の管理で使用条件にあったものを選定します。また、経年変化を抑えるためには「サブゼロ処理」(焼入れ後、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させるために行う熱処理で、常温よりも低い温度へ冷却し、その温度で灼熱する熱処理。)を併用させておくことも重要です。
機械要素の代表例として締結用のボルトがありますが、この材質ではステンレス材とクロムモリブデン鋼(SCM材)が一般的です。
ボルトの強度区分で、6.8や12.9の数字がありますが、これは6や12が最小引張強さの1/100を示し、第2の数字8や9が引張り強さに対する降伏強さ(降伏点または耐力)の比を表しています。よって、12.9の強度区分とは、引張り強さ=1200(N/mm2)を保証、耐力=1080(N/mm2)と考えられます。ステンレス製ボルトでは、オーステナイト系材料でA2-70の強度区分とは、引張り強さ=500(N/mm2)を保証、耐力=210(N/mm2)、である機械的性質を示しています。
ここで、強度のあるものとしてSCM材(強度区分10.9や12.9)の六角穴付ボルトが流通も容易で一般的です。
この数値からもわかるように、ヤング率(縦弾性係数)がほとんど変わらなくても、降伏強さが大きいことから、SCM材は、一般構造用鋼(SS400やS20C材)と比較して強いのです。例えば、1本のM3のねじ(SS400)では,465 N(47 kgf)程度の荷重まで使用でき,約1164 N(119 kgf)の荷重で不具合が生じ、約1900 N(194 kgf)の荷重で破断するが、これをSCM材とすると、1211 N(123 kgf)程度の荷重まで使用でき、約3960 N(404 kgf)の荷重で不具合が生じ、約4654 N(475 kgf)の荷重で破断する計算となり、2~3倍強いことがわかります。
上記の計算は、静荷重条件であり、変動荷重を受ける部分では、「疲れ限度」での検証が必要です。(疲れ限度は、機械学会での資料で、条件別(片/両振り、圧縮、引張)に定義され強度区分10.9の場合、420(N/mm2)相当です)。
このとき、締め付けネジ部から首下までの距離が長く、細い(ねじ径の小さい)ボルトが、材料ひずみに対して許容力があり、有利となります。(σ=E・εの条件より)
これは、不思議な感覚ですが、繰返し応力のかかる場合のねじとして首下を細くしたねじが使用されることがあることを頭の片隅に入れておいていただければと考えます。
基本的に上記のボルトの例を含めて、強度や寿命的に考え、最も弱い部分を特定して、種々の強度計算を行うことをお勧めします。他に、製作図段階では、防錆性からの表面処理技術や加工性、組立容易性を考慮する必要があります。
最後になりますが、設計の検証方法としてDRBFMの活用をすると良いでしょう。
これは、「Design Review Based on Failure Mode」の頭文字を取ったもの。日本語に訳せば「故障モードを基にした設計審査」となります。私たちがこの手法を応用して、デザインレビュー実施に当たっては、段階的に心配となる項目をリストアップして、その結果を数値で表し、確認します。
設計変更が必要な場合、その根拠を記録しておくことが有効です。
また、検証会議のメンバーも、加工、組み立て、品証部門を含めて、確認することにより
作り直し等の発生頻度を抑えることができるようになります。
この時の、説明図は3D-CAD等の活用で、動作前後のイメージを含めて検証できると出席者の理解も深まりますね。
以上、設計上の注意点を含めて記述させていただきましたが、ある程度の経験と知識をもってより良い設計に心がけて頂ければ幸いです。