中国では8時に着替えてOKか?(コメント3)
前々回に引き続き追加募集でいただいたコメントを紹介する。3人のコメントをくれた方、ありがとうございます。最初は、芋たこ北京さん。
『自分が見ていた、北京の合弁工場の事例を紹介します。朝の始業時間には、始業のベルがなる前に、全員ミシンの前に座っていなければなりません。
それよりもユニークなのは、昼食休憩・終業の際の行動。休憩・終業の5分前に予備鈴がなります。それに従い工員は、全て手元の作業を終えねばなりません。
予備鈴がなく、最初から終業鈴だと、仕掛かり品をミシンに放置して帰りかねません。縫いかけで生地がミシンにはさまれたままでは、休憩時間のうちに、ミシンの運針用の潤滑油が、少量ですがミシン針を伝い落ちてきて生地を汚してしまいます。
したがって、予備鈴で一旦目の前の作業を負え、本鈴では、各班(3班構成でした)順番に立ち上がって、班ごとに一列整列のまま出口に向います。前の班が出た後に、次の班が立ち上がる。不公平をなくすために、班の順序は、毎週交代です。
この工場、長年日本人技術者に見てもらってはいますが、同時にこれだけの人員管理を徹底できたのは、立上時に工場に寝泊りしていた、現地工場長の力といえます。参考になれば』
参考になりますね。作業を終えて帰る時の後始末はとても気になるところですね。これがきちんとできている工場の多くは、品質がいいようです。
次にZさんです。
『根本先生の記事にきっかけとなるコメントをメールした張本人です。就業時間前の着替えがコスト削減ではなく、コスト転嫁であるという発想は、新鮮かつ鋭いものに感じました。目から鱗です。
これはコスト削減に真剣に取り組まれたからこそ出てくる発想ではないかと思います。
他の方のコメントも現場でひたむきに取り組まれているのがひしひしと伝わるものばかりです。すばらしい場を与えてくださった根本先生に感謝します』
Zさんもコメントの常連さんだ。感謝されて恐縮してしまう。コメントを寄せてくれた方々のお陰でこのメルマガもレベルが上がっているように感じている。
今日のポイント
最後は、初回にコメント紹介したKさんから再度いただいた。内容をさらに深堀した形でいただいている。少し長いですが、じっくり読んでください。
『組織内で規律を確保する、というのは手段です。では目的は? というと、あらゆる組織で共通して「利益の追求」です。
ただ、組織の扱う課題によっては利益が金銭に換算できないこともあります。同様にムリ、ムラ、ムダなども出費という金銭に換算できないこともあります。
本当はできるのですが、我々当事者に見る目、知恵が無いと「できない」と弁解しているだけです。
でも、知恵が足りなくても、ムリ、ムラ、ムダで利益が減るのを経験的に知っている私たちは、便宜上、象徴的に「規律」で説明している(つもりになっている)のです。
あらゆる組織が利益優先であることを テーマ「規律」のイメージとしてつながりやすい軍隊の例で書かせていただきます。
軍隊の活動は「抑止力」などの言葉のせいで利益が見えにくいですが、連結決算だと思えば見えてきます。
敵地に侵入して1千数百万の作戦経費で建設費数億円の橋を落とせば 数人程度の遺族年金を追加支出しても黒字です。
だからこそ少人数にこだわる事がありますが。 利益は見つけようと思えば見つかるものです。
あまり遠い世界の話ばかりでは参考にならないでしょうから、 規律とからめて「更衣」が上げられていましたので便乗して述べたいと思います。
更衣時間の扱いとかクリーンルーム作業手当てといった細かな問題を事前に予測できず、後から出てきてその都度解決した、というのでは猛反省すべきです。
既に損益分岐点が当初の計画からずれています。 ではどう考えれば良かったのでしょう。
更衣について検討無用だというなら、更衣室は作らずに野外で着替えれば良いわけです。
そもそも更衣室が「工場の設備として」必要なのか? この問いに対して、従業員福祉だの、公序良俗だの、性の尊厳だの、実体のはっきりしない幽霊におびえたり、目を反らしたりしてはいけません。
「工場の設備として」考える、というのは言い換えれば、「生産品の品質や生産量と更衣室/更衣にはどんな関係があるか?」です。
関係無いなら、野外で着替える、あるいは着替えそのものを否定すれば良いのですし、関係があると言うなら、特性要因図を描いてみても良いでしょう。
会社のカネで建てる設備なら当然、その先にある更衣室維持のランニングコストに目が行くはずで、その中で更衣室での作業員の振るまいは全て更衣に関係すること。
それならば「更衣」が作業であること、作業ならばコスト計算の対象であること。更衣のコストの多くは所要時間(稼動時間/稼働率)で測れること。更衣室やトイレ~製造現場の移動距離/移動時間もコストとして見落とさないこと。つまり、ダラダラと着替えないこと、不要品を持ち込まないこと、備品を持ち出さないこと。
最低でもこれらの指導内容たる「規律」が自然に導き出されるはずです。
「規律」というのは「公序良俗、性の尊厳」などと同様の文化的領分です。
私の経験から主観的に申しますが、文化的領分を工場などを含め、公共の場に持ち込むときは かなりの慎重さが必要だと思います(と過去に思い知らされました)。
文化を土台にして何かを為そう(例えば、規律を基にコストを下げよう)、という考えは とりわけ異国の地では危険です。米軍やISAFが中東、中央アジアで苦戦しているのは偶然ではありません。
一方で従業員によって持ち込まれた文化的要因(ほんのささいな習慣)が品質の低下(全滅)を招くことがあります。
「ナトリウムパニック」を検索語に調べてみてください。クリーンルームの理解が深まります。これを文化的要因が「もの作り」を阻む典型例として読みとっていただきたい。
こういった危険を避けるため、文化全般を詳細に疑い、基本的には否定する姿勢で臨み、上記のように、乱暴に、単純に考えることをおすすめします』
Kさんが「過去に思い知らされた」ことは、どんな経験だったのでしょうか。気になるのはわたしだけでしょうか。