ものづくりニュース by aperza

揺れるシャープ再建、ホンハイか産業革新機構か、決め手は「液晶以外」 (...

2016/10/31 IT media

揺れるシャープ再建、ホンハイか産業革新機構か、決め手は「液晶以外」 (三島一孝,[MONOist])

 シャープは2016年2月4日、2015年3月期(2015年度)第3四半期の決算の発表と併せて、経営再建を共に目指す出資先についての交渉進捗状況について説明。現在、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と日本の産業革新機構の2社に絞ったことは認めたが、まだどちらの再建案を受け入れるかについては「決定していない」(シャープ 代表取締役社長 高橋興三氏)とし「今後1カ月以内に決める」(同)としている。

 シャープでは2014年度に巨額の赤字を計上したことにより2015年度は経営再建に向けた取り組みを推進。資本金の取り崩しや人員削減など構造改革を進めてきた(関連記事:“血まみれ”で夢を描くシャープ、止血策は十分か?)。しかし、巨額の投資が必要で環境変動の影響を受けやすいディスプレイデバイス(液晶ディスプレイ)事業の再建が最大の課題となり、単独での再建を諦め、外部からの出資を受け入れる方針としていた。

シャープの2015年度第3四半期決算(左)と通期業績予想(右)出典:シャープ
シャープの2015年度第3四半期決算(左)と通期業績予想(右)出典:シャープ

液晶ディスプレイ事業から、シャープ全体への出資へ

 当初はディスプレイデバイス事業の構造改革を中心に議論が進み、同事業への出資を受け入れることで売却し他社と合流する案などが検討されたが、交渉を進める中でシャープ本体への出資を受け入れる方向で話が進んでいるという。これらの中で浮上したのが鴻海精密工業と産業革新機構である。シャープの経営再建については、複数社との交渉を進めてきたとしているが、現段階ではこの2社に絞り込んで交渉を進めているところだという。

 高橋氏は「もともとは液晶ディスプレイ事業の構造改革の話で進んでいたが、想定した以上に、シャープの液晶ディスプレイ以外の領域についても多くの価値があると認めてもらえた。最終的にはシャープ本体への出資を検討する形で、鴻海精密工業とも産業革新機構とも話が進んでいる」と述べる。今後1カ月以内にどちらの再建プランを受け入れるかを決めるとしている。

鴻海精密工業とも産業革新機構が飲んだ3つの要望

 シャープでは経営再建に当たり具体的な3つの要望を出したという。1つ目が「シャープのDNAを将来にも残す」(高橋氏)ということだ。具体的には、投資家などが要望しているように、カンパニーごとに切り売りするのではなく、各事業の複合体としての現在のシャープの形を維持するということである。

シャープ 代表取締役社長 高橋興三氏

 高橋氏は「シャープのカンパニーや事業体は大きく分けて2つの運営手法の事業が混在している」と述べる。「1つは大きな投資が必要となるデバイス事業の液晶事業である。もう1つが民生製品などを含むプロダクツ事業である。電子デバイス事業などもあるが当社の電子デバイス事業は最初からデバイスを作るわけではなくモジュールである場合がほとんどであるので枠組みとしてはプロダクツ事業であるといえる。この2つの大きな事業体は分けて考える必要があるが、プロダクツ事業についてはそれぞれの事業を持つことでの相乗効果もあり、それがシャープをシャープたらしめているともいえる」(高橋氏)。これを条件として要望し、鴻海精密工業と産業革新企業ともにこれらの要求を飲んだとしている。

 2つ目が「従業員の雇用確保の最大化」(高橋氏)である。これには工場など生産地の雇用確保なども含むとしており、全体の人員数だけでなく拠点なども含めた形で受け入れることを要望したとしている。そして、この要望に対しても「2社ともに理解を示してくれた」(高橋氏)という。

 3つ目は、主に鴻海精密工業に対する要望だが「技術の海外流出の抑止」である。これについても、既にシャープでは鴻海精密工業と「堺ディスプレイプロダクト(SDP)」を2012年から共同経営しており「3年間共に活動を進めてきた中で、SDPが関わる大型液晶技術における海外への技術流出はなかった。そういう信頼関係はある。今後についても秘密は保持するということで理解を得られている」と高橋氏は述べている。

 これらの3つの要望に2社から理解が得られる中「出資金額だけでなく事業運営の面でもさまざまな好条件を示してもらっており、これらの中でシャープが将来も社会に貢献できることは何かを考えた場合、どちらが良いかということをあらゆる条件を精査しながら、決めていく」と高橋氏は述べている。

シャープはどちらと組むべきなのか

 これらの状況が出そろう中、シャープはどちらと組んで経営再建を目指すべきだろうか。今回の交渉の進捗報告で高橋氏が強調したのが「シャープのDNAを保持する」ということで、「そのためには複数の事業体がまとまった形を維持しなければならない」ということである。その例として紹介したのが、シャープがかつて掲げていた「スパイラル戦略」である。スパイラル戦略とは「先進的な部品を開発しその部品を元に特徴的な商品を生み出す」ということと「商品として使われることで部品の目標が明確になり性能や機能の向上を生み出す」という2つのことによりらせん状に製品力を高めていくということである。

 高橋氏は「各カンパニーを単独で分割すれば、投資家としての価値はあるかもしれないが、特徴的なシャープらしい製品を生み出すような原動力は失われる。デバイスから製品までを1つの企業体として抱えることが重要だ」と述べている。

鴻海精密工業はシャープの技術とブランドを熱望!?

