初心者から上級者までちょっとためになる熱膨張率の話

初心者から上級者までちょっとためになる熱膨張率の話

教科書の話から経験した話まで、ちょっとためになるかもしれない熱膨張率の話。
 
熱膨張率(coefficient of thermal expansion: CTE)は、温度の変化によって、物体の長さや体積が、膨張あるいは収縮する割合を、温度当たりで示したものである。熱膨張係数や単に膨張係数とも呼ばれる。筆者は膨張係数が馴染みのある言葉であるため、以降、線膨張係数を膨張係数と表現する。

また、温度変化による長さの変化に対しては、線膨張率、線膨張係数と呼ばれ、体積の変化に対しては、体積膨張率と呼ばれる。特に指定の無い場合、線膨張率、線膨張係数を意味する場合が多く、膨張率をαと示されている場合は、線膨張率、線膨張係数のことである。単位は1/Kや1/℃で示され、多くの場合、温度範囲が示されている。これは、後述する通り、温度範囲で膨張係数が変化するためである。

 

○日常生活と膨張係数

日常生活において膨張係数と関係する事例は、結構多い。たとえば、家庭のガラスのコップにお湯を注ぐと割れるが、理科の実験で使うビーカーなどにお湯を入れても割れないなどである。お湯によってガラスが割れるメカニズムは、お湯によって急激にコップの内側が暖められ膨張しようとするが、外側はガラスの熱伝導率が低いため暖まらず形状を維持しようとし、コップの厚みの内外で歪が生じる。この歪による応力が、ガラスの強度よりも上回った時にガラスが割れる。表1に、一般的なコップとビーカーの熱膨張係数をそれぞれ示した。

表1

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膨張係数 をα、ヤング率 をE とすると、ΔT だけ温度変化したとき、生じる熱応力 σt と熱ひずみ εt は以下の式で表される。

σ t = − α E Δ T , ϵ t= − α Δ T

この式から、両者で温度変化、ヤング率が同じ場合、ビーカーに対して約3倍の熱応力がコップにはかかることが分かる。実際、両者のヤング率や強度には大きな違いがないため、コップのみが割れる。

 

○電子部品と膨張係数

一般的に電子部品は、単独で使用することはなく、何か別のものに接着させて使用する。この時気を付けないといけない材料特性の一つが、膨張係数である。膨張係数の異なる材料を接着する場合、一方の膨張係数をα1もう一方をα2とした時、熱ひずみはϵ t= − (α1-α2) Δ Tで計算されるため、膨張係数差、温度変化が大きいほど、熱ひずみが大きくなると言える。また、膨張係数差が大きくても、温度変化がない場合は熱ひずみはゼロとなる。たとえば、常温で固化する接着剤を用いて接着を行い、使用温度環境も一定であれば熱ひずみは生じない。

我々が取り扱っているセラミックコンデンサや回路基板は、ろう剤としてAuSn(金錫)やAgペーストが主に用いられる。AuSnで280℃、Agペーストで150℃程度で固化する。冷却後、常温25℃との温度変化を考えると、ΔTはそれぞれ255℃、125℃となる。よって、Agペーストに比べ、AuSnで接着する方が、発生する熱ひずみは大きいといえ、接着する材料や条件によっては部品が破損することがある。これらの理由もあって、電子部品では、銅、石英、アルミナなどと膨張係数が近い部品が欲しい、膨張しない膨張係数がゼロに近い部品が欲しいといった要求がある。

 

○膨張係数で注意すべき点

温度領域によって膨張係数が微妙に異なるのは一般的であるが、ある温度、ある温度範囲によって、膨張係数が大きく異なる場合がある。特にある温度で結晶転移する材料などは、注意が必要である。たとえば、二酸化ケイ素 (SiO2) の結晶多形の一つクリストバライトはその代表例で、200℃付近で結晶が低温安定相αと高温安定相βの間で相転移するが、このとき大きな体積変化を伴う。このような材料も存在するため、使用する温度領域や、材料の特徴を、よく把握しておく必要がある。

また、結晶構造を持ち、かつ配向性を示すような材料は、a軸b軸c軸とそれぞれに膨張係数が異なる場合がある。そのため、このような材料を膨張係数の観点で考察する上では、注意が必要である。

 

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創業40年の製造業。ダイヤモンド事業からスタートしたテクダイヤは、会社本来の「人好き」が作用し、人との出会いを繰り返しながら業態変化を続ける。 現在はセラミック応用技術・精密機械加工技術・ダイヤモンド加工技術をコアとしながら先端技術のものづくりを支える。スマホやデータセンターなどの通信市場、更にはNASAやバイオ領域にも進出中。