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シビレエイで発電する、驚きの発電システムを理研が開発 (三島一孝,[ス...

シビレエイで発電する、驚きの発電システムを理研が開発 (三島一孝,[スマートジャパン])

 水族館などで展示されているデンキウナギやデンキナマズ。こうした魚の電気を発電に生かせたら……。こうした発想は誰しもが子どもの頃に夢見たことだろう。これを現実のものにしてしまったのが、理化学研究所(理研)生命システム研究センター集積バイオデバイス研究ユニットのユニットリーダー田中陽氏らの共同研究グループである。

 デンキウナギやデンキナマズ、シビレエイなど強い電気を使って獲物などをとったり、身を守ったりする魚を「強電気魚」と呼ぶ。強電気魚は体内での変換効率が100%に近い効率的な発電を行っていることが特徴である。これはATP(アデノシン三リン酸)をイオン輸送エネルギーに変換する膜タンパク質(イオンポンプ、イオンチャネル)が、高度に配列・集積化された「電気器官」とその制御系である「神経系」を持っているからだとされている。共同研究グループでは、これを人工的に再現・制御できれば、画期的な発電方法となり得ると考え、シビレエイを対象に実験を行った。

シビレエイが発電する仕組み

 シビレエイは、デンキウナギ、デンキナマズと同じく強い電気を発生する強電気魚の1種だ。全長35センチメートルほどで、一部の種は日本近海にも生息している。今回使用した種の学名は「Narke japonica」だという。

 まず、シビレエイが発電する仕組みを説明する(図1)。

図1 シビレエイの電気器官と発電細胞 出典:理研

 シビレエイは通常時、細胞膜に存在するイオンポンプ(エネルギーを使い、イオンの能動輸送を行う膜タンパク質の総称。作用結果として細胞内外にイオン濃度勾配が発生する)がATPのエネルギーを使って、細胞内外でイオン差(電位差)を生じさせている。ここで、神経線維の末端から放出された神経伝達物質のアセチルコリンが細胞膜に存在するイオンチャネル(細胞内外のイオン濃度勾配によって、受動的にイオンを通過させる膜タンパク質の総称)を刺激。これにより細胞外にあるナトリウムイオン(NA)が一気に細胞内に流入し、電流が発生するという仕組みだ(図2)。

図2 シビレエイの発電の仕組み 出典:理研

 電気器官では、イオンポンプとイオンチャネルが細胞膜に多数集積することによって電流密度が増加する。さらに、細胞の直列積層により電圧を稼いで高出力発電が可能になっている。こうした「大規模集積構造」は天然にしか存在しないものだと理研は述べる。

 共同研究グループでは、田中氏らがこれまで研究してきた「細胞・組織機能のマイクロ流体デバイスへの実装技術」を応用することで、シビレエイの電気器官における高効率なATP発電システムが実現できると考えた。具体的には、シリンジ針を代替神経系に見立て、電気器官にシリンジ針を通し、それを押す圧力を利用し、アセチルコリンを器官全体に行き渡らせ刺激する方法を試みたという(図3)。

図3 シビレエイによる発電機のコンセプト 出典:理研

電気器官のみでもシビレエイは発電可能

 共同研究グループでは最初に、シビレエイ生体の頭部を継続的に圧迫する物理的刺激による電気応答を確認した。捕獲後数日以内の新鮮なシビレエイを用い、電気器官周辺部に導電布を貼り、頭部を手で継続的に圧迫刺激して電気的応答を測定した。

 その結果、10ミリ秒以下という短時間ながらパルス電流が測定され、ピーク電圧は19ボルト(V)、ピーク電流は8アンペア(A)となった。また、このパルス電流を利用してLEDの点灯やコンデンサーへの蓄電が確認できた。さらに蓄電エネルギーでLEDを長時間点灯させることやミニカーを駆動させることができたという。これらのことから、シビレエイの電気で電気器具が機能することを証明した。

 次に、シビレエイ個体から取り出した電気器官への化学的刺激による発電性能の測定実験を行った。取り出した電気器官は、人工脳髄液(ACSF)中で一時保存した後、導電布で挟み込み、上下それぞれに電極をつないだ。

