セラミックスの開発をスピードアップするための小技。

セラミックスの開発をスピードアップするための小技。

開発初期のあるある
粉の粉砕度合いを色で判断
スラリー分散性改善の形で判断
セラミックスの焼き締まりを感触で判断
先人の知恵を借りてスピードアップ

 
 

開発初期のあるある。

技術開発や製品開発の中で、特に開発初期の段階では、同時に似たような、調整という程には差が小さくないサンプルを大量に仕込んだりすることがあります。このようなサンプルは、味見と称してある程度大雑把に条件を振って、開発の方向性や状況把握のために行なわれることが多いと思います。技術に関わっていれば大なり小なりこのような状況の開発を経験された人も多いと思いますし、あるいは現在進行形で経験されているかもしれません。

サンプルの状態を評価するために機器分析等を用いたりするのですが、途中途中の評価というのは、単純にサンプル数が多ければその分多くの時間が掛かってしまいます。ところがそういう場合の評価は、大雑把な確認で十分である事が多い。にもかかわらず、味見的な簡単な判断で十分であるサンプルを時間を掛けてしまいがちで、評価時間が勿体無い。

開発の初期段階では玉石混淆の多数のサンプルから、有望なサンプルかどうか判断して、有望なサンプルだけを詳しく測定するという方をする方が、開発のスピードアップに繋がるスマートな行動といえます。そこで、セラミックスの開発のスピードアップ方法の中で、自分の経験で実際使用している小技例にちょっとだけ紹介したいと思います。

Potter's wheel

 

1.粉の粉砕度合いを色で判断。

セラミックス製品では原料紛を細かくするために、乳鉢で擦ったり、ボールミリングという方法を用いて粉砕、解砕を行います。それ自体時間が掛かる工程であると共に、どの位細かくなっているか知る必要があります。

粉の粉砕度合いの違いは、ミリング後に少量サンプリングして、レーザー式の粒度分布測定機を用いるのが一般的と思います。測定条件を間違っていなければ、粉の粒径の中央値や分布の幅などのデータが出てくるので、非常に重宝される測定方法です。ただ、適切な濃度の液体に調整する等サンプルの準備や測定、その後の後始末を考えると、大雑把に数値を知りたい時でも1件20~30分位は掛かるでしょう。実験の初期段階であれば、原料を製品において何時間、いや何十時間のミリングが必要か大雑把に目星をつけたい場合には簡単に早く判断したいと思うのが人情です。

そこで、幾つか条件で同時にミリング、出来上がったものを必要があれば少量乾燥して、色を比較する事で、ミリングの時間、条件が十分かどうかを簡便に比較することが可能です。といっても細かくしたいときの判断方法です。粉の粒度を正しい数字は判りませんが、細かくなっているかどうかを「色」で判断することが出来ます。もし乳鉢での作業なら、作業途中の色の確認が出来るので、非常に簡便です。

どの様な色の変化があるかがこの方法のポイントになります。色は赤から青に変わるという物では無いのですが、発色が変化することが多いです。灰色の粉が細かくなるに従い、より黒に近づいたり、白色だけど淡く黄色味の掛かった粉末でも、細かくなることで黄色の色味が強くなったりします。薄い蛍光ピンクの粉がハッキリとしてくるような感じで、希土類にありがちなパターンです。

 幾つかの条件を色の変化で判断して、発色の良さそうな条件のサンプルだけを改めて粒度分布測定機などで確認すれば、箸にも棒にもかからないような条件のサンプルは測定しないで済み、開発のスピードアップに繋がると思います。

Powder sample

 

2.スラリー分散性改善の形で判断

セラミックスを作る上で、原料粉末と溶媒、分散剤やバインダーと呼ばれる結合剤を混ぜてスラリー(原料など全部混ざった液体)を調合する事が多いのですが、これらが均一に混ざっているかどうかが最終製品の品質面で与える影響が大きいことが一般的には知られています。
均一に良く混ざっている状態を目指すのですが、先のミリングと同じように、開発初期では条件が決まっていない場合があります。また、分散剤という薬品が不十分ですと、同じように分散性が悪くなり、スラリー均質性を損なう事もしばしばあります。

さて、この分散性というものは厳密に評価するのが難しいことも多く、経験としてはスラリーの粘度測定を行いチキソ性(チキソトロピー)を見ることで評価することが多いです。回転粘度計をもちいて測定する方法を自分は良く行います。この測定も測定自体は10分程度で可能なので時間は短いのですが、やはり前準備、後処理等を入れると1件当たり30分位は欲しいところです。

