中小企業とは?

中小企業とは?

中小企業はすべて大企業に搾取される弱体的な存在だから、すべからく国が支援しなければならない、といった伝統的な二重構造論が、中小企業論や中小企業政策に対して、いまだに影響を与えています。

しかし、実際に地域を回ってみれば、たしかに政策金融や保護によってやっと生かされている企業もありながら、一方には儲かっているけれど儲かっているからこそそれを口に出さない中小中堅企業や、今は赤字だけれど現場力と潜在力を持った企業など、その実態は様々です。

十把一絡げに論じるわけにはいきません。中小企業論の大家である中沢孝夫先生の「かわいそうな中小企業はいるが、中小企業はかわいそうではない」というお言葉はけだし名言であり、方々の現場を見て回っている私にも大いに腑に落ちます。

 

また、中小中堅企業は大企業に劣るという考え方が一般的ですが、はたしてすべてにおいてそうなのでしょうか。

たしかに規模の違いゆえ、資金力や発言力、あるいは人材採用力などの点ではそうでしょう。しかし、経営者による現場把握力では工場の2階に社長室があるといった中小企業のほうが、すべてとはいわないまでも平均すれば上と言えましょう。

あるいは、その地域で利益と雇用を両立させようという意思では、地域の中小中堅企業や大企業の生産子会社のほうが、たとえば都心の大企業本社を上回ることが圧倒的に多いと思います。

 

そこで、かねてより私は中小中堅企業に対する政策としては、「フロントランナー方式」を提唱しています。

つまり、①各領域で先頭を走るフロントランナー企業がさらに走れるような支援や規制改革を行う産業政策と、②それについていけない劣後企業の生活者を支援する社会政策を峻別して、この二つを混同しない、という考え方です。産業政策はあくまで①を主体とすべきです。

まず、地域の「強い現場」の潜在力を信じ、それをダイレクトにサポートする政策が必要です。規制改革や先端設備にお金をつけるといった従来の取り組みは間違いではありませんが、そればかりでは地域の産業力の底上げにはなりません。

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出典:『<藤本教授のコラム>“ものづくり考”』一般社団法人ものづくり改善ネットワーク

一般社団法人ものづくり改善ネットワーク


一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長◎略歴 1979 東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社  1984 ハーバード大学ビジネススクール博士課程入学 1989 博士号取得 1989 ハーバード大学研究員 1990 東京大学経済学部助教授 1996 リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員 1996 ハーバード大学ビジネススクール客員教授  1997 同大学上級研究員  1998 東京大学大学院経済学研究科教授 2002 日本学士院賞/恩賜賞受賞 2004 ものづくり経営研究センターセンター長 2013 一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎主要著書 『製品開+B1発力』キム・クラークと共著,ダイヤモンド社,1993/『生産システムの進化論』有斐閣,1997/『サプライヤーシステム』西口敏宏、伊藤秀史と共編著,有斐閣,1997/『成功する製品開発』安本雅典と共編著,有斐閣,2000/『トヨタシステムの原点』下川浩一と共著,文眞堂,2001/『ビジネス・アーキテクチャ』武石彰・青島矢一と共編著,有斐閣,2001/『生産マネジメント入門(I)(II)』日本経済新聞社,2001/『能力構築競争』中央公論新社,2003/『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社,2004/『中国製造業のアーキテクチャ分析』新宅純二郎と共編著,東洋経済新報社,2005/『ものづくり経営学-製造業を超える生産思想-』東京大学ものづくり経営研究センターと共編著,光文社新書, 2007/『日本型プロセス産業』桑嶋健一と共著,有斐閣,2009/『ものづくりからの復活~円高・震災に現場は負けない』日本経済新聞出版社,2012/『「人工物」複雑化の時代』編著,有斐閣,2013/『ものづくり成長戦略――産・金・官・学の地域連携が日本を変える』柴田孝と共編著,光文社新書2013/『ホンダ生産システム』下川浩一らと共著,文眞堂,2013/『現場主義の競争戦略-次代への日本産業論-』新潮社新書2013/『ITを活かすものづくり』朴英元と共編著,日本経済出版社2015/『日本のものづくりの底力』新宅純二郎、青島矢一と共編著,東洋経済新報社2015/『建築ものづくり論』野城智也、安藤正雄、吉田敏と共編著,有斐閣2015/『ものづくりの反撃』中沢孝夫、新宅純二郎と共著,ちくま新書2016/『ものづくり改善入門』監修(一社)ものづくり改善ネットワーク編,中央経済社2017◎ものづくり改善ネットワーク