 正極側からシリンジ針を7本刺し、1シリンジあたり0.25ミリリットル(ml)のアセチルコリン溶液を注入し、電気的応答を測定した。このとき、アセチルコリン溶液の溶媒はACSFを使用し、アセチルコリンの濃度は1ミリモル(mM)だった。その結果、ピーク電圧は91ミリボルト(mV)、ピーク電流は0.25ミリアンペア(mA)と低いものの、生体の場合より長い1分間以上もの間、電流が継続して流れた。さらに、針の本数を20本に増やすことで、ピーク電圧1.5V、ピーク電流0.64mAを達成したという。

 アセチルコリンを含まないACSFの注入では電流が発生しないことから、この現象はアセチルコリンの組織内拡散により起こると考えられた。電気器官をACSFで洗浄することで、再び同様の反応が得られた他、さらにACSFに浸しておくことで、1日以上経過した後でも電流の発生が確認できたという。

 これらのことから、電気器官が摘出後もその機能を保ち、繰り返し使用可能であることが明らかとなった。これにより、化学刺激コントロール型発電システムの基礎原理が実証されたといえる。

シビレエイ発電機のプロトタイプを作成

 次に、電気器官をデバイスに組み込んだ発電機のプロトタイプ作製を行った。先述した実験で発電自体は可能だったが、電気器官のサイズが一定でなく、シリンジ針を支持体なく電気器官に刺しているため、電圧・電流が電気器官ごとに安定せず、ノイズが発生しやすい状況にあった。これらを解決するには、一定サイズのデバイスに電気器官を組み込むことが必要となる。

 そこで、摘出したシビレエイの電気器官を3センチメートル角にカットし、これをアルミやシリコンゴムで作製した容器に固定。発生電力の安定化ならびに直列による電圧増強、並列による電流増強を調べた(図4)。

図4 実際のデバイス写真(右)と、直列デバイスの原理図(左)。3センチメートル角にカットした電気器官に電極をつなぎデバイス化する。このデバイスを直列につなぎ、2個あたり1本のアセチルコリン溶液の入ったシリンジを接続する。1個のデバイスに4本の細管からアセチルコリン溶液が注入される 出典:理研

 その結果、16個のデバイスを直列につなぐことでピーク電圧1.5V、ピーク電流0.25mAを達成した(図5)。

図5 電圧と電流の測定結果。ピーク電圧1.5V、ピーク電流0.25mAを達成した。 出典:理研

 一般的に電力を活用するためには、常時一定の電力が供給されることが必要となる。しかし、このデバイスで発電した場合、発生電力はアセチルコリン注入後から徐々に低下する。そのため、もしこのデバイスで発電した電力を使用するのであれば、蓄電が必須となる。そこで、デバイスを含む電気回路を構成し蓄電を行った結果、電力はコンデンサーに蓄電され、電池のように利用できることが実証できた(図6)。

図6 蓄電回路図(左)と発電電圧(V、青)とコンデンサ蓄電電圧(Vc、ピンク)。発電後、コンデンサーの電圧が上昇し、それが一定に保たれたことから電力を電池のように一定供給できる可能性を示した。 出典:理研

天然モノに頼らない開発を

 今回の研究は、ATPエネルギーのみで実現できる高効率発電機に向けた第一歩だと位置付けられる。しかし、シビレエイは安定・大量に入手できるものではないため、電気器官に相当するものを人工的に構築する必要がある。これを目指し、細胞膜やタンパク質の再構成手法とマイクロ・ナノ流体技術を融合し、分子からボトムアップ的に細胞機構を開発し、発電細胞と同様の材料を創出することを目指すと理研では述べている。

 ATPは生物には必ず含まれ、生物が関連するあらゆるところに存在することから、将来的には、このようなデバイスは、生体内の他、食物や排水など、さまざまな環境下に存在するATPやグルコースを利用した微小エネルギー駆動型の環境発電機として応用が期待されている。


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