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労働生産性と正味作業時間比率

労働生産性と正味作業時間比率

例えば、組み立て作業の最中に必要な工具がなく、作業者が20メートル先の保管庫にそれを取りに歩いているとします。

その間、作業(設計情報=付加価値の転写)を待っている仕掛品(媒体)が、作業場で漫然と時を過ごしています。あるいは、自分が担当する工程を終えて、次の工程へ運ぶため、彼は腰を庇いながら持ち上げ、台車に乗せて運びます。

これらの動作は必要な作業です。しかし、その間に情報転写は行われていません。にもかかわらず、作業者には余計な労力さえ強いています。

 

真に設計情報の転写が行われている時間、組み立てを行っている時間はどれだけあるでしょうか? その時間比率はどれほどでしょうか? その比率を正味作業時間比率と言い、トヨタなどが重視する指標です。

また他の要素を同じとするならば、正味作業時間比率が増えれば、ほとんどそのまま労働生産性も増えます。

すなわち、工具が手元にあったなら、台車と作業台に段差がなかったら、作業者への無駄な負荷が軽減されるだけでなく、それだけ生産性が向上するということです。

 

と言うと、そんなに細かいことを言ってもよくて数十%、2,3割の向上がよいところだろうと思われるかもしれません。それなら、作業者の動作をビデオに収め、実際に設計情報の受発信が行われている時間を細かくストップウォッチで計ってみてください。

実のところ、正味作業時間比率が10%を越える現場は極めて少ないのです。さすがにトヨタの最先端の現場では50%を越えると言われていますが、例えば輸出財製造業などの優良現場でもよくて20~30%で10%以下が大勢を占めています。

別の見方をすれば、これは大きな伸びしろと言えるでしょう。だからこそ現場改善を地道に続ける現場が生産性を2~3倍にするのは当たり前、5年で5倍、10年をかけて8倍にしたといった事例が現実のものとなります。

 

これは、作業者の労働時間から見たもので、これを加工される材料(媒体)側から見れば、付加価値を転写されている時間の比率は、コンマ以下のパーセンテージになってしまいます。グローバル競争の世界では、新興国の賃金は軒並みうなぎ登りです。これからはグローバル市場で生産性こそが競争原理になるでしょう。

現在、日本の輸出製造業が持つ生産性の優位は世界を圧倒しています。これを汎用的に知識化し、日本のGDPの大半を占めるサービス業にも移植し、サービス業の生産性も数倍に伸ばせるなら、労働人口の減少傾向にある日本でも、これからも世界に存在感を保てるでしょう。

あくなき探求が、これから数十年の日本経済を支えて行くのです。

Shomisagyo

出典:『<藤本教授のコラム>“ものづくり考”』一般社団法人ものづくり改善ネットワーク

一般社団法人ものづくり改善ネットワーク


一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長◎略歴 1979 東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社  1984 ハーバード大学ビジネススクール博士課程入学 1989 博士号取得 1989 ハーバード大学研究員 1990 東京大学経済学部助教授 1996 リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員 1996 ハーバード大学ビジネススクール客員教授  1997 同大学上級研究員  1998 東京大学大学院経済学研究科教授 2002 日本学士院賞/恩賜賞受賞 2004 ものづくり経営研究センターセンター長 2013 一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎主要著書 『製品開+B1発力』キム・クラークと共著,ダイヤモンド社,1993/『生産システムの進化論』有斐閣,1997/『サプライヤーシステム』西口敏宏、伊藤秀史と共編著,有斐閣,1997/『成功する製品開発』安本雅典と共編著,有斐閣,2000/『トヨタシステムの原点』下川浩一と共著,文眞堂,2001/『ビジネス・アーキテクチャ』武石彰・青島矢一と共編著,有斐閣,2001/『生産マネジメント入門(I)(II)』日本経済新聞社,2001/『能力構築競争』中央公論新社,2003/『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社,2004/『中国製造業のアーキテクチャ分析』新宅純二郎と共編著,東洋経済新報社,2005/『ものづくり経営学-製造業を超える生産思想-』東京大学ものづくり経営研究センターと共編著,光文社新書, 2007/『日本型プロセス産業』桑嶋健一と共著,有斐閣,2009/『ものづくりからの復活~円高・震災に現場は負けない』日本経済新聞出版社,2012/『「人工物」複雑化の時代』編著,有斐閣,2013/『ものづくり成長戦略――産・金・官・学の地域連携が日本を変える』柴田孝と共編著,光文社新書2013/『ホンダ生産システム』下川浩一らと共著,文眞堂,2013/『現場主義の競争戦略-次代への日本産業論-』新潮社新書2013/『ITを活かすものづくり』朴英元と共編著,日本経済出版社2015/『日本のものづくりの底力』新宅純二郎、青島矢一と共編著,東洋経済新報社2015/『建築ものづくり論』野城智也、安藤正雄、吉田敏と共編著,有斐閣2015/『ものづくりの反撃』中沢孝夫、新宅純二郎と共著,ちくま新書2016/『ものづくり改善入門』監修(一社)ものづくり改善ネットワーク編,中央経済社2017◎ものづくり改善ネットワーク