「ものづくり」とは何か?

「ものづくり」とは何か?

私たちが言う「ものづくり」とは、テレビなどが喧伝するいわゆる「職人の匠の技」といった狭い定義によるものではありません。

より日本の現場で実際に使われている用法に近いものです。

すなわち、設計論、生産管理論、経済学などにもとづく広義な概念で、生産現場のみならず、開発現場や販売現場も含みます。

 

こうした広義のものづくりは、「良い設計の良い流れによって、顧客満足、企業利益、雇用確保の『三方良し』を実現するための企業・産業・現場活動」の全体を指します。

付加価値は設計情報に宿っているので、「付加価値の良い流れ」を作るための現場主導の活動です。

すなわち、「ものづくりの現場」(以下「現場」)とは、「モノ」ではなく「付加価値」が生まれ流れる場所のことになります。

 

コップを例にとれば、顧客はデザインや飲みやすさなど、コップの機能を付加価値として評価します。

このとき、材料すなわち媒体が紙であれガラスであれ、どちらもコップと呼びます。つまり、コップとは設計情報の名まえです。自然石に水が溜まる窪みがあろうとも、それは「コップ」とは呼ばず、あくまで「石」です。

そこには設計者の意図が感じられないからです。

 

すなわち、「ものづくり」とは、媒体つまりモノに、設計情報つまり設計者の思いを作り込むことを指します。またこのとき、媒体が有形であれば製造業であり、無形ならばサービス業になり、設計情報が流れる現場という意味では、製造業とサービス業に違いはありません。

そもそもサービスとは、製造物の構造を操作することで発生する機能のことであり、一方製造業では、生産設備を操作することで発生した生産サービスによって製造物を作ります。

「サービスなくして製造なく、製造なくしてサービスなし」なのです。

 

製造にせよサービスにせよ、産業の課題は「良い設計の良い流れ」によって付加価値を生み出すことであり、これが国民経済の土台であると私たちは考えます。

 

出典:『<藤本教授のコラム>“ものづくり考”』一般社団法人ものづくり改善ネットワーク
一般社団法人ものづくり改善ネットワーク


一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長◎略歴 1979 東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社  1984 ハーバード大学ビジネススクール博士課程入学 1989 博士号取得 1989 ハーバード大学研究員 1990 東京大学経済学部助教授 1996 リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員 1996 ハーバード大学ビジネススクール客員教授  1997 同大学上級研究員  1998 東京大学大学院経済学研究科教授 2002 日本学士院賞/恩賜賞受賞 2004 ものづくり経営研究センターセンター長 2013 一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎主要著書 『製品開+B1発力』キム・クラークと共著,ダイヤモンド社,1993/『生産システムの進化論』有斐閣,1997/『サプライヤーシステム』西口敏宏、伊藤秀史と共編著,有斐閣,1997/『成功する製品開発』安本雅典と共編著,有斐閣,2000/『トヨタシステムの原点』下川浩一と共著,文眞堂,2001/『ビジネス・アーキテクチャ』武石彰・青島矢一と共編著,有斐閣,2001/『生産マネジメント入門(I)(II)』日本経済新聞社,2001/『能力構築競争』中央公論新社,2003/『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社,2004/『中国製造業のアーキテクチャ分析』新宅純二郎と共編著,東洋経済新報社,2005/『ものづくり経営学-製造業を超える生産思想-』東京大学ものづくり経営研究センターと共編著,光文社新書, 2007/『日本型プロセス産業』桑嶋健一と共著,有斐閣,2009/『ものづくりからの復活~円高・震災に現場は負けない』日本経済新聞出版社,2012/『「人工物」複雑化の時代』編著,有斐閣,2013/『ものづくり成長戦略――産・金・官・学の地域連携が日本を変える』柴田孝と共編著,光文社新書2013/『ホンダ生産システム』下川浩一らと共著,文眞堂,2013/『現場主義の競争戦略-次代への日本産業論-』新潮社新書2013/『ITを活かすものづくり』朴英元と共編著,日本経済出版社2015/『日本のものづくりの底力』新宅純二郎、青島矢一と共編著,東洋経済新報社2015/『建築ものづくり論』野城智也、安藤正雄、吉田敏と共編著,有斐閣2015/『ものづくりの反撃』中沢孝夫、新宅純二郎と共著,ちくま新書2016/『ものづくり改善入門』監修(一社)ものづくり改善ネットワーク編,中央経済社2017◎ものづくり改善ネットワーク