作業中のトイレも規律の内?
ある日系の会社で業容拡大に伴い新しい工場を建てた。既存の工場はパートナーとの共同出資で行っていたものだが、新しい工場は100%自前で行うことにした。
工場の責任者には日本から赴任していた人をあてた。この方は、それまで既存の工場と顧客との間に入って品質問題などを見て、顧客対応全般を担当していた。工場の作業などもよく知っていた。
そんなこともあり現地総経理から大きな期待を持って工場長に抜擢されたということだ。工場のレイアウト設計から任された。
工場を立ち上げて半年くらいの時期にこの工場を見る機会があり、じっくり見させてもらった。見ていって最初に気になったのが作業者同士のおしゃべりが多いということであった。
そしてびっくりしたのが、作業中に作業員が次々と席を離れ、トイレに行っている光景を見たときだった。この工場は午前、午後の途中に休憩時間を設けており、トイレはその時間中に済ませるのが基本のはずだが、実態は違っていた。
工場長に聞くと、この工場では作業中にトイレに行くのをOKとしている。それも午前に1回、午後に1回作業の途中に行ってよいことにしているという。
今日のポイント
なぜ10時と3時の休憩時間に行かせないのか? 多くの作業者がトイレを使って、休憩時間以外にも合法的な休憩を取っていた。当初工場側では、この作業中のトイレをどのくらいの作業者が使い、どのくらいの時間仕事から離れているのかなどまったく掴んでいなかった。
作業時間中のトイレをどうして許可しているのか、工場長に聞いたところ、トイレを我慢して作業の精度に影響が出るくらいならトイレに行かせた方がいいとの説明があった。
この言い分は甚だ疑問であるが、もう少し実態を見ないと何ともいえないと思い様子を見ていた。ただ、作業者が作業時間中のトイレでどれくらい時間をロスしているかは実態を掴む必要はある。
人数と時間を必ず記録するようにした。1日記録を取っただけで1ヶ月の延べ時間にすると相当の時間がトイレに消えていることがわかった。問題だったのは、その消えた時間を掴んでも工場長が何のアクションも起こそうとしなかったことだ。
いろいろと話を聞いていくと直接的には言わなかったが、規律を厳しくして作業者が辞めるのを怖がっていたような印象を持った。確かに、この工場は作業者を1人前にするのに多少の時間と手間がかかるのは本当であった。
補足
この会社は作業者の採用にあたって新卒者は採らず、工場勤務経験者を採るようにしている。よその工場で作業中にトイレに堂々と行けて、休めるところなどないはずで、それが厳しい規律とは余計な心配である。
しかし、わたしがこの工場を見たときには作業者はこの合法的なトイレ休憩に慣れてしまっており、すっかりタガが緩んでいる状態であった。