 こうしたことから考えると、相乗効果を生みそうなのは鴻海精密工業であるといえるかもしれない。実際に現段階では「より多くのリソースを鴻海精密工業の条件の精査に使っている」(高橋氏)としている。

 鴻海精密工業は世界最大のEMS(電子機器受託生産サービス)企業である。現在も董事長(CEO)を務める郭台銘氏が1974年に24歳で創業し、約40年間で売上高15兆円以上という巨大企業となった。創業当時は樹脂射出成形を中心とした町工場だったが、1990年頃に米国コンパックからデスクトップPCの筐体製造と組み立てを請負い、EMS事業へと舵を切った。現在ではデスクトップPCやスマートフォン、デジタルカメラ、ゲーム機、ロボットなど多岐にわたる製品の製造を代行。特にアップルのiPhoneの製造を一手に引き受けていることなどが有名だ(関連記事:iPhoneを製造するフォックスコンは、生産技術力をどこで身に付けたのか?)。

 ただ、もともと鴻海精密工業の成長の原動力となったのは、中国語圏であることを生かして中国に早期に進出したことである。大規模工場で中国の安い人件費を活用し、圧倒的なコスト競争力でさまざまな製品の生産を受託してきた。しかし、中国の人件費が高騰する中でその強みは失われつつある。既にこれらの状況を踏まえて鴻海精密工業では、生産地のグローバル化や、生産の自動化などを進めてきており、これらは世界最先端の体制になっている。しかし、以前ほどの圧倒的な差別化は難しいといえる。鴻海精密工業では自社ブランド製品の展開やロボット事業などの新たな領域への進出など、さまざまな取り組みを進めているが、これらも新たな成長の柱とするにはまだ難しい状況である。

 こうしたことを考えると、鴻海精密工業にとってシャープのさまざまな技術力やブランド力、流通販路などは、魅力的に見えることが推測できる。高橋氏も「推測でしかないが、シャープの技術力やそれを生み出す人材、ブランド力などに意味を感じてもらえているのではないか」と述べている。

 ただ一方で、鴻海精密工業の傘下に入った場合のリスクもある。鴻海精密工業は巨大企業であり柔軟で迅速な経営判断なども特徴だ。今までにさまざまな企業の買収などを積極的に行ってきたが、不採算な場合の整理も早い。現段階では「シャープの現在の事業体を維持する」としていても、思ったほどの効果が得られないとなれば当然、事業閉鎖や売却などの話が進んでもおかしくない。また、同様に技術流出についても、現在はSDPが共同経営の形であるが、完全に傘下に入った場合には当然、鴻海精密工業が関連する液晶ディスプレイ事業にはシャープの技術が活用されることになる。その後は、どの程度まで技術の秘密が守られるのかというのは不透明な状況である。

産業革新機構と組む可能性

 それでは産業革新機構と組む可能性はどうだろうか。官民ファンドの産業革新機構はもともとは液晶ディスプレイ事業の再編に強い価値を感じており、傘下であるジャパンディスプレイ(JDI)にシャープの液晶ディスプレイ事業を合流させることを考えていたとされる。一方で、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電事業についても、東芝など他の日本企業と合流させようとしていたという。

 こうしたことを見ると、高橋氏が強調した「シャープのDNAを守る」という点から、産業革新機構の意向は合わないように見える。しかし、高橋氏は「産業革新機構からも白物事業の切り離しについての話はない」としており、白物家電を分割して再編する点については、産業革新機構は再建プランに入れていないようだ。

 高橋氏は「液晶ディスプレイ事業については将来的には他社との合流も視野に入れている」としており、ジャパンディスプレイとの統合については飲む考えのようだ。一方で、産業革新機構が白物家電の分離案を取り下げて、シャープが要望する「液晶以外の分野の一体経営」を飲んだとするならば、シャープにとっては産業革新機構の提案を断る理由はなくなる。また、鴻海精密工業との間に存在する技術の海外流出の問題も抑えられる。そのため「液晶以外」の領域に対する十分な出資と再建案、そして回収見込みなどが立つのであれば、産業革新機構がシャープの再建相手に選ばれることは十分あり得るだろう。

 いずれにせよ、液晶事業の構造改革は待ったなしの状況で、鴻海精密工業と産業革新機構のどちらの場合でも、他の企業との合流など抜本的な解決策が必要な状況だ。しかし、液晶以外の事業は、今回の2015年度第3四半期決算をみても「赤字の事業もあるが先行投資ができない中でも多くの事業が黒字を維持しており、潜在的な力はある」(高橋氏)としている。最終的には、この液晶事業以外の部分をどう生かし、成長させるかというプランに鴻海精密工業と産業革新機構を選ぶ基準が移っているといえるだろう。


製造業に従事するエンジニアを対象に、モノづくりの現場で働くスペシャリストの役に立つ技術情報や業界の最新動向を提供するメディアです。「組み込み開発」「メカ設計」「製造マネジメント」「オートモーティブ」の4つのフォーラムを中心に、基礎から応用まで多彩な技術解説記事、図版を多用した分かりやすいコンテンツ、話題のトピックスをより深く掘り下げた連載記事など、モノづくりに役立つ蓄積型コンテンツを充実させ、製造業における最新かつ専門性の高い技術情報を発信することで、技術者の問題解決をサポートしていきます。本サイトの名称は、“モノづくり(MONO)” と “~する人(ist)”の造語です。 http://monoist.atmarkit.co.jp/