IPGフォトニクスジャパン、加工用レーザーの最新トレンド解説(上)

IPGフォトニクスジャパン、加工用レーザーの最新トレンド解説(上)

「ファイバーレーザー」世界の主流に

レーザー技術は、既存の機械的な加工ではできなかった超精密加工や加工時間の短縮を実現し、加工技術に大きな変革をもたらした。いま、その加工用レーザーもCO2、YAGレーザーを超える「ファイバーレーザー」が世界を席巻し、新たな価値を生み出している。

ファイバーレーザーの世界トップメーカー・IPGフォトニクスジャパン(横浜市港北区)の菊地淳史取締役に、レーザー業界の最新トレンドを解説してもらった。

IPGフォトニクスジャパン取締役 菊地淳史氏

IPGフォトニクスジャパン取締役 菊地淳史氏

ビーム品質と出力がカギ

レーザーとは、媒体にエネルギーを加えて誘導放出現象を起こして光を出させ、それを増幅して放射する技術のこと。そこで発生したレーザー光は通常の光と異なり、特定の波長だけで構成され(単一波長)、直進性(指向性)とコヒーレンス(可干渉性)、高いエネルギー密度を持っている。特に加工用レーザーでは、レーザー光の広がり(ビーム品質)と出力が重要とされる。

例えば穴あけ加工では、高エネルギーのレーザー光をワークの一点に照射すると、その部分だけが高熱を発して溶け、瞬時に気体となって霧散し、結果として穴が開く。切断やマーキングも仕組みは同じ。母材または溶接棒を溶かして接合するレーザー溶接も同様だ。レーザー光の広がり径が小さければそれだけ精密な加工ができ、出力が大きければ加工時間の短縮につながる。

加工用レーザーとしてよく知られているのがCO2レーザーとYAGレーザーだ。CO2レーザーは二酸化炭素を媒体とした気体レーザーで、1964年に発明され、医療用レーザーにいち早く採用された。工業用レーザーとしても商用化は早く、1980年代には広く普及していたという。

YAGレーザーはイットリウム・アルミニウム・ガーネットの複合元素を結晶化したものを媒体とする固体レーザーで、高出力化に成功して90年代ころにCO2レーザーに置き換わる形で広く普及した。菊地氏によると「日本国内では長い間、CO2レーザーとYAGレーザーが加工用レーザーの主流を担ってきたが、近年それに代わる形で関心を高めているのがファイバーレーザーだ」という。

小さな装置で「細く」「強く」

優れた電気変換効率で冷却部を小型化でき、圧倒的に小さな装置でCO2レーザーやYAGレーザーと同じ出力を出すことができる。ビーム品質非常に優れた性能を有しており、容易に高輝度化も達成可能。光を並列に結合することで大出力化も容易。従来のレーザーよりも細くて強い品質の良いレーザー光を小さな装置で作れることが最大の特長だ。

原理が発明されたのは1961年。実際に製品が市場に出たのは2000年代初頭で、まだ20年もたっていない。それでも2018年の世界のレーザー加工市場26億ドルのうち、ファイバーレーザーのシェアは50%を突破。金属加工におけるレーザーのスタンダードになりつつある。

大手メーカーも力を入れ、ファイバーレーザー専業のIPGフォトニクスをはじめ、グローバルではドイツのトルンプ、アメリカのコヒレント、国内でもアマダ、三菱電機、ヤマザキマザック、村田機械など大手メーカーもファイバーレーザー加工機を投入してきている。

日本でもスタンダード技術に

グローバルではファイバーレーザーは加工用レーザーの世界標準になりつつあるが、日本市場では、例えば切断市場においては、いまだにCO2レーザーが多くを占めており、ファイバーレーザーはこれから。その理由について菊地氏は「日本はこれまで現場の技術者が優秀すぎた。海外ではファイバーレーザーを使わなければできない精密加工を、日本の技術者の発想と工夫でやれてしまう。だから技術を変える必要性を感じづらく、これが移行の妨げとなっていた」という。

しかし今、金属加工業界はベテラン技術者の引退と人手不足が深刻で、コスト的に安く、品質向上が目覚ましい海外企業に受注を奪われるケースも増えている。国内企業にとって正念場を迎えているが、菊地氏は「ファイバーレーザーがこの問題解決の一助になる」と期待を寄せる。

「すでに高い技術を持っている日本企業がファイバーレーザーを使いこなすことで、品質をもうワンランク高いレベルに引き上げることができる。さらに、加工速度が速く、エネルギー効率も良い。トラブルも少ないのでランニングコストも低く抑えられ、コストパフォーマンスに優れている。これからの金属加工には不可欠なツールである」と断言する。

「工具のように普及させる」

IPGフォトニクスは、ファイバーレーザー研究の第一人者で、現CEOであるガポンツェフ博士が1990年にロシアで設立し、現在はアメリカに本社を構える。ファイバーレーザーでは世界トップメーカーの一つだ。

全社のミッションとして「ファイバーレーザーを工具のように普及させる」ことを掲げ、低価格で世界に浸透させ、誰もが使っている状況の実現に向けて活動している。レーザーダイオードからファイバー、電源系にいたるまで、レーザーに関する技術と製品はすべて自社設計・製造の垂直統合型で取り組み、レーザー発振器やヘッド、チラーなどレーザーに関わるすべてのポートフォリオをそろえている。これまで世界500社以上の顧客に対し、2万1000台以上の製品を提供してきた実績がある。

日本市場でも自動車や自動車部品メーカーでは採用済み。今後は金属部品加工業をはじめ、造船や建築、橋梁、トラックや大型車両、航空機など大型の金属加工を必要とする業界に対してレーザー加工機を販売するほか、溶接機や溶接ロボット、工作機械や加工機械メーカーなどに対し同社の装置の組み込みを提案したいとしている。

 

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参考:IPGフォトニクスジャパン


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。