技術指導のコツは身近なものにヒントがあった!?
テクダイヤの精密機械加工製品とダイヤモンド応用製品の技術担当です。
これまでフィリピン・セブ島にある量産工場への技術指導を幾度となく行い、現在はセブ工場に駐在しています。
これまでの経験から、相手に伝わり易い技術指導のコツについて書きます。
私は趣味でゴルフを楽しんでいます。
決して上手くはありません……。
でも、やるからには上手くなりたいので、レッスン動画や雑誌などを参考にするのですが、一向に上達しません。
「ここを、この様に……」など細かく説明されているのですが、いざ実践に移すと全く上手く行かず。
あんなに広いゴルフコースなのにどうしていつも木の下を歩かないといけないのか。
真っ直ぐ飛ばせる様に、もっと分かりやすく明確な方法で教えてほしいのですよ……。
そうは言っても、自分が出来る事を他の人間にも出来るように指導するという事は、一見簡単そうに思えますが、実は非常に難しい事です。
その指導する内容が技術スキル、しかも舞台は海外とくればなおさら困難を極めます。
テクダイヤ製品の多くはフィリピン・セブ島にあるCebu Microelectronics,Inc.(通称CMI)で生産を行っております。
生産していると言っても、決して最初から上手く工程が立ち上がっている訳では無く、工程立上げには日本人技術者による的確な技術指導が必要です。
しかしそこは海外工場。 言葉の壁や文化の違いなど様々な問題があるが故、日本人技術者による工程設計と、作業レシピとなる作業指導書が非常に重要になります。
日本人技術者が作成した作業指導書と共にCMIへ技術移管を行うわけですが、以前、私が担当したダイヤモンド応用製品の技術指導で、想定外の問題が発生しました。
・製品の要であり、最も難易度が高い工程だと思っていた内容は、全く問題無く技術習得完了。
・逆に最も易しいと気にもしていなかった工程で不良が頻発……。
それは何故か?
難易度が高いはずの前者のダイヤモンド研磨工程は、
【〇〇番の砥石で、〇〇μm切り込み、それを〇〇回繰り返し、その次は〇〇番の砥石で……】
のように、完全に数値で管理した工程の為、作業者は単純明快に理解可能だったのです。
一方、自分が易しいと考えていた後者の工程の作業指導書はと言うと、
【写真に記した位置で、グラつかない程度にダイヤモンドを固定する事】
など、自分の感覚だけで記した工程だったのです。
「写真の位置で、って書いてあるけど、こういう場合はどうするの?」
(ダイヤ原石サイズの誤差……。 たしかに天然ダイヤなので全部同じサイズではないよね……。)
「次工程でダイヤモンドが取れちゃったけど、私の力だとグラつかなかったけど?」
(そうだよね、みんなが同じ力な訳ではないよね……。)
「グラつくなって書いてあるから、力強く確認したらダイヤモンドが割れたけど?」
(ちょいちょい、加減というものを……。でもわかる。僕もネジは力いっぱい締めたい派だし……。)
想定外の問題がたくさん出ました。
指導者のスキルでは簡単に出来ていた作業が、他人には作業内容が曖昧に感じ、いわゆる「感覚」の部分が明確に伝わらなかったのです。
つまり、前者は明確な【デジタル的作業】で、後者は曖昧な【アナログ的作業】になっていたのです。
でもこれ、もし自分が教わる立場として考えたら当たり前の事でした。
身近な例で言うと、料理レシピなどがあてはまりますね。
【肉:〇〇〇g】【水:〇〇〇ml】【塩:小さじ〇杯】
といった様に具体的な数値で説明しているからこそ理解出来る訳であって、もし、
【肉:食べ切れる程度】【水:味が薄まらない程度】【塩:塩辛く感じない程度】
などと感覚で説明されたら全員が同じ仕上りになる訳がありません。
結局その問題が多発した工程は工法を一から見直し、
・感覚で作業する部分を数値に変換出来る工法(アナログ作業からデジタル作業へ)
・成るようにしか成らない道具を考案(迷う要因を排除した工法へ)
に変更する事で解決しました。
まとめますと技術指導は、出来る限り数値を用い、もしくは数値に変換出来る工法を選び、作業者が明確に理解出来、且つ迷いが出ないような【デジタル的な指導】で行う事が重要です。
様々な自動化が進む中でも、どうしても人間の手には敵わない技術があります。
また単純作業でも、どうしてもデジタル的な作業に置き換えられない工程もまだまだあります。
「自分の感覚を他人に伝授する」
これは技術指導で言えば永遠のテーマかもしれません。
とまぁ色々と話が長くなりましたが、結局何が言いたいのか?と申しますと……
どなたか私に、絶対に曲がらないゴルフスイングを【デジタル的に】教えて下さい……。(切実)