ものづくりに金融業界が果たす役割

ものづくりに金融業界が果たす役割

当初私たちは、この運動を「産官学」の取り組みとして考えていました。

ところが、せっかくインストラクターを育てても、肝心の中小企業主が消極的で、「うちは資金繰りと受注確保で手いっぱいだ。勘弁してくれ」と言って、尻込みする食わず嫌いの方が多いことがわかってきました。

地域の改善活動では「出口戦略」で失敗するケースが多いのです。

 

試行錯誤を繰り返しました。そして結局、やや強引ではありますが、地域の金融機関に参画してもらい、その融資先の改善を行うという形が最も効果的であるという結論になりました。

地域でリスペクトされている金融機関から、「お宅もぜひ力をつけてください」と言われれば、融資先の中小企業主にとって、その説得力は絶大です。

そこで、私たちも「産学官金」と言い始めたのですが、出口戦略における金融機関のはたす役割の大きさを思い知るにつけ、やがて「産金官学」と金融の位置を格上げすることにしました。

 

ただ、地域の金融機関の中には、横並び志向が根付いたまま、新しい取り組みに消極的であったり、改善と聞いてもバランスシートの改善しか思い浮かばないようなところも少なくありません。

現場の改善には、ものづくり現場の「流れ改善」、良い設計を引き込む「商売改善」、そして金の流れをよくする「バランスシート改善」の3点セットの連動が必要なのです。

バランスシートの改善ばかりを言っていたのでは、むしろ逆効果となり、融資先を破綻に追い込みかねません。

 

むろんそうした金融機関ばかりではなく、たとえば鹿児島銀行や伊予銀行、岡崎信金などのように、自ら現場改善指導力を持っていたり、あるいはその意思を持つ地域金融機関もあるので、地域金融機関の中でも意識が変化して、業界全体の重心がそちらに移ってくれれば良いと思っています。

実際に、地方金融機関の紹介で入った赤字中小企業に対して、ものづくりインストラクターがリードタイムの短縮を指導し、短期間で黒字化した事例も報告されています。

厳しい環境にある地域金融機関に一つの方向を示唆しているのではないでしょうか。

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出典:『<藤本教授のコラム>“ものづくり考”』一般社団法人ものづくり改善ネットワーク

一般社団法人ものづくり改善ネットワーク


一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長◎略歴 1979 東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社  1984 ハーバード大学ビジネススクール博士課程入学 1989 博士号取得 1989 ハーバード大学研究員 1990 東京大学経済学部助教授 1996 リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員 1996 ハーバード大学ビジネススクール客員教授  1997 同大学上級研究員  1998 東京大学大学院経済学研究科教授 2002 日本学士院賞/恩賜賞受賞 2004 ものづくり経営研究センターセンター長 2013 一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎主要著書 『製品開+B1発力』キム・クラークと共著,ダイヤモンド社,1993/『生産システムの進化論』有斐閣,1997/『サプライヤーシステム』西口敏宏、伊藤秀史と共編著,有斐閣,1997/『成功する製品開発』安本雅典と共編著,有斐閣,2000/『トヨタシステムの原点』下川浩一と共著,文眞堂,2001/『ビジネス・アーキテクチャ』武石彰・青島矢一と共編著,有斐閣,2001/『生産マネジメント入門(I)(II)』日本経済新聞社,2001/『能力構築競争』中央公論新社,2003/『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社,2004/『中国製造業のアーキテクチャ分析』新宅純二郎と共編著,東洋経済新報社,2005/『ものづくり経営学-製造業を超える生産思想-』東京大学ものづくり経営研究センターと共編著,光文社新書, 2007/『日本型プロセス産業』桑嶋健一と共著,有斐閣,2009/『ものづくりからの復活~円高・震災に現場は負けない』日本経済新聞出版社,2012/『「人工物」複雑化の時代』編著,有斐閣,2013/『ものづくり成長戦略――産・金・官・学の地域連携が日本を変える』柴田孝と共編著,光文社新書2013/『ホンダ生産システム』下川浩一らと共著,文眞堂,2013/『現場主義の競争戦略-次代への日本産業論-』新潮社新書2013/『ITを活かすものづくり』朴英元と共編著,日本経済出版社2015/『日本のものづくりの底力』新宅純二郎、青島矢一と共編著,東洋経済新報社2015/『建築ものづくり論』野城智也、安藤正雄、吉田敏と共編著,有斐閣2015/『ものづくりの反撃』中沢孝夫、新宅純二郎と共著,ちくま新書2016/『ものづくり改善入門』監修(一社)ものづくり改善ネットワーク編,中央経済社2017◎ものづくり改善ネットワーク