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経営革新は一流スポーツに学べ

経営革新は一流スポーツに学べ

多くの企業で講演会、改善事例発表会の場でスポーツ関係者の講演が組まれている。

私も幾度となく聴かしていただく機会を得た。実践に基づく内容であり、興味深いものが多い。

なぜ、このような場にスポーツ関係者の講演会が組まれ、企業関係者は何を得る目的があるのだろうか? この内容は以下の3点に集約されると考える。

 

1.夢を持ち、理論を実践した結果、目的の達成がなされている。可能性を信じて努力し、成果をあげる活動

2.成功体験を生かし、自分の持ち味をつかみ、今も人生にそれを生かしている

3.先輩、友人ライバルを尊敬し、後輩指導を含め人生をプラス思考で充実させている

 

講演内容が面白いのは理論に基づく技術開発とその実践の努力であり、優勝という結果と、達成した感激がその人の人生を形づくっているからではないだろうか? ここに、経営者的に参考とすべき多くの点があるように思う。

スポーツには個人スポーツと集団スポーツがある。その前に練習という体質づくりの努力がある。

個々に特性と問題取り組みへの努力と発想転換がある。

 

個人スポーツにおいては企業個々人の育成に参考とすべき点が多く、また集団管理は目標管理や部下、組織体の育成強化に参考とすべき内容が多い。

それらの内容を分析すると、そこにはある種の法則があり、企業で取り組まれている多くの事項と共通点が発掘、整理できる。

だから、講演会などにスポーツ関係者の講演会が組み込まれるわけである。

 

しかし、ここに問題がある。単に「面白い」「考え方が参考になった」という刺激だけで終わってはいないだろうか? 職業がらか? 筆者の場合(企業在勤のとき)スポーツで得た内容を問題解決手段に結び付けて利用してきた。

今も、企業支援の仕事をする中で一流スポーツから得た事例を、問題解決技法と共に活用し、効果を挙げている。

このような経験から、再度、各種スポーツ関係の講演会などで得た内容をマネジメント技術手段と比較し、整理してみることにした。

 

筆者も下手ながら、剣道を習っている。剣道では「3年かかっても良き師を探せ!」という言葉がある。

8年ほど前から剣道をスタートしたわけだが、幸いに良き師に恵まれ、現在6段に挑戦中の状況である。

進歩は早かった。しかし、自慢はできない。私が所属する道場では、初心者が剣道を始めて約1年で初段を取得している(他の道場では初段は3年程度かかる例もある)。

 

私とほぼ同じ頃始めた方々も皆、4、5段である。女性の5段も2名おられる状況である。

早い昇段の理由は、師が、科学的に剣道を指導される内容にある。目標管理制度を上手に個人管理に利用しているからである。

個人毎に課題を与え、練習指導する方式が腕の向上に大きく貢献している。

 

我々は剣道の専門家ではない。せいぜい週に1・2度程度の練習で段を所得していくわけであるから、正しい理合と実践が技術向上の効率に大きく関与する。

この内容は、私が企業を支援させていただいている内容に大変に似ている。

私は、また剣道で学んだ文化を、そのまま企業の指導の場で活用させていただいている。

 

企業指導の場では、現場の改善ステップを組み、目標を定め、宿題を進めるといった内容である。

コンサルテーションの場合、月に1日程度の指導で効果をあげるには、受ける側の信頼、努力と、改善メニューの合理性が重要課題となる。

師がなさっておられる剣道の指導と同様である。

 

指導の方法、内容が悪いと、それがそのまま顧客の改善スピードを遅くし、時には改善の方向を誤らせてしまう危険性すらある。

試合でライバルに負ける危険を招く。

このようなこともスポーツの方式を企業の体質改善活動に活用している例である。

 

「常に新しく、慣れは心の窓をくもらせる!」という格言がある。スポーツ界ではまさにこの格言の論理と実践が繰り返されている。限界と思われる内容も年々歳々更新されている。

選手は、常に手法の開拓と研究を心掛け、頑張っている。企業に取り入れるべき技術的な改善手段の宝庫である。

このような考えに立ち、筆者は本書にスポーツを経営に活かす点を整理することにした。

 

なお、本書では、多くの講演内容を紹介させていただくわけであるが、あえて講演者の実名は避けさせていただくこととした。その理由は、本書の目的が講演内容の一部、企業が体質改善・革新上で技術的に利用可能な部分を独断的に抽出していること、講演会の内容を私なりに解釈しているところがあるかもしれないし、この点で実名を挙げることが講演をされたスポーツ関係者個々人にご迷惑をおかけしてはいけないと考えたからである。

この点、関係者の方々にはご了解を願いたいと考える。

本書における取り組みの内容が、読者の方々のマネジメントや業務・仕事の改善に少しでもお役に立てば幸いである。

健康管理と企業体質改善

一時的に健康を害する例はあっても、スポーツを行う方々の健康状態が常に悪い状況でスポーツに打ち込むケースは少ない。

試合や、何らかの競技に参加する目的で運動をする選手の方々は、健康管理と練習にかなり注意をしている。

健康管理は、試合に臨む気構であり、身構えである。万全の体調づくり如何が試合結果を大きく左右することは自明の理である。

 

