感覚を対象にした高付加価値化で何かが大きく変わる

感覚を対象にした高付加価値化で何かが大きく変わる

「感覚」を前面に出した高付加価値化では、従来の延長線上にはない商品開発が展開される可能性がある。

マスカスタマイゼーションが今後の方向性とするならば、従来にはない、予想外の展開もあり得る。

高付加価値化を目的とした「変化」に注目する、という話です。

 

1.軽いと手触り感などの感覚も影響を受ける

「うわっ、これ、めちゃくちゃ軽いですね。」

お客様の開発部門へお邪魔した時、新たに開発されたポータブルのAV機器の筐体を手にした時の感想です。

今でも、その時の驚きを覚えています。

ある大手電機メーカのポータブルのAV機器の筐体でマグネシウム合金製でした。

従来は、鋼板を加工するのが一般的でした。

 

このサイズならば、この程度の重さという感覚を誰でも持っています。

従来の材料をベースにして、経験的に体感している「感覚的な」重さです。

この場合、鋼の重さを基準にしたものだったわけです。

鋼の比重が8程度に対して、マグネシウム合金では約1.8です。

そしてマグネシウム合金の比強度は合金種にもよりますが、鋼対比で同程度が上回る材料です。

マグネ合金は、軽くて、意外と強い材料です。

一方で塑性加工が難しい、切り粉が発火の原因になる、材料費が高くなる、という種々の解決しなければならない問題点はあります。

 

ですが「軽さ」から生み出される付加価値は魅力的です。体感してすると納得です。

高温域での加工技術を開発して、常温での塑性加工の難しさを克服しました。

 

こうして出来上がった、そのポータブルのAV機器も当然に軽かった。

軽いと、手触り感も変わってくる気もします、さらに、音なども(かなり気のせいですが)スッキリ聞こえるような感じもしました。

 

みなさんも手にした時の感覚で、他の感覚も影響を受けたことってありませんか?

例えば……、手間がかかって大変でしょうが、「木製」の筐体というのも面白いかもしれません。

手にしっとり来る手触り感、金属ではない温かみのある触感が期待できます。

それを手にしていること自体が楽しい携帯機器になるかもしれません。

製品の軽量化に限らず、様々な目的で、多様な材料が適用される可能性を探りたいです。

 

材料置換=軽量化というのが、公式のように頭に刷り込まれてることが多いと思います。

重い、軽い以外の、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に訴える材料置換もあります。

そして感覚に訴える付加価値は高いです。

 

高付加価値化を考える時には、従来の経験則から判断された「この製品はこの材料できている」という思い込みを取っ払うことも必要かもしれません。

顧客に届けたい「コト」、顧客に届けたい利便性や楽しみから発想します。

 

自社製品を構成している材質を見直してみます。

従来対比で、軽量化の感覚、手触りの感覚、振動の感覚、見た目の感覚、打撃した時の音の感覚等が、顧客の利便性、快適性へ、なんらかのプラスに作用する要素はないでしょうか?

 

材料置換が感覚的な高付加価値化へつながる可能性を探ります。

今すぐに実現することは無理かもしれませんが、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に訴求する高付加価値化です。

 

ちなみに、先のマグネ合金製のAV機器筐体ですが、新技術であるが故に、量産立ち上げ後、予想外のトラブルが多発、欠品を避けるため、現場も大変苦労していました。

「今、むちゃくちゃ大変なんですけどね。やっと製品も店頭に並んだようです。この製品紹介パンフを見て下さい。」

と担当の方が手渡してくれたパンフにはしっかりと材料置換の話が掲載されていました。

その方は嬉しそうな顔をしていました。

モノづくりで苦労した人でないと実感できない喜びです。

 

2.自動車が鉄の塊という思い込みを取り払う

さて、先の軽量化されたポータブルAV機器を手にした感覚から、他の感覚も影響を受けた経験を申し上げました。

軽いと手触り感も音なども変化する感じがする。

こうした「感覚」は、今後の高付加価値を考える上でのキーワードのひとつになりそうです。

 

自動車でも「感覚」に訴えることを目的にした材料置換の提案事例があります。

 

クルマの未来を映すコンセプトカーでは「やわらかい」クルマも登場している。

電気自動車の(EV)ベンチャーのrimOnO(東京)が5月に発表した小型自動車「rimOnO」。

外板を指で押すと深く沈み込む。

ふわふわの外装は一般的なウレタンにテント用の布張りで着せ替えができる。

デザインを担当した根津孝太取締役はトヨタ自動車のデザイナーだった。

根津取締役は「街で止めてボディーに腰かければソファーのように休憩できる」と話す。

2007年にホンダが東京モーターショーで発表した燃料電池車「PUYO」。

外板をシリコン樹脂で覆い、文字通りプヨプヨしていて柔らかく、樹脂の奥からヘッドライトが優しく光る。

(出典:日本経済新聞2016年8月5日)

 

日本経済新聞に取り上げられていた2事例ともに「やわからかい」クルマです。

クルマは鉄の塊=固いものという概念を打ちこわして、ユーザーの五感に柔らかさを訴求します。

「やわからかい」コンセプトの車が主流になるとは思いませんが、多様な潜在ニーズの中には、柔らかい、温かい、優しい、クルマがあるかもしれません。

そして、こうしたニーズを実現させると、このようなクルマになるのかも。

 

けれども、自動車は強度が必要であるから、柔らかい材料を主体にしたクルマは、そもそも安全面から考えてありえないだろう……。

と、考えるのは早計なようです。自動車業界での熱いテーマの「自動運転車」があります。

今年5月にフロリダ州で発生した交通事故で、運転支援機能が搭載されたテスラのセダンのドライバーが死亡しました。

まだまだ、自動運転技術の検討課題は山積した状態です。

そして、問題をひとつずつ解決し、進化していくのが技術。

 

将来的には、事故を起こさない、衝突しないクルマが「普通」になる時代が来ないとは言い切れません。

そうなると乗る人を守る外板や車体の骨格の役割が変わるかもしれません。

センシング技術が進化して、ぶつかる恐れが限りなくゼロに近いクルマが生まれたら……。

安全を維持するための高強度の必要性は低くなります。

事故もほとんど起きないので車を修理すること自体が不要になります。

その結果、整備しやすさ等も考慮せずに、設計者は思いっきり「柔らかい」クルマを設計できます。

 

こうした流れを受け、ある素材メーカー幹部のコメントしています。

 

「紙のクルマが走るということはないと信じているが、自動車メーカーがどう考えているのか必死で情報をあつめている。」

(出典:日本経済新聞2016年8月5日)

 

590MPa、980MPa、1180MPa、1470MPaとハイテンの高度化を進めてきた新日鉄をはじめとする多くの鉄鋼メーカーは自動車業界に多くを依存しています。

鉄の役割が少なれば、鉄鋼メーカーの死活問題です。

先はまだまだ読めませんが、この幹部のコメントはもっともです。

 

「感覚」を前面に出した高付加価値の事例では、従来の延長線上にはない商品開発が展開される可能性があります。

マスカスタマイゼーションを今後のモノづくりの方向性とするならば、予想外の展開が十分にあり得ます。

 

5年先、10年先を見通して「変化」をとらえます。

高付加価値化を目的とした「変化」に注目です。

 

まとめ。

「感覚」を前面に出した高付加価値化では、従来の延長線上にはない商品開発が展開される可能性がある。

マスカスタマイゼーションを今後の方向性とするならば、従来にはない予想外の展開もあり得る。

高付加価値化を目的とした「変化」に注目する。

 

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出展:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)