ナノインデンテーション法とは ~原理編~
以前、ナノインデンテーションについて下記の記事が紹介されています。
https://tecdlab.com/2018/06/25/dictionary-ナノインデンテーション法%ef%bc%88nano-indentation%ef%bc%89とは/
今回は、ナノインデンテーションの原理について、もう少し詳しくレポートしていきます。
1.ナノインデンテーションとは?(おさらい+α)
2.ナノインデンテーションとビッカース硬さ試験の違い
3.ナノインデンテーション 硬さ算出の原理 ~各パラメーターの計算~
4.ナノインデンテーション 硬さ算出の原理 ~マルテンス硬さ/押し込み硬さの計算~
1.ナノインデンテーションとは?(おさらい+α)
ナノインデンテーションとは工業材料などの硬さを測定するための、【硬さ試験】と呼ばれる評価ツールの1種です。測定装置に、先端に極小のダイヤモンドを使用した突起状のダイヤモンド圧子(あっし)を取り付け、圧子を押し込むことで微小領域の硬さやヤング率を求めることができます。
硬さ試験にはいくつかの種類があり、測定する膜の材質や厚みによって試験方法を選びます。中でもナノインデンテーションは、スパッタ膜の硬さ測定など数十nm~数十umと特に薄い膜の硬さ測定に優れています。下記表のように、薄膜の硬さ測定でよく用いられるマイクロビッカース硬さ試験と比較しても、測定できる膜の厚みは、ケタ違いに薄いことがわかります。
2.ナノインデンテーションとビッカース硬さ試験の違い
ナノインデンテーション法では、圧子を押し込むときの荷重と圧子の押し込み深さから、計算のみで硬度を出します。(1)
ビッカース硬さ試験の場合、~1000gの荷重をかけ、ダイヤモンド圧子で測定する膜に四角錐の圧痕をつけます。そして圧痕の対角線の長さを顕微鏡で観察することで、硬さを算出します。
一方、ナノインデンテーションは、さらに小さな荷重(0.0005g~50g)をかけて試験を行います。そのため、圧痕が小さすぎて顕微鏡では観察・測定ができません。そこで、圧痕の面積を押し込み深さから計算で求めます。このときの押し込み深さは、静電容量型、光反射強度型のセンサーを使って検出しています。(2)
このようにナノインデンテーションは、顕微鏡で圧痕を測定して硬さを算出するビッカース硬さ試験とは、圧痕の検出方法が根本的に異なります。
次に、ナノインデンテーションの測定方法です。
圧子をサンプル上方から徐々に近接させ、サンプルの表面を認識します。
サンプルに対し、荷重をかけた際にサンプルがどれだけ変位するか(圧子をどれだけ押し込みやすいか)を計測します。(1)
試験の流れとしては、①荷重印加 ②最大荷重保持 ③除荷 というステップになります。
このような流れで、荷重と押し込み深さの変位をグラフ化すると、
下記のような荷重変位曲線が得られます。
次は、この測定結果からどのようにナノインデンテーション法で「硬さ」を表し、
他の硬さ測定結果と比較するか説明します。
3.ナノインデンテーション 硬さ算出の原理 ~各パラメーターの計算~
先程の荷重変位曲線を用いて、硬さの算出に必要な各パラメーターを計算していきます。
【必要なパラメーター】
・S(接触剛性)
・hc(接触深さ)
・hf(除荷後の変形痕の深さ)
・hmax(最大押し込み深さ)
・Pmax(最大荷重)
接触剛性(S):除荷の曲線の傾きより、Sを計算します。
接触深さ(hc):荷重変位曲線から求めたSより、接触深さ(hc)は下記で表されます。
(ε:圧子形状に依存する定数。バーコビッチ、ビッカース圧子は0.75)
また、荷重変位曲線から下記が分かります。
hf(変形痕の深さ)
Pmax(最大荷重)
4.ナノインデンテーション 硬さ算出の原理 ~マルテンス硬さ/押し込み硬さの計算~
ここで、ナノインデンテーションの測定方法のおさらいです。
ナノインデンテーションの測定は、
荷重印加 → 最大荷重保持 → 除荷 という3ステップになります。
(hc:荷重負荷時の接触深さ、hf:変形痕の深さ)
この測定によって、【マルテンス硬さ】【押し込み硬さ】の2種類の硬さで表現されます。
【マルテンス硬さ】
最大荷重をかけたとき、圧子の最大押し込み深さから計算される表面積をAs(h)とすると、マルテンス硬さ(HM)は次式で表されます。
マルテンス硬さは、最大荷重をかけたとき、圧子の最大押し込み深さから計算される表面積で割った値であり、塑性変形・弾性変形が含まれます。
【押し込み硬さ】
圧子と試験片が接している投影面積(除荷後の変形痕)をApとすると、押し込み硬さ(HIT)は次式で表されます。
※ビッカース圧子の場合、
※バーコビッチ圧子の場合、
押し込み硬さはビッカース硬さ(HV)と相関性があります。
そのため、HVに換算してビッカース硬さとの比較に用いられます。
※HVへの換算
[引用]
https://www.toyo.co.jp/microscopy/casestudy/detail/id=11479
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1989/51/3/51_3_255/_pdf/-char/ja
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