健康管理はスポーツ選手の重要な管理項目の一つである。

健康を害する理由を列挙すると次のような項目になる。

 

①無理をして、疲れがたまっているにもかかわらず、さらに無理を重ねたとき

②睡眠不足を重ねているとき(選手の場合は緊張感と興奮が関係する例が多い)

③環境に順応するべきなのに、対策を怠ったとき

④かぜ等の兆候が出ているにもかかわらず、対策をせずに無理を重ねてしまった時

⑤定期検診を怠り、病気にかかっているのに発見が遅れたとき

 

以上の内容は、個人の病気誘発に必ずと言って良い程関係している。一流スポーツ選手でなくても理解できる内容である。

この内容はそのまま企業の健康診断にも当てはめることができる。

具体例として、倒産企業の分析と企業の分析内容を例示することとする。

 

これは最近の新聞記事である(八起会報告『日刊工業新聞』’92年9月23日号の記事の要点、倒産企業の原因ベスト10、倒産企業の原因を会員にアンケートした内容を集計したものより抜粋)。

これらの内容はスポーツ解説者が負けたチームの監督や選手の状況を批判する内容に酷似していて面白い。

 

一位:経営者の高慢、経営能力の過信

二位:社員教育の不備、欠如

三位:事業目的、目標、計画性の欠如

(これに続くかたちで、業界情報の不足と環境変化への対応、新製品の欠如、技術開発の遅れなどの内容が報じられている)

 

以上3つの内容は先の①〜⑤の項目の前段階に存在するものの考え方の問題を示す内容で、多少専門的になるが、上記に対応する内容が以下に示す企業の健康診断項目である。

 

①経営分析による改善点の抽出(B/S、P/L分析を中心とする内容)

②製品分析を顧客志向の指標で評価・検討する分析

③生産の5要素(人の仕事の質・レベル、方法(標準化)の準備

 

程度、計測機器やポカヨケと呼ばれる不良撲滅・発生時点対策設備などの適用状況や計装管理の程度、機械化の程度、物・設計面の対策の5つの英語の頭文字を取り5Mという)を要素に。

Q(品質)、C(コスト)、D(納期と時間)、P(生産性)、S(安全性)、M(士気)などの経営指標との関連と、同業・類似企業比較。

 

④5S(整理、整頓、清潔、清掃、躾け)を中心に現場診断し、仕掛りを中心とするJIT(ジャストインタイム、多種少量切り換え生産や、生産に起因する問題の程度)の把握、TPMと呼ばれる設備故障対策と設備生産性向上対策状況、動作の経済性を整理・整頓面で評価検討する方式

このような診断方式は定点撮影法と共に最近有名になりつつある。他にも現場を通り診断する多くの方式がある。

 

⑤レイアウトに物流を描くなどして行う診断

⑥ビデオによるスローモーション分析、時間分析や問題の頻度・構成を見てグラフや図化を利用して問題点を表示・検討する方式

⑦情報の工程や、書類の情報処理・伝達・報告の状況と組織や管理・機械化の程度を見て管理面の程度を評価検討する方式

 

最近話題になっているリストラやISO9000s取得、IT活用はこの分野に含まれる。

なお、以上の項目は製造業を企業診断する際に用いられる診断技術項目である。

我々コンサルタントは、一般にこのような診断により企業が病気にかかっているか否かを、定量(半定量的なものもある)評価し、企業の改善点と体質改善メニューを提出している。

 

スポーツ選手のレベル評価同様、企業の場合も、これらの項目がある程度のレベルになっていない場合、短期的にその企業の状況が良く見えても後になってくると徐々に利益が出なくなってくる。

企業の健康向上(体質向上)にあたっては、自社に合う管理項目、管理レベルを評価し、維持向上を図ることが必要である。

この点はスポーツの健康管理の方式と同じである。ここで、先の健康な体をベースとして行う、スポーツの練習へ話を移すことにする。

 

企業が生産活動と共に行う日々の改善活動とスポーツの練習も極めて共通する内容が多い。

大略、次のような内容となる。

 

①「勝つためたゆみなく練習をする。いろいろとやるべきことはあるが……」

②「練習は一流ライバルをイメージに描いて、最終目標に達するためのメニューとスケジュールをつくり科学的にレベルアップを図る……」

③「練習はつらいものです。要は好きでないと、また、成功体験を生かして常にプラス思考で良いところを伸ばし、欠点をなくしてゆくという取り組みが大切です。一番大切なことは成功をイメージすることと、それへ向けての努力……」

 

練習は試合に勝つための重要な用件である。改善を計画的、意欲的に行うことは選手が勝つ必須条件である。

また、練習の上手な組み方は健康管理と体力・体質向上に直結している。私は「スポーツにおける練習は企業における改善活動と同じである」という見方をしている。

その理由は、企業が強くなるためには改善が絶対に必要になるからである。

 