そこで、提案する方法は平滑で平面なガラスなどにスラリーを適量(10円~500円大)になるようにスポイトなどを用いて滴下する方法がります。この方法の判定も至って簡単で、滴下したスラリーの形が真円に近づけば近い程、分散性が良く均質になっていると判断できます。スラリーが均質でないと、スラリーの一部の粘度が高かったりと、不均一のために流れ方が変わり、きれいな円にはならない事が多いです。紹介の方法は、大雑把な判断としてセラミックスの書籍にも載っています。滴下するだけで判断できるので、上記の色を見るのと同じように、あっという間に判断できる点でなかなか役に立つ方法です。30分の評価が1分以下で判断できる。10~20種類のサンプルがあったならば、節約できる時間は単純計算してもとても大きく、開発のスピードアップは明確でしょう。

slurry

 

3.セラミックスの焼き締まりを感触で判断

セラミックスの多くは原料粉を固めて、焼き締めて製作しますが、焼く温度は原料に影響されるます。他にも助剤と言われる1%以下の添加剤や粒子のサイズなど諸条件によって変化するために、開発初期ではどうしても多数組成や温度条件を評価することが一般的な開発手順といえます。基本的には焼いた後サンプルには気孔と呼ばれる材料隙間を少なくするのが肝要。スポンジのように水が入り込む余地はなくす事が大多数セラミックスの目標になっています。気孔がある場合は水などが入り込む余地が有り、気孔率(≒吸水率)という指標で評価をします。

気孔率の測定方法は1.重量気孔率方法、2.アルキメデス法、3.水銀気孔率方法などがありますが、一番簡単なのが1の重量気孔率で、外径サイズと重さを測定して計算して出した密度と真密度を比較し計算する方法ですが、真密度の数値が無いと判らない。しかし真密度が既知であれば最も簡便です。ただしサンプルがうねったり、反ったりサイズの測定が難しい場合には測定できない事も多いです。

2.アルキメデス法は最も標準的な測定方法と思います。サイズが測定出来なくても乾燥重量、含水重量、水中重量を測定できれば、吸水率は測定できます。ただ、含水重量の測定や水中重量の測定には、セラミックスの隙間に水を含ませるなどの作業と測定で、自分の経験ですとサンプルの測定に1時間程度かかるイメージですので、他の例に漏れず測定が面倒です。

3.水銀気孔率法は、水銀ポロシメーターを使いますが、その名の通り水銀を使用することもあり、測定にも時間が掛かるためやはり面倒です。また水銀には毒性があり、環境汚染を防ぐための法律が制定されている薬品なので、出来るだけ使いたくはないと思います。何れにせよ、測定には時間のかかる事が間違いないです。

そこで、焼いたセラミックスを舌で舐める、舌に乗せるという方法があります。上記2つ方法よりも更に簡単な方法になります。気孔の多い状態ですとサンプルが舌に張り付くような感覚が得られ、「焼きが甘いな」という感じに判断が出来ます。良く焼き締まっているものですと張り付くような感覚にはならないです。この方法なら数十個のサンプルも2~3分で判断が出来るため驚くべき開発スピードのアップに繋がります。冗談の様にも感じますが、よく行われた方法でした。本当に開発初期で使うかどうかですが、ケースバイケースでしょうか。

実際には重量気孔率の測定方法を使える事が多いので、実際に舐めるチャンスは少ないかもしれません。また、人体に影響がある物質は、舐めない方が良いかもしれません。ここまで読んで頂いた方なら、危ないかどうか調べるでしょうから、自己責任のもと判断できますよね?

tongue

 

先人の知恵を借りながらスピードアップ

ここでは3つの簡便な評価方法を例に挙げました。他にも色々な評価判断方法あると思います。またセラミックス以外の分野でも同じような例があると思います。他にどんな方法があるか、自身の周囲を見渡したとき、先生、上司、先輩方が良い方法を知っている可能性があります。先人の知恵を借りるつもりで相談すると良いと思います。

ただ、気を付けるべき点があります、評価方法で起こっている現象が論理的に説明できない様な方法も有るかもしれません。技術として説明がつかない方法は、技術者としては採用すべきではないと思いますので、論理的に説明付くかどうか考えて判断してください。挙げました3つの例も、それぞれの現象を論理的に説明つけられるので興味がある方は考えてみてください。また、論理的に説明がつけれられば、オリジナルの手抜き技を編み出して積極的に使用してほしいと思います。

長い長い開発において、測定や評価の正確性と時間との鬩(せめ)ぎ合いになることが多いと思います。割り切った判断が可能なら、感覚だけで素早く判断できる方法を用いる事で、開発のスピードアップに繋がると思います。開発に携わっている方、その中で時間に追われる方のヒントになれば幸いです。

Predecessor

 


創業40年の製造業。ダイヤモンド事業からスタートしたテクダイヤは、会社本来の「人好き」が作用し、人との出会いを繰り返しながら業態変化を続ける。 現在はセラミック応用技術・精密機械加工技術・ダイヤモンド加工技術をコアとしながら先端技術のものづくりを支える。スマホやデータセンターなどの通信市場、更にはNASAやバイオ領域にも進出中。