体質改善という言葉は、まさにこのためにあるように思う。変化する企業環境は、丁度、選手が戦う競技場の状況と似ている。

体質強化・新時代への順応なくして企業の存続は有り得ない。勝つためには、日頃より体質改善項目を定め、イザという時を想定し、努力を重ねておく努力が必要である。

したがって、企業体質強化を効率よく進めるためにはスポーツにおける練習強化の考え方と進め方を利用すべきと考える。

 

たとえば、先の項目の③の考え方をここに利用すれば良いわけである。

「自分の特長をとらえ、良いところを伸ばしつつ、悪いところを少なくする!」という方式である。

企業体質改善戦略をつくる手法として有名なSWOT(強み、弱み、機会、驚異)分析は、この内容と全く同じ主旨を具体化した手法である。

 

この方法を使えば、少ない努力で効果的な結果が早く出るからであり、個々の企業体質に合った取り組みができるからである。

更に、①の基本的な内容をメニューとし、基本技を完全に身につけることも大切である。応用技は基本技が完全にできてから取り組む内容であり、基本技は多くの研究から体質改善に効果的な内容につながる。

そして当然、目標は②の一流づくりを目指した(組み合わせ)メニューとなる。企業もスポーツも、日々試合のみを行い、余力のないまま事後処理的な処理や反省、改善のないまま試合だけを繰り返す状況(企業では雑務に追われていて改善が進まない状況)では進歩も成果も得られない。

 

企業の場合はスポーツに比べて結果が出るのが遅く、わかりにくいことがある。

しかし、日頃の忙しさにかまけて改善を怠っていると、やがては他の企業に地位や市場を奪われる。

よく見ると、この内容もスポーツより企業が学ぶべき内容である。更に、その練習内容の良否、すなわち改善の対象と項目の良否、スピード(効率)にも企業は注意を払う必要があるように思う。

 

以上は日々の練習を通しての体質改善である。ここで、そのような練習の先にある技術革新の取り組みについてコメントすることにする。

技術革新の実践は他社をリードする大きな内容である。この対策には設備投資の一面と活動方式の面がある。

先に活動の面に関し解説することにする。

 

スポーツにおける強化練習が活動内容として注目される。技術革新のスタートの前には優秀選手の獲得、プロジェクトを組む体制が必ず必要になる。

この内容は企業において集中的に問題解決を図る手段と同じであり、手段としては、スポーツにおける強化合宿が技術革新の一つとなる。

一般に、日々の練習で、多少のレベル向上は図れても、なかなか記録の壁は破れない。企業でも技術革新に当たっては、無理にでも「余力づくり」を行い、人と時間を集中して結果を出す取り組みが必要となる。

 

これはスポーツの強化合宿練習と同等の内容である。スポーツでは、一般に、本当に隠れた力をつけるための合宿のやりかたはあまり公開されてない。

この点は、野球などでリタイアーされたコーチの方々の講演会でお話を聞くと、その内容の深さと工夫、報道陣との断絶の方式を含めて、多くの参考点がある。

さらに、技術革新には、もう一つ重要な道具の開発が関与している。

 

昨今の陸上競技やテニス、ゴルフ等に見られ例である。靴や道具の技術革新が記録を大きく更新し、スキー競技や自動車では道具の革新が勝敗を左右する! 状況である。

スポーツは一般に単純な構成をしてる。道具を使ってもせいぜい一つか二つである。

記録を更新する理由は、練習メニューと道具の発達が大きく関与していることに注目すべきである。

 

企業では一時効果を挙げる対策を「カンフル剤投入!」という言い方をする。薬剤の利用である。

スポーツでは禁止事項である。企業でも弊害が多い事項である。企業ではこの点も参考にすべき事項ではないだろうか?

さらに、技術革新のために大切な要因が追加される。スポーツの世界ではスポーツ・ドクターにより、健康管理には測定器具が使われる。

 

スポーツ選手の健康管理と練習成果の把握のためである。ビデオ解析や、筋肉機能の反応評価、温度や血圧計等を活用している。

この面も、注目すべき道具の革新の一面がある。例を挙げることにする。

相撲に筋肉強化のため各種のウエイト・トレーニング機器を利用することを始めたのは近年のことだそうである。

 

伝統的な相撲の世界では過去の練習方式だけでなく、この方式を活用するようになってから小さな関取が優勝戦線に出てくるようになった。筋肉トレーニングの成果である。

 

この内容は、企業における製品の評価技法の開発・充実に当たる。優れた評価手段を持つ企業が優秀な製品や体質改善を効率よく進める内容に酷似している。

スポーツでは機器を利用した評価技術の革新が急速に進展している。

特に、選手の強化練習に当たって、医学的、定量的に練習の内容(成果)を解析したり、筋肉の構造と特徴を客観評価しながら物事を進めるやり方は、ここ数年目ざましい進展である。

 

企業で秘密で進めているこの分野の改革にも、スポーツにおける見方、考え方を利用すべき点が多々あるように思う。

講演の内容や、映像などで紹介された内容を見ると、この例は多々ある(この具体的な取り組みは後で詳説する)